第2話 わたしの初めてはおまえじゃない!

あいつ、マジで許さん。

授業が終わった放課後、わたしは1人自分の机に突っ伏していた。

理由は明白。入学式から1週間たった今でも、宇城くんに近づけていない…いや、近づけないからだ。

「あのクソ女…マジで許さん…」

と、今日だけで何度思ったか分からない言葉を呟く。

入学式から1日目、配られた配布物に名前を書いていくお決まりの行程の際、宇城くんは何やら隣でごそごそしていた。何事かとそちらを見ると、まだひとつも名前を書いていない。もしや、と思い、わたしは宇城くんに嬉嬉としてそれを渡そうとする。

「宇城くん、これネームペン…」

「あっ、ありがとう」

お礼を言われたはずなのに、私の手元からネームペンが消えることはなかった。それもそのはず、宇城くんは私より先に赤城玲香のネームペンを受け取っていたからだ。私は怒りを覚えた頭を何とか落ち着け、苦笑いで赤城玲香の方を一瞥した。まぁ、まだ初日だし?仕方ないよね。その時はそう思っていた。

2日目。次は移動教室である。私は宇城くんを誘った。

「宇城くん、次移動だから…」

「昴、次の授業の先生が、あなたを呼んでいたわよ。恐らく荷物持ちでしょうから、私も手伝ってあげるわ」

この女、私の邪魔をするどころか、自分優しいアピールまでしてきやがった。しかも昴呼びしてるところがまた一段と腹立つ。2日目にして、既にきれかけている私がいた。

3日目。一緒に帰ろうと誘おうとしたところに、例のごとくあの女はいた。私はきれた。そこにはメス狐に魅了されかけている宇城くんの背を前にして、持っていたカバンをドサリと落とす、敗北者の姿があった。

そして4日目、5日目と邪魔をされ続けた結果、また月曜日にかえってきた。

「なんなんマジであいつこれだから顔がいいだけの性格ブスはそういうタイプは後で絶対宇城くんにバレて酷い目にあうんだよ知ってるんだから私ていうかあいつ私と宇城くんが話だした途端に自分も話にはいってくるしおーこわこわこれだから独占欲が強い女子は宇城くんもかわいそー」

ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ…。

駄目だ…キリがない。

とそこへ、教室の扉がガラッと開いた。私は今のを聞かれていたかと身構えたが、入ってきた人物を見て安心した。

「まーた1人でブツブツ言ってんの?」

「花梨~聞いてよ~」

そう言うと、吉川花梨は私の隣の席に座った。そこは宇城くんの席だけど…まぁ、花梨ならいいか。

吉川花梨は私の幼なじみである。色恋沙汰にしか興味のない私とは違い、花梨は成績優秀でスポーツ万能、中学そして現在高校でもクラスの委員長を務めている。私の数少ない、いや、女友達は花梨しかいなかったわ。

「それで、今回はどうしたの?」

「花梨~実はさ…」

と、私は花梨に全てを話した。それはもう、赤城玲香のこととか赤城玲香のこととか赤城玲香のこととか、だ。全ての話を聞き終えた花梨は「なるほどね~」と言ってしばらく思案した後、何かを思いついたようにしたり顔をした。

「だったらさ!お昼を狙えばいいんだよ!」

「ああ…確かにお昼ご飯はまだ誘ったことなかったや。でも無理だよきっと。あいつの邪魔がすごいもん、絶対」

「別に一緒にっていうのを目的にしなくても良いんじゃない?」

「どういうこと?」

意味がわからない、といった感じで問い返すと花梨は何やらカバンの中をごそごそすると、とある雑誌を取り出した。「これで意中の彼をGET!」というキャッチコピーが書いてある辺り、まあ、そういう雑誌なのだろう。花梨はその雑誌をパラパラとめくるとあるページを私に突きつけてきた。

「っ…!これって!!」

「そう!お弁当、だよ!」

そこにはお弁当を渡している女子と、恥ずかしそうにして受け取っている男子の姿があった。「好きな子からもらうお弁当はドキドキするはず!」という煽り文句まで書いてある。ていうか、「はず」ってなんだよ。そこは言いきれや。

「でも、お弁当って、重くない?まだ会って1週間だよ?」

「ほら、宇城くんって、お昼いっつもそこら辺のパンじゃん?体調くずすよとか何とか言って、自然に渡せばいいんだよ」

「なるほど!ありがとう花梨!」

そう言って私は席から立ち上がった。すぐにお弁当箱を買いに行こう!

「花梨、また明日!」

「うん、気をつけて帰るんだよ~」

そうして私は教室を出た。早速明日作ってこよう。あの女、どんな顔するかな~?私はニマニマする顔をおさえながら走っていた。




翌日・昼休み

授業が終わると早々に、私は宇城くんのもとへ行った。

「宇城くん、良かったらお昼ご飯、一緒に…」

「昴、私今日は食堂に行ってみようと思うのだけれど、一緒に行きましょう」

予想通り、赤城玲香が現れた。いつもならここで私は歯を食いしばって見ることしかできなかったが今日は違う。

そう、今の私には最終兵器があるのだ!

「そうだね。僕も食堂…」

「宇城くん!これ、良かったら…」

私はできるだけ大きな声で宇城くんの気を引くと、予め準備してあったお弁当を赤城玲香にも突きつけるようにして渡した。

「え、これ…僕に?」

「うん。宇城くん、いっつも買ったパンとかだから、栄養偏るかなーって思って!」

そう言ってニコリと微笑むと、宇城くんはふわっと笑った。

「ありがとう。じゃあ、今日はこれをいただこうかな」

っしゃあ!と、心の中でガッツポーズを決める。見たか赤城玲香!おまえの食堂より私のお弁当を選んだのだ!勝った!勝ったぞ!!わーはっはっはっはっはっー!

「高坂さん!」

はっはっはっー…ん?気のせいだろうか、今赤城玲香が私を呼んだように聞こえたのだが…。

私は赤城玲香の方を見た。すると彼女は今まで見たこともないくらい顔を真っ赤にして怒っているように見えた。

「ちょっと来てもらってもいいかしら?」

「え?ちょっと…!?」

返事をする前に手を捕まれ、ずんずんと引っ張られて行ってしまう。不思議そうな顔をした宇城くんが1人、見送っていた。


「どういうつもりかしら?」

学校の一角、中庭にて赤城玲香は開口一番そう言った。

「どういうつもり…とは?」

無論、なんの事かは分かっている。恐らく私が宇城くんにお弁当を渡したことが気に入らないのだろう。いやいや、何しようが私の勝手じゃん。付き合ってるとかならまだしも…え、いや、付き合ってないよね?

急に出てきた想像に戸惑っていると、赤城玲香は私をキッと睨むように見つめた。

「とぼけないでもらえるかしら?さっきのお弁当のことよ。これ以上宇城くんに、近づかないでもらえるかしら」

ほらきた。おーこわ。これ、漫画とかでよく見るやつだ。何コイツ、嫉妬心の塊かよ。

「別に何しようと私の勝手でしょ?それにほら、宇城くんも喜んでたし」

「そもそもあなたと宇城くんじゃ不釣り合いなのよ。一緒に居るべきじゃないわ」

その言葉に私はきれた。

「はあ?なにそれ。それ言ったらあなただって不釣り合いよ。宇城くんかわいそー。赤城さんも宇城くんのこと好きなの分かるけど、ちょっとやりすぎじゃない?」

「…は?あなた何言って…」

「いつもいつも…私の邪魔をして…そっちこそ、何様のつもり?私、あんたのこと邪魔邪魔で仕方ないんだけど」

「?高坂さん。何か勘違いをして…」

気づけばもう、自分でも歯止めがきかなくなっていた。私は1週間のストレスを一気にぶつける。

「いいかげんにしてよ!!こっちは必死だっつーの!あんたなんかと違って、私は本気で宇城くんのことが好きなの!」

「こ、高坂さん?」

「今日だって…一緒にお昼食べようと思ってたのに…」

「高坂さん!」

「あんたも宇城くんのこと好きなら、正々堂々勝負しなさいよ!」

「私が好きなのは、あなたなの!」

「そうすれば私も…え?」

突如放たれた言葉に理解が追いつかない。え?何?聞き間違い?

すると目の前の少女、赤城玲香は、顔を先程とは少し違う様子で真っ赤に染めて、口を開いた。

「あなたが…好きなの」

再び放たれた言葉に、私は愕然とした。





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