前のエピソード――第14話　イケメンの正体

　瑠川さんといい和真といいどうしてこうタイムリーにこの話題を出してくるのだろうか.......。本当にいのりは自分から言いふらしたりしてないんだよな？　そうでもないとタイミングがよすぎるだろ.......。とりあえず、ここは誤魔化さないと.......。

「.......何言ってんのお前？」

「え？　何ってそのまんまの意味だけど？」

「俺といのりが付き合ってる？　なんでそんな今更。それに和真も知ってると思うけど彼女と別れたばかりだぞ俺」

「別に俺にまで嘘をつく必要はないんだぞ？　自分で言うことじゃないが、涼風さんを見てきたという意味では蒼空の次くらいに見てきたと思うぞ」

「本当に自分で言うことじゃないし普通にキモイぞお前」

「それに関しては何も否定しないが、俺が言いたいのはそんな俺だからこそ分かるものもあるってことだ」

　う～ん.......和真のやつ俺といのりが付き合っているということを確信しているな.......。多分ここで俺が何を言っても絶対にそれを認めないんだろうなぁ。それならもういっそ認めてしまうか？　認めた上で口止めするか？

　いのりに出された目標はいのりと付き合っていることをバレないようにするということ。そして、今回に関してはバレないようにも何も最初からバレていた。これは仕方ない。そして、このことがいのりにバレなければ俺は目標の失敗ということにはならないはずだ。なので、どちらにしても口止めしておくことが今回の場合においてのベターなのだろう。

「はぁ.......降参だ.......」

「つまり認めると？」

「まぁ、そういうことだ。けど、このことは」

「誰にも言うなだろ？」

「.........................」

「安心しろよ。誰にも言うつもりなんて無いから」

　本当にいのりに関係することに関してだけはやたらと鋭いよな.......。

「.......不気味だ」

「なんでだよ！」

「いや、お前っていのりのこと大好きじゃん？　そんなお前が素直に身を引くとは.......」

「踏ん切りはついてるって言ったよな！　それに俺だって涼風さんの恋人になる人が誰だっていいって思ってるわけでは無いしな！」

「俺だったら問題ないと？」

「むしろお前以外俺は認めないまである！」

　和真は一体誰目線なのだろうか？　和真はいのりのお父さんなのか？　こんなストーカー気質のある父親だなんていのりも可哀想に.......。冗談もこれくらいにしておくとして本当に和真は誰目線でものを言っているのだろうか？　あっ、念の為に言っておくけどいのりの父親はストーカー気質なんてもちろん無いしすごく優しいお父さんといった感じの人だ。

「それで？　今日はそれが確かめたくてお前は俺を誘ったのか？」

「ん？　まぁ、それもあるな」

「何か他にも何かあるみたいな言い方だな」

「いやまぁ、蒼空と涼風さんが付き合ってるってのは俺の中では確信してたし言うなればおまけだな」

「それじゃあ、本題はなんだ？」

「なぁ、蒼空。最近変なこととかないか？」

「は？」

　最近変なこと？　和真は一体何を言っているんだ？　変なことというのはつまり、俺の身の回りでおかしなことは無いか？　ってことが言いたいんだろうけどどちらにせよ心当たりはないんだが.......。

「どんな些細なことでもいいんだが何かないか？」

「.......何なんだよ急に。特に思い当たる節はないが、強いて言うならチラチラと視線を向けられることが増えたと言ったことだろうか？　まぁ、イメチェンしたというかさせられたから見られてるだけだと思うが」

「.......本当にそうなのか？」

「は？」

「いや.......やっぱりなんでもない」

　さっきから一体何が言いたいんだろうか？　本当に意味が分からない。どうにも和真の雰囲気からして適当なことを言ってるようにも見えない。こんなにシリアスな和真を見るのはいのりにフラれて撃沈した時以来だ.......。

「.......大丈夫か和真？」

「俺は大丈夫だけど蒼空。これだけは覚えていて欲しい。もし何か困ったことがあればすぐに俺に頼れ」

「お、おう？」

「うん。よし！　シリアスもここまでだ！　せっかくカラオケに来たんだし歌うぞ蒼空！」

　そう言って和真は備え付けのデンモクで慣れた手つきで楽曲を予約するとすぐに前奏が流れ始める。そして、テレビの画面にはいかにも少女漫画です！　といった感じのキャラが映る。そしてこのイケメンは本気で熱唱を始めた。本当にこの光景を学年の女子共に見せてやりたい。一瞬で和真に対するイメージがぶち壊れると思うから。

　そんな感じで俺と和真は2時間ほどカラオケで歌ったあと店を後にして帰路へと着くのだった。