第16話 平穏の終わりの報せ


 和真とカラオケに行った日から3日が経過した。さすがにこれだけの日が経てば俺への注目も無くなるだろうと思ってたのだが何故だが今でも見られる。それも日に日にチラチラと見られる頻度が高くなってきた気がする.......。今も次の授業が音楽なので音楽室に向かって歩いてるだけなのにすれ違う人達からチラチラと見られてる気がするし。


「バレてたりなんかしないよな.......」

「ん? どうしたの蒼空?」

「いやぁ、今になってもチラチラと視線を向けられるのは何でなのかなって」


 もしかしていのりと付き合っていることがバレてしまっていて彼女と別れたばかりのくせにといった視線ではないだろうな? それならこの微妙な感じの視線も分かるんだけど.......無いよな? 俺は誰にも言ってな.......和真には言っちゃったけどあいつは広めたりするようなタイプでもないし何よりいのりに被害が及ぶことは絶対にしないから違うだろうし.......。


「それだけ蒼空がかっこよくなったってことじゃないの?」

「夕凪くん確かにかっこよくなったもんね!」

「さすがにそれは無いだろ.......。もし仮に奇跡的にそんなことがあったとするならもっと話し掛けられると思うんだよな和真みたいに。それに、注目されているというより様子を窺われてるいるような.......」

「別に悪いことなんてしてないんでしょ? それなら、蒼空の気にしすぎだよ!」

「そうだといいんだけどなぁ」


 別に俺は何か悪いことをした訳では無いのだがこれだけ毎日視線を向けられると何かやらかしたのかもしれないと不安になってしまう。本当に一体なんなんだろうか。新手の嫌がらせか? .......別に嫌がらせを受けるようなことをした覚えはないんだけどな。視線を向けられること意外は特に実害としては無いからいいんだけども。



⿴⿻⿸




「やっとお昼だぁ! ご飯食べよ!」

「本当に私もお腹ぺこぺこだよ!」

「夕凪くんも早く行くよ!」


 すごく今更なんだけどなんで俺まで一緒に中庭まで行って昼飯を食べているんだろうか? 最近は俺といのりと瑠川さんの3人でいる頻度がすごく高くなったというかずっと一緒にいる気がする。別にそれが嫌だとかそういったことは無いんだけど人と積極的に仲良くなろうとするタイプでは無い俺からしたら未だに違和感があったりもする。まぁ、この違和感というのもいうほど悪いものでもないのもまた事実なんだよな。

 それから俺達3人はもはや定位置と化した中庭にあるベンチに3人並んで昼食を食べる。並び順もいのりを真ん中にして俺が右で瑠川さんが左というのも最初からずっと固定だったりもする。


「そう言えば私、夕凪くんの連絡先知らない!」

「ん?」

「交換しよ!」

「まぁ、別にそれくらいなら全然構わないけど」


 そう言って俺は瑠川さんにスマホを差し出すと瑠川さんは俺のスマホを見つめて固まってしまった。


「あっ、悪い。パスワードを解除するの忘れてたな。.......これでっと、はい」

「いや、そうじゃないよ!?」

「?」

「普通スマホを差し出すかな!」

「俺やり方分かんないし別に見られて困るもんもないからな」

「.......そういことなら」


 そう言って瑠川さんは俺のスマホを操作し始める。本当に俺のスマホは見られて困るものなんてない。LINEの友達も家族や親戚も含めて20人ほどしか登録されていないし写真のアルバムにもほとんど写真なんて入っていないはずだ。もはや俺のスマホはゲーム付き目覚まし型時計だ。あとは、たまに来るLINEや毎朝ニュースを見るくらいだ。うん、こうやって考えると意外と使ってたわ。


「はい! この♡光莉♡っていうのが私だからね!」

「了解だ」

「ちゃんと返事してよ?」

「そこは安心して欲しい」

「蒼空って意外にLINEの返事とか早いもんね?」

「えぇ、なんだか意外!」

「その代わり会話を終わらせるのも早いけど」

「わぁ.......すごいそんな感じもする」

「返事してるんだから別にいいじゃんか」


 ぶっちゃけてしまうと文字を打つのがめんどくさいと思ってしまうのだ。それでも返事をしないというのはなんだか申し訳ない感じがするからささっと済ませてしまおうという考えに至ってしまうのは必然では無いだろうか?

 それからも他愛のない話をしていると昼休みが残り5分であることを示すチャイムがなるので教室に戻っていく。それから午後の授業を受けていつも通りいのりと一緒に下校する。そして、俺達の住むマンションに帰り着くといのりの住んでいる部屋の前で別れて俺も自分の住んでいる部屋へと入っていく。

 ここまではいつも通りであった。ただ、いつもと違うかったのは、


「ん? 瑠川さん?」


 家に帰って部屋着に着替えてからベットに飛び込みいつも通りスマホでゲームをしようとスマホを起動すると瑠川さんから1件のメッセージが入っていた。


『やっほー! いきなりで悪いんだけど今日の20時にガクチカ公園で会えないかな?』


 ガクチカ公園というのは学校の近くの公園の略称だ。別に断る理由もないのですぐに了解したということを送るとすぐにありがとうといったスタンプが送られてくる。別に断る理由も無かったけど呼び出される理由にも心当たりが無いのだが。いくら考えても答えは出なかったので俺は考えることをやめてスマホでゲームをすることにした。

 それから母さんにお願いして20時から予定があるからと夕飯の時間を早めてもらい夕飯を食べてからガクチカ公園に向かうと瑠川さんは既に来ていた。


「.......なんだかデジャブを感じるな」


 このガクチカ公園というのは俺が柚希に浮気していたことを告げられ俺達が別れるきっかけとなった場所であったりもする。そしてこのシチュエーションだ。否が応でもあの日のことを思い出してしまう。


「あっ、夕凪くん! こんな時間に呼び出しちゃってごめんね!」

「いや.......大丈夫だよ」

「どうかしたの?」

「ううん。何でもないよ」


 足がすくんでしまって動けなくなっていた俺を瑠川さんが見つけて声を掛けてこちらに寄ってきてくれる。どうやら、あの日のような何か最近なことが起こるといったことは無さそうだと思ったのだが.......


「夕凪くん。いきなりで悪いんだけど本題に入らせてもらうね」

「本題?」

「夕凪くんと宮崎さんが別れたのって夕凪くんの浮気が原因なの?」


 俺は瑠川さんの言っている言葉の意味をすぐに理解することが出来なかった。

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