惨め

 一週間前。つまり、それは私が優吾くんに裏切られた日だ。やっぱり見られていたんだ。それをわざわざ一週間も経った今聞いてくるなんて……。この女は一体何を考えているの? 私をコケにしたいの?


「いきなりごめんね。放っておこうとも思ったんだけどやっぱり放っておけなくて……」


「……」


「宮崎さんがすごく辛そうな顔してたから……」


 そう言って私を見るこの女はどこか痛ましげな目をしていた。私は心配されているの? 私があなたと蒼空にしたことをもう忘れたの? それを覚えていながらもそんな顔で私を見ているの? 


「……ぶさけるな」


「え?」


「私に何があってもあんたには関係ないでしょ!」


「!?」


「私の事は放っておいて!」


 ……惨めだ。よりにもよってこの女にこんな顔で心配されるなんて。私はこの女に復讐すると誓ったのに、その女に心配されるなんてこれ程までに惨めなことがあるだろうか? これじゃあ、私が一人で駄々を捏ねているみたいじゃない。ふざけるな。私はあんたに心配される筋合いなんてないんだ! だから、そんな顔で私を見るな! 


「……ごめん」


「話は済んだでしょ? 早くどっか行きなさいよ」


「……うん。でも、何かあったらいつでも言ってね」


 そう言って今度こそ私の前から去ろうとする涼風いのり。そんな私達のやり取りを見て陰口を叩くクラスメイト達。本人達は小声で言っているようだけど全部聞こえている。いや、本人達も私に隠す気もないのかもしれない。そんなクラスメイト達を困ったような目で見ていたからだろうか? 私がこの女に声をかけてしまったのは。


「ちょっと待ちなさい」


「ん? どうしたの?」


「あんた怒ってないの?」


「怒ってるよ」


「!?」


 私が問いかけるとこの女は今にでも襲ってきそうな顔つきで私の方を見ている。そこまで怒っているのならどうして私を心配したような素振りをするのか。私にはもうこの女の考えている事が分からない。私が憎んでいるように、この女も私のことを憎んでのは間違いない。なら、どうして私に復讐をしようとしないの? もう本当に意味が分からない。


「でも、同時に感謝もしてるの」


「……は?」


「宮崎さんのおかげで私は本当に大切なものに気づけたんだから」


 そう言ってこの女は蒼空の方に顔を向ける。その視線の先にある当の本人は机に突っ伏して寝ているようだが。それが今は非常にいらだたしい。


「それに、宮崎さんには十分な仕返しをしたしね。だから、私の中ではもうあの事は終わってるの」


「怒ってるんじゃないの?」


「私が怒っているのは宮崎さんが蒼空にまで手を出したからだよ。私にしたことはもういいけど、蒼空にはきちんと謝って欲しい」


 確かに私はこの女に復讐をしたかっただけであった。そこに蒼空を巻き込んだことについては優吾くんに裏切られた今なら罪悪感が無いこともない。でも、私が今こんな目にあっている原因は呑気に机に突っ伏して寝ているあいつのせいだ。だから、私が謝るなんて事は絶対にない。


「絶対に嫌よ」


「だったら私は宮崎さんを許さない。でも、だからって宮崎さんが辛い思いをしていていい理由にはならないから何かあったらいつでも相談してね。相談相手くらいにはなれると思うから」


 そう言って涼風いのりは私の前から去っていく。もう呼び止める理由もないから、呼び止めるようなことはしないが。そもそも私はどうしてあの女にあんなことを聞いたのだろうか? いくら考えても答えは出ることがなく、今日一日の学校生活が終わってしまった。無駄な時間を使った。私が考えないといけないのはどのように復讐するかであってこんなくだらないことじゃない。


「絶対に……絶対に復讐してやるんだから……」

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