初デート(後編)

 マンションからショッピングモールに辿り着くまでにした会話がまさかの天気の話だけというありえないくらいに気まずい空気のままショッピングモールに着いてしまった訳なんだが.......。


「えっと.......いのりは服が見たいんだよな?」


「う、うん」


「それなら.......すまん。女の人用の服だとどういう店がいいのか分からん.......」


「あはは。まぁ、蒼空だからね」


 今日初めていのりが笑ってくれた。たったそれだけのことなのに今はそれが無性に嬉しい。少しだけこの気まずい空気が和らいだような気さえする。


「まぁ、私も色々と見たいから適当に見てまわろっか?」


「了解だ」


 と言っても、どういった店を見たいのかなんて分かるわけもないのでいのりの一歩後ろを歩いていたのだが、


「ねぇ、蒼空」


「なんだ?」


「これだと私がすごく偉そうなんだけど?」


「いや、だってこっちの方がいのりの見たい店に行きやすいかと思ったんだけど.......」


「はぁ.......はい」


 そう言っていのりは俺に手のひらを差し出してくる。なんだろうか? とりあえずよく分からないので俺はその上に手を置く。犬なんかによくやらせるお手みたいになっちゃってるんだけど.......。


「いや、なんでそうなるの!?」


「へ?」


「普通に手を繋いでくれたらいいでしょ!」


「あっ、そういうことか」


 そりゃ普通に考えるとそうだよな。一体俺は何をしているのだろうか? どうやら俺は自分で思っている以上に恋人として、いのりと2人で出掛けることに困惑しているらしい。


「なんか、変な感じだね」


「ほんとにな」


「一応私達も付き合い初めて1ヶ月以上は経ってるのにね」


「そうなんだけど.......前までは付き合っていると言ってもそんな感じじゃ無かっただろ?」


「まぁ、そうだね。なんか、勢いで付き合ったみたいな感じだったしね」


「改めていのりを恋人として見ようと考えると変な感じがするんだよなぁ」


「じゃあ、別れて前までみたいに幼馴染でいる?」


 まぁ、確かにそれなら多少な気まずさは残るかもしれないけど楽ではありそうだ。頭ではそう思っているんだけど感情的な部分ではなんというか.......


「確かにそっちの方がいいような気もするけど.......なんか嫌だ」


「あはは。なんなのそれ」


「.......分からん」


「けどまぁ、それは私も思うよ。多分これが好きってことなんだよね」


 なるほど。確かにそう言われるとしっくりくるものがあるけど.......面と向かって言われると恥ずかしいものがある。いのりも恥ずかしかったのか俺から顔を背けているけれど横から見える耳どころか首まで真っ赤かである。


「いのり真っ赤だぞ」


「う、うるさい! 蒼空のばか! もう! 早く服見に行くよ!」


 そう言っていのりは俺の手を引いて近くにあったお店へと入っていく。こんないのりを見るのは初めてだ。これも恋人としてお互いが意識し始めたからこそだろうな。そんなことを思いながらもいのりの照れ隠しのためか次々にお店を見ていく。それでも、絶対に手だけは離さないいのりがおかしくてこっそり笑っていたのはいのりには秘密である。


「それで? いい服は見つかったか?」


「うーん.......」


「なさそうなのか?」


「あったんだけど.......というか、ありすぎて困ってる.......」


「なら、俺が選んでやろうか?」


 俺がそう言うといのりは目をぱちくりとさせて俺の方を見つめてくる。そんなに俺に服を選んで欲しくないのだろうか.......?


「そっかぁ! 蒼空に選んで貰えばいいんだ!」


「お、おう」


「彼氏に選んでもらうってなんかいいね!」


「完全に俺の好みになるけど大丈夫か?」


「うん! むしろ、それがいい!」


 良かった。どうやら、俺に選んでもらうのが嫌だとかそういったことではなかったようだ。もしそうだったなら本気で泣いていたかもしれない。


 それから俺といのりはまた最初に入ったお店にもどりそれから順番にいのりが悩んだという服を見ていき、いのりに試着してもらったりもしながらも俺はなんとか服を選んだ。まさか服を選ぶだけでここまで苦戦するとは.......いのりという素材がいいのでどんな服でも似合って見えてしまうのだ。


「本当にその服で良かったのか?」


「うん! 蒼空はこの服がいいと思ったんでしょ?」


「まぁ、そうだが」


「なら、何も問題ないね!」


「そうか」


「次のデートにはこの服を着ていくから期待しててね!」


「!?」


 その不意打ちはダメだ.......。不覚にも今日はいのりにドキドキとさせられまくりだ。いのりのことを恋人として見るだけでここまで変わるとわなぁ.......。服が選び終わった頃にはいい時間になっていたので家に帰ることにする。もちろん、家に帰っている時もずっと手は繋いだままであった。

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