謝罪
「あぁ? 誰だよお前?」
「俺が誰かなんてどうでもいいだろ? その手を離せって言ってるんだ」
どうして? 私はもうその事しか考えられなかった。どうしてここに蒼空が来るの? どうして蒼空が私を助けようとするの? どうして見て見ぬふりをしないの? そんなことばかり考えていると、さっきまでずっと震えていた足の震えが止まっていた。
「お前、なめてんのか?」
「お前こそ日本語が分からないのか? 俺はその子を離せって言ってるんだ」
「そんなに離して欲しけりゃ離してやるよ!」
「きゃっ!?」
そう言うと柚希の腕を掴んでいた男は、柚希の腕を振り払うようにして柚希から手を離した。その乱暴さで柚希は尻もちをつくような形で転んでしまう。
「離してやったぜ? それで? 今からの俺の相手はお前がしてくれるんだろうな?」
そう言って指の骨をポキポキと鳴らして蒼空を威嚇する。私は立ち上がることも忘れて蒼空の方を見ると、視線の高さはちょうど蒼空の足が見える高さであった。だからこそ、気付いてしまったのだ。蒼空の足は震えていた。それもそのはずだ。蒼空は誰かと殴り合えるような性格はしていない。そんな人が見るからに喧嘩慣れしていそうな人にすごまれて怖くないはずがないのだから。
「…………」
「おい、お前こそ日本語が分かんねぇのか? 柚希の代わりにお前が相手になってすれるんだよな?」
「一つ忠告してやる。俺はお前に声を掛ける前に警察に連絡しているぞ? お前こそずっとここにいるのは都合が悪いんじゃないのか?」
「はっ。そんな嘘に俺が騙されると思ってるのか?」
私の腕を掴んでいた男が蒼空に近づこうとした時だった。
「蒼空逃げて!」
私がそう声を出すと同時に遠くの方からパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。まさか本当に蒼空は警察に電話をしていたの!?
「おい、こいつまじで警察にいってやがるぞ! 逃げるぞ!」
「ちっ。クソが! 覚えとけよ!」
そう言って私に絡んできた男達は走ってこの場から去っていく。助かった……いや、違う。私は助けられたのだ。私があの女に復習するために利用した蒼空に。
「はぁ……怖かった……。早く立てよ」
「……うるさい」
「気をつけろよ」
蒼空は私が立ち上がるのを見ると、それだけ言って私に背を向けて歩いて去っていこうとする。
「ちょっと待ちなさいよ! 本当に警察に連絡していたの?」
「いや、してないよ。あのサイレンは偶然だよ。近くで交通違反でもあったんじゃないのか?」
違う。私が本当に聞きたいのはそんなことではない。警察を呼んでいなかったというのに、あのタイミングで近くでパトカーのサイレンが鳴ったという偶然には驚きだが私が聞きたいのはそんなことではない。
「……どうして?」
「?」
「どうして私を助けようとしたの!? あんたは私の事なんて嫌いなはずでしょ!!」
「正直に言うと嫌いだ」
当然だ。私はあの女に復讐するためだけに蒼空を利用した。それで蒼空を傷つけた。そして、蒼空にとって大切な人も傷つけた。今でも復讐しようとさえ思っている。そんな女のことを好意的に思えるわけが無い。
「なら、どうして」
「嫌いだからってお前が辛い目にあっていい理由にはならないだろ?」
「!?」
私は蒼空のこの言葉を聞いて、つい先日にも同じようなことをあの女からも言われたことを思いだしていた。なんなのよこの2人は……。私をこれ以上惨めにしないでよ……。私は目の奥から込み上げてくるものを我慢するのに必死になっていた。
「それじゃあ、俺もう行くから」
「……待ちなさい」
「? まだ何か」
「……ごめん」
私はそれだけ言って蒼空に背を向けて走っていく。あの女に謝って欲しいって言われたから謝った訳ではない。私は自分にそう言い聞かせていた。なら、どうして私は蒼空に謝ったのだろうか? そんな答えのでないことを考えながら走っていると気付けば自分の家の前に着いていた。私は考えるのを早くやめたいがために素早くシャワーを済ませてベッドに潜り込むのだった。
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