わたしがモテたいのはおまえらじゃない!
白咲実空
第1話 わたしはおまえにだけは負けたくない!
男の子から告白される。女の子にとってこれほど嬉しいことはない。告白され慣れていないならば、どんなに見た目が悪い奴でもキラキラと輝いて見える。
お昼休みも終わろうというある日の中庭。目線の先には恥ずかしそうに顔を赤らめた人が意を決した様子でこちらをまっすぐと見つめ、こう言った。
「好き…だから」
告白だ。まぎれもない告白だ。誰がなんと言おうとこの状況は告白だ。
だが、だ。私はこの状況に嬉しいという感情は抱かなかった。いや、抱けなかった。告白され慣れている、という訳ではない。むしろ初めて、初告白である。
だが、だ。だがである。感じているのは戸惑い、ただ1つなわけで。
「私と、付き合ってください!」
私は、告白された。女の子に。
私、高坂舞16歳!今日から高校1年生なんだ!さて、彼氏何人できるかな?
そんな今どきの少女漫画でもいわないような台詞を心の中で思いながら、私は桜並木を意気揚々と駆け抜ける。
日差しが眩しいな~。桜綺麗だな~。高校に入ったら何の部活に入ろう?運動系は恋愛関係厳しそうだからないとして、そうなると文化系…。吹奏楽部とか人多そうだし良いんじゃない!?でも私楽器吹けないしなぁ~。
「ねえねえ、たっくんは?何の部活入るの?」
「俺は入らないよ。だって、おまえと一緒にいる時間が減るだろ?」
「や~だ~!何言ってんのよ~も~!」
目の前を、カップルが横切って行く。私はそいつらの背を思いっきり睨みつけた。
「なにあれこんな公衆の面前であんなに広がって歩かないでくれるていうか今の彼女見た目からして絶対ギャルじゃんうーわスカート短か私の方がまだ長いっつーのあんなん先生もさすがに見逃してくれないでしょはい残念初日から生徒指導お疲れ様でーすていうか彼氏も彼氏よ見る目ないわー」
なんてことを言わずあくまで心の中で思っとく私ってなんて偉いのかしら!さっすが私!
と、いつも通りの嫉妬が始まった。そう、私高坂舞は、彼氏なんていたこともなければ、告白だってされたこともない。16年間一度も、だ。
小学校ではなんか付き合うことがムーブみたいになった時期があった。その頃はまだよかった。みんな付き合ってもすぐ別れるから、別に1人付き合ったことがなくても平気だった。
異変がおきたのは中学の頃である。好きな人がいないと生きていけない、そういう人はどこに行っても存在する。そしてそういう人が集まった集団、いわゆる女子グループのリーダー的存在の塊が、廊下ですれ違いざま、私に向かってこう言ってきた。
「あの子ずっと彼氏いないらしいよー。」
「え、嘘!?かわいそー」
「でも確かに、あんなの好きになる人いなさそー、なんとなくだけど」
激しい怒りを感じたのを覚えている。腹いせに コンビニで1番高いアイスを買ってやったことも覚えている。
そして私は誓った。あいつらに勝つと。勝って今度は私がおまえらを見下してやると。だが、学年が上がっても、私に彼氏ができることはなく、ただただリア充を見れば腹がたっていくだけになっていった。
「高校こそは、リア充になる!リア充王に、私はなる!!」
そう宣言して、私は新しい世界へと、一歩を踏み出した。
勢いよく教室のドアを開ける。少し怯えた様子を見せた近くの少女を無視して舐め回すように生徒(男子)1人1人を見る。
あっちで皆と談笑しているのは、見たところチャラ男っぽい。だが、ああいうタイプは話しかけやすい。誰にでも優しいのが特徴だ。
その隣で1人本を読んでるのは、陰キャっぽいが、メガネごしでもイケメン感が伝わってくる。既にクラスの女子の何人かも気づいているようだな。抜け駆けされないように、要チェックだ。
あっちにいるのは、カワイイ系か?ああでも、周りに女子がたくさんいる。今更入っていくのは無理だろうな。
一通りの観察を終えたところで、私は自分の席につく。と、その瞬間、私は勢いよく身体を隣の席へ向けた。
なんだ、この美少年は!?とても整った顔だが、カワイイ系ではない。カッコイイ系、というか、自然っぽい…あれ?自分でも何言ってるか分からなくなってきたぞ。ていうか、あまりにクラスを隅々まで見すぎて、自分の席の周りを確認するのを忘れていたのか…。なんて誤算…!!
ガン見していた私に気づいたのか、隣の席の人がこちらを向いた。
「えっと…隣の席の人…だよね?僕は宇城昴。これからよろしくね」
名前からしてもうイケメンがすごい。ていうかガン見してたことを追求してこないとか神か。あっそうだ、名前名前…。私はコホンと1つ咳払いをすると、にっこりと微笑んで返した。
「私は高坂舞。よろしくね」
「うん。よろしく、高坂さん」
「ところで宇城くんってー…」
そう、話そうとしたところで、私と宇城くんの間を何かが通り過ぎた。
ながれるような黒髪にキリッとした目、凛とした佇まいに目を奪われる。どこからどう見ても美少女。その一言につきる。
「宇城くん、私もあなたの隣の席の赤城玲香よ。よろしくね。」
隣の席…。そうか、1番端でもない限り、宇城くんの隣の席はもう1つあるか…。当然だよね…。ん?でもまてよ?なんで隣の席ならわざわざ私と宇城くんの間を遮るように立つ?隣の席から話せや。おい、そこどけ。いやでも宇城くんに悪い印象を与えるわけにはいかない。ここは笑顔で…。
「赤城さんか~。よろしくね!私は高坂舞!」
「僕は宇城昴。よろしく」
「名前でいいわ。」
「そっか、じゃあ僕も昴でいいよ。よろしくね、玲香」
は?なんか名前で読んでるんですけど。 ええい、私も負けてなるものか。
「宇城くん!私も舞って…」
「玲香はどこの部活入るの?」
「私はまだ決めていないけれど…昴は?」
「僕は…」
ってぇ!なんかめっちゃ話進んでるんですけど!?何この女…。早速私の邪魔を…。
私は赤城玲香と名乗った女を睨みつけた。もちろん宇城くんにバレないように。だが当の本人はそんなの気にした風もなく宇城くんと話し続けている。それを見て私は決めた。
絶対こいつにだけは負けない…。
そう決めて、私は早速こいつの対策を頭で考え始めた。
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