第18話 現状の詰み
「え? どういうこと? 浮気してたわけじゃないんだよね?」
「むしろ俺はされた方と言うか.......今からする話は他言無用で頼むな?」
「う、うん」
俺は瑠川さんに本当は柚希が浮気していたこと。そのことをいのりに話した結果見返してやろうとなったこと。その流れでいのりと付き合うようになったことを全て話した。
「えっと.......つまり、浮気されていたのはむしろ夕凪くんの方でそれがきっかけで宮崎さんと別れて、偶然にもマンションの下で出会ったいのりにその顛末を話した結果その成り行きでいのりと付き合うようなったと? 宮崎さんと別れたその日に」
「そういうことだな」
「ごめん。控え目にいって意味が分からない」
「だよな」
うん。それが正常な反応だよな。あれから結構な日数が経った俺でも改めてあの日の話をすると意味が分からないのだから。そろそろ本当に専門家とかに相談した方がいいのかもしれない。残念なことにこのことに関する専門家なんていないのだけど、結婚相談所の人とかなら何とか現情を説明してくれるかも.......あっ、浮気調査とかしてる探偵とかでもいいかもしれない。
「まぁ、分からないことをいくら考えても分からないだろうから今は置いておくとして夕凪くんはどうするの?」
「そうなんだよなぁ。もう噂は流れてしまってるんだからこれ以上広がるのを抑えても意味が無いし.......」
「やっぱり噂を流した張本人に嘘だってことを認めさせるのが1番いいんだろうけどね」
「それだと前提として噂を流したのがお前だっていう証拠が必要だし、仮にそんな証拠があったとしても嘘だと認めさせてそれを公言してもらうなんて不可能としか思えないしな.......」
何が目的でこんなことをしているのか分からないが、この噂を流した張本人は今この状況が成立している時点でもう実質的に勝ちなのだ。この状況をひっくり返すのはそれほどまでに難しいことなのだから。だから、俺が考えるべきはそうじゃない。噂をどうにかするのは現実的には不可能に近い。かと言ってこのままにしておくわけにもいかない。
「なぁ、俺は何をすべきだと思う?」
「それを私に聞くの!? さっきまで頭脳系キャラだったのにその一言で全て台無しだよ!!」
「いやだって、状況を整理して色々と考えた結論が俺は何をするべきか分からないなんだから仕方ないだろ?」
「それ結局何も考えてないのと同じだよね!」
「そもそもの話として俺はこの状況をどうしたいんだ?」
「もう元も子もないね!」
いや本当に俺はこの状況をどうしたいんだろうか? まず最優先事項としてはいのりにこれ以上の被害を出さないようにすること。そのために1番手っ取り早いのは俺がいのりと浮気していた噂が嘘だと証明すること。しかし、それは現状では不可能に近い。それなら、いっそ俺が噂を認めてしまい適当なことを言って俺がすべての責任を背負うか? いや、これはあくまで最終手段にしたい。自分の保身のためではなくこれだと確実にいのり本人からの妨害が入るはずだ。そうなると収拾がつかなくなるから確実に詰んでしまう。
「ダメだ.......本当に今は何も思いつかん.......」
「逆に宮崎さんが浮気していたっていう噂を流すのはダメなの?」
「証拠もなく流したところでこのタイミングだと信用を得られないし逆に俺が浮気していたことの信憑性が上がってしまうだけだと思う」
「そっかぁ.......。どうでもいいんだけどさ、夕凪くんって頭良かったんだね! びっくりだよ!」
「本当にどうでもいいな.......。それに俺はそこまで賢くは無いぞ? いのりの方が俺より成績良いし」
「う~ん.......そういう頭の良さじゃなくて頭の回転の速さみたいな? 今だといのりが前に言ってた、いざってときの蒼空は頼りになるっていうのも納得だし!」
「.......ありがとう」
瑠川さんはそう言って俺を褒めてくれるが実際には考えているだけでこの状況をどうするべきかの糸口さえ見つけられていないんだけどな.......。
「というかさ、今更なんだけど別に私と夕凪くんの2人だけで考える必要も無いよね? とりあえず、いのりにも相談してみない?」
「それは却下だ」
「なんで?」
「俺がこの噂を知っていることをいのりには伏せておきたい。今は俺が知らないうちにどうにかしようとコソコソと立ち回ってくれてるみたいだけど俺が噂に気付いたとなるといのりなら何らかの強硬手段にでかねない」
「あぁ.......確かにいのりならやりかねないね.......」
「だろ? だから今はまだ俺は何も知らないという体を装いたい」
「確かに今はそれがよさそうだね!」
けど、確かに瑠川さんの言う通り2人で考える必要も無いんだよな。ただ、条件としてはこの状況下で俺といのりの味方をしてくれるということだ。この条件をクリアすることがとんでもなく難しいことは間違いないのだが絶対に俺達の味方となってくれる人物に俺は心当たりがあった。
「瑠川さんごめん。ちょっと電話する」
「ん? いいけど誰に?」
「それは来てからのお楽しみということで」
そう言って俺はスマホを操作して目的の人物へと電話をかける。電話の主は2コール目で出た。よし、どうやら暇なようだ。
『もしもし?』
『あぁ、俺だ。今暇だろ?』
『まぁ、暇だけど』
『それじゃあ、今すぐガクチカ公園に来い。いのりのピンチだ』
そこで俺は電話を切る。これ以上話すのは時間の無駄だから。何故ならあいつはこれだけ言っておけば絶対に来るのだから。
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