第19話 ささやかな望み
電話を掛けてから10分もしない内に俺が電話をかけた人物はガクチカ公園へと到着していた。よほど急いできたのだろうか? 自転車に跨りながらも項垂れて息を荒くしてしまっている。
「よし、来たな」
「はぁはぁ.......こんなに急いで来た俺に対してそれだけかよ蒼空.......」
「いや、だってお前なら絶対にすぐに来るだろうと思ってたしな」
「よくあの電話だけでそこまで確信を得られるものだな」
「俺は和真のことを信頼しているからな」
「ったく、調子のいいことばかり言いやがって」
別に俺は嘘なんか1つもついていない。本当に俺は信頼しているのだ。いのりが関わることだと放っておけないのが灰・崎・和・真・という男だと。そして俺の信頼に応えるようにちゃんと来てくれた。
「こんな時間にありがとうね灰崎くん」
「ん? えっと.......」
「あぁ、えっと、ごめんね! あの、自己紹介が先だよね! 私は瑠川光莉。いのりの友達で夕凪くんとは最近仲良くなったんだ!」
「あぁ、どうやら俺のことは知ってくれているみたいだけど、蒼空の友達やってる灰崎和真です。よろしく瑠川さん」
どうやら和真は瑠川さんの前では学校と同じイケメンキャラで通すみたいだな。まぁ、素の和真を知っているのは今通っている高校だと俺といのりくらいだし当然といえば当然か。それなら、茶々の1つも入れたくなるってもんだよな。
「.......俺達.......友達だったのか.......?」
「えっ.......蒼空? それはさすがにひどくないか?」
「まぁ、そんなことは置いておいてな和真。大変だ」
「置いとくなよ! 本気で泣いちゃうぞ!? 17歳にもなって大号泣だぞ!!」
「おいおい和真。素が出てるぞ?」
「えっ.......? あっ、はめたな蒼空.......」
「まぁ、普段はイケメン気取ってるけど和真はこういうやつなんだよ」
「.......灰崎くんってキャラ作ってたんだね」
「これで少しは話しやすくなったか?」
「えっ? あっ、うん。いつもの学校での灰崎くんよりもこっちの方が私は話しやすいよ!」
和真はなんとも言えない顔で俺の方を見てくるが実際にこうして話しやすいと言われてしまった手前、俺に文句が言いたくても言えないと言った感じなのだろう。
瑠川さんが和真が来てから何となくぎこちなくなっていたのでこれは仕方のない対処なのだと思って諦めてもらうしかない。もちろん俺は和真のキャラ作りをバラしたくてしたとかそういったことはない。なので反省もしていない。
「さて、本題なんだけど和真。俺はどうしたらいいと思う?」
「知るか。その本題に入る前になぜそうなったのかを教えてくれ」
「はぁ.......」
「その反応は理不尽だろ!」
「あはは.......この数分で私の中の灰崎くんのイメージがもう木っ端微塵だよ」
これ以上無駄話をしていてもあれなので、柚希に浮気されたから見返すためにいのりと付き合うことになったんだけど何故だか俺がいのりと浮気していたみたいな噂が流れているといった具合に和真に話す。
「.......なるほどな」
「えっ、今ので理解できたの!?」
「いや、意味が分からないということがわかった」
「だよね.......」
さすがは和真だ。素の和真は期待を裏切らない。けど、今回ばっかりは仕方ないことだろう。当の本人でさえ理解出来なかったのだから。
「けど、その噂なら俺も聞いていたし何となくだけど話の流れは理解出来たと思う」
「それだけ分かってもらえれば今は十分だ」
「それで蒼空はどうするんだ?」
「それが分からないからこうして話し合うためにお前を呼んだんだよ」
「何でお前は偉そうだよ! けどまぁ、俺なら噂だけなら今は知らぬ存ぜぬを通すな。今・は・実害はそこまで受けてないんだろ? だったら、このまま噂が収まるまで何もしないのが得策だろう」
確かに今は和真の言う通り知らぬ存ぜぬでやり過ごすのが1番の得策だろうし、それで噂が収まるならそれが越したことはないんだけど、
「このまま何事も無く終わると思うか?」
「どうだろうな.......イタズラ目的ならこれで終わりだろうけど明確な悪意があるならば.......」
「えっ? まだこれから何かあるかもしれないの?」
「今はまだ可能性は0では無いって話だけどな」
「そんな.......」
「まっ、そうなる前に対策が取れればいいんだけど.......」
「蒼空は噂を流したやつに心当たりはあるんだろ? というか、蒼空の話を聞いた限りだと怪しいやつは1人だけだけどな.......前に廊下でたまたま見たんだが、蒼空達が中庭で飯食っているところを見ながら舌打ちしているやつがいてたから話しかけてみたんだけどはぐらかされて終わったよ」
和真は名前を伏せてはいたが間違いなく柚希のことなのだろう。はぁ.......本当に俺はどうしてここまで柚希のやつに嫌われたんだか.......。俺に心当たりが全く無いってのが1番の問題なんだよな.......。
結局今はなんの対策をすることが出来なさそうなので、ひとまずは様子見でまた何かある度にこうしてまた集まって情報を共有しようということで解散となった。
「このまま何事も無く終わってくれればいいんどけどな」
家に帰る途中で俺が1人呟いたほんのささやかな望みも叶うことは無いのだとこの時の俺は知る由もなかったのだった。
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