第3話 わたしはあなたと親しくなりたい!
私、赤城玲香は何事にも無関心な子供だった。趣味や特技も特になければ、人にだって興味がなかった。
だから、自分に対する悲観的な言葉でさえも、どうでもいい、くだらないと割り切ってしまっていた。
「赤城玲香って知ってる?マジで最低だよ、あいつ。この前も、由香の彼氏奪ったんだって」
「えー!?マジ最低じゃん!ちょっと可愛いからって、調子のりすぎ」
「だよねー。性格悪いじゃんあいつ。近づかない方がいいよ」
奪ったんじゃない、なんか向こうが勝手に告白してきただけだ。私は何も悪くない。
中学に入っても変わらない。こう言ったくだらない悪口は小学生までだと思っていたのに残念だ。
バサッ、となにやらかたい、それでいて紙のようなものが頭に当たる。なにかと思いそちらを見ると、教科書のようだった。
「あっ!ごっめ~ん赤城さん!それ、とってくれる?」
振り返って見るとそこにはショートカットの女子とロングヘアの女子生徒がいた。最近なにかと突っかかってくる人達だ。だが私は名前を知らない。知る気もない。
「これでいいかしら」
私は教科書を広い彼女たちに渡すと、2人はニヤニヤしながら「どーもー」と言った。私は用済みとばかりにさっさと教室を出る。
「本当に無能なのね。もっと自分のために時間を使ったら?」
これは忠告だ。彼女たちに対するせめてものお情けのつもりで、私は去り際にこう呟いた。
「調子のってんじゃないわよ…」
後ろで、そう言っているのが聞こえた。
「男子、あんなののどこがいいんだろ?」
「どうせ顔でしょ。性格も見てるんだったら絶対選ばないもん。あんなクソ女」
ひそひそと、私が通る度に言われる言葉に、よくもまあ飽きもせず言えたもんだと軽くあしらい教室に入る。早く学校なんて終わればいいのに。毎日が退屈だ。
「あれ…やりすぎじゃない?」
ふと、そんな声が聞こえた。声の主をチラリと見ると、視線があった。間違いない。私のことを言っている。やりすぎ?なにが…私はとりあえず席につこうと自分の机を見る。
「…」
クスクスクスと笑い声が聞こえる。後ろを見ると、さっきの彼女たちが笑っていた。確かめるまでもない、彼女たちがやったのだ。
私はすぐに彼女たちから視線をはずすと目の前のラクガキだらけの机をふいた。
「ざまぁ。見て、拭いてるよw」
「ほんとだ~きったなw」
「でも、お似合いじゃない?」
「確かにw」
ゴシゴシと、なかなか落ちない、油性だろうか?
私は聞こえないふりをして、拭く作業を続ける。
でもやはり、いくら聞こえないふりをしても、目の前のラクガキは嫌でも目に入るわけで…。
誰がビッチだ。性に目ざといのはおまえらの方だろ。
誰がクソ女だ。こんなことをしてるおまえらがクソだっていう自覚をもったほうがいい。
誰が死ねだ。死ぬべき人間はおまえらのほうだ。
誰が、誰が、誰が…。
バサッ!
教科書とは違う、何かが落とされた音。私は頭上のゴミ箱を見つめた。
「ほ~ら、ゴミまみれ!あんたにはお似合いでしょ?」
周りにくしゃくしゃにされた紙が転がっていく。私がそれを拾うとまた彼女たちは笑いだした。
「ちょっ!これはさすがに…」
「やめなよ!言ったら、あんたまで虐められるよ!?」
どうせ誰も助けてくれない。
「なにあれ?汚ったなー」
皆私を笑っている。
手を握りしめると、痛いほどに爪がくい込む。
唇を噛み締めると、ほんのりと血の味がした。
結局私は怖いのだ。こいつらに歯向かうことができない。強がることしか、できないのだ。
誰か、誰でもいい。誰か、わたしを…。
「ちょっ!?あんた、何してんの!?」
視界に入った、凛とした目。細長い綺麗な指は、止まることなく目の前のゴミを拾っている。私はその光景が信じられず、しばらく呆然と見ていた。
「聞いてんの!?あんた何して…」
「何って、ゴミ拾いだけど」
「はあ!?あんた、こいつの味方?」
「味方?いや、このゴミ、私の机にまで侵食してるから、拾ってるだけだったけど」
そういえばこの人は私の前の席の人だ。さすがの私でも前の人の名前くらいは覚えている。確か…高坂舞…だったはずだ。
「いやでも…赤城さんと一緒にいたら、あんたも…」
そうだ。私といたら高坂さんまでいじめられてしまう。自分のせいで他の人にまで迷惑がかかるのは嫌だった。
すると高坂さんは視線を1度こちらにやった後、真っ直ぐに隣の2人を見据えた。
「私、そういうの興味ないから」
突如放たれたその言葉に、私ははじかれたように顔をあげた。すると、無表情な、だがどこか意思のある瞳とぶつかった。
眩しかった。私もこんなふうになりたいと思った。
自分の意思をもった少女。自分の意見をまっすぐに、相手にぶつけることができる。
そんなあなたを、私は…。
「そう!あの時の高坂さんはまるで地上に舞い降りた天使!!凛とした目にスラッとした体型!ほんともうあんなやつらと並ぶと高坂さんの輝きはまたいっそう増し、誰もが目を奪われるほどの圧倒的存在感が…」
「あー…うん」
という赤城さんの回想を聞くこと30分。それはそれは熱く語ってくれた赤城さんはまだまだ語り足りないのかついには身振り手振りを使い訴えかけていた。
「そうだねー。そんなこともあったねー…」
そんなことあったっけ?いかん、思い出せん。なにせ中学の頃の私はリア充を見つける度にマジ突然隕石があの2人の間におちねーかなーとかを本気で思ってた時期だったからな。そんなことまで覚えてない。
だが、それよりもまず気になるのは…。
「じゃあ、私と宇城くんの邪魔をしてたのは?」
「宇城くんなんかに高坂さんという高貴なるお方はもったいないわ」
「じ、じゃあ、お弁当の件は…」
「なんで高坂さんがお作りになったお弁当をあんな下等生物が食べるの?身の程をわきまえた方がいいわ」
とのことだった。
「で、でも…宇城くんのことを悪く言うのは…」
「高坂さん、あなたは優しいのね。でも大丈夫よ。私があんな奴からあなたを守るから」
とキラキラした目で言われた。
なんだろう、強く言えない。自分に好意をよせてくれている相手には強気にでられない…。ていうか、
「私、女の子なんだけど…」
「今の時代に、男も女も関係ないわ!」
え、そうなの?私が男しか見ていない間に世間ではそんなことになっていたの?
いよいよ混乱がピークに達してきたときに、「舞~?そろそろ授業始まるよ~?」という声が聞こえた。私を呼んでくれる人なんて1人しかいない。花梨だ。
私は「わかった!」と返事をすると、逃げるようにその場を後にした。途中、赤城さんが私を引き止めたような気がしたが振り返らずに走った。
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