最低

 あの女に話しかけられてから私は毎日変なことを考えるようになってしまった。考えないように意識していても気がついたら考えてしまっている。


「……なんで私はまだ復讐しようとしてるんだろ」


 私はあの女を許さない。みはるの仇だ。絶対に許さない。あんなやつ……私はあの女に復讐をしようとしているが、どうしたいのだろうか? 何をと聞かれれば復讐だ。でも、どうやって復讐してやろうかと言うのが分からないのだ。私はあの女にどうなって欲しいのだろうか? 少し前までなら死ねばいいと思っていた。でも、今は……分からない。死ねばいいとは思うが殺してやりたいとまでは思わなくなってしまった。


「何なのよほんと……」


 何もかもが中途半端だ。私は復讐のためなら何だってするつもりだ。その為にもクズに成り下がった。人を復讐の道具のようにも扱った。身体だって、好きでもない男に差し出した。これだけのことをしておいて、私は今どうしてこんなにも中途半端なことになっているのだろうか。ダメだ……このままではダメになってしまう。何がダメになるのかは分からないが、このままではいけない気がした。


 今は家にいたくなかったので宛もなく夜の散歩に出かけることにした。今の時刻は21時過ぎだ。歩いていても仕事帰りの疲れ果てたサラリーマンか、塾帰りの学生。悪ぶっている派手な格好をした人達。前者2人は目標があって頑張っているのだろう。けど、後者は何を考えているのだろうか? 何も考えていないというのなら今の私には羨ましくて仕方ない。私もそんな風になれたら私も苦労はしないのに。


「あれ? お前、柚希か?」


 そんなことを考えていると派手な格好をした人達のうちの1人が私に声をかけてくる。その男には……いや、あの派手な格好をした人達は全員見覚えがあった。直接話したことなんかは無かったけど、私はあの人達を知っている。あの人達は……優吾くんといつも一緒にいた人達なのだから。


「やっぱり柚希か!」


「柚希ってあれか? 優吾の元カノの?」


「ちっげぇよ。あいつは優吾のセ〇レだよ! 優吾が復讐とか何とか言ってるような暗いやつと付き合うわけねぇだろ!」


「確かにな! てことはよぉ、あの女は誰にでも股開く女ってことだよな?」


「そういうことだな!」


 そんな下劣な会話をしながらも、あの派手な人達が私の方へとにじり寄ってくる。逃げないと……そう思っても足が震えて言うことを聞いてくれない。ふざけるな! 私はこんなやつら好きにされてたまるか! 頭では強気でいても、体が言うことを聞いてくれない。そうこうしている内に男達は私の目の前までやってくる。


「それじゃ、場所を変えようか?」


「ふ、ふざけるな! 誰が行くか!」


「おうおう、怖いねぇ。それとも何か? こんなところでヤリたいのか? とんだ変態もいたもんだな」


 そう言って目の前の男達は笑い出す。最低だ。私は今、自分の目の前にいる男達が私と同じ人間であることを心底信じられないでいる。


「ほら、さっさと行くぞ!」


「痛っ! ちょっと、離して!」


「さっきからうるせぇぞ。お前」


「っ!」


 誰か助け……ダメだ……。周りにいる人達は誰も私と目を合わせてくれない。私だって同じ立場だったらそうしたであろう。自ら進んで厄介事に首をツッコめるような人なんて世の中にはそうそういないのだから。あぁ、そうか……これは報いなのか。さっきはこいつらのことを最低だと言ったけど、自分のことを棚に上げて私は何を思っていたのだろうか。こんなことなら、あの女に言われた通り蒼空に謝っておけば……。


「おい、その子を離せよ」


「……蒼空?」


 私は幻覚を見ているのだろうか? 私を助ける理由なんてこの世の中を探しても1番無いと言える人物がそこにはいた。

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