第12話 微妙な違和感


「あぁ.......疲れた.......」

「もぉ、情けないなぁ。けど今日はもう帰るだけでしょ? 一緒に帰ろ!」

「さっさと帰るとするか.......」


 もう俺は精神的にヘトヘトであった。体は元気なんだけどもう精神的にキツすぎた.......。お昼休みから帰ってなおもクラスのみんなは俺が俺だと信じられないのかチラチラと視線を向けてくるのだ。これなら素直に話しかけてきてくれた方がどれだけ良かったか.......。お前から話しかければいいだろって? いやいや、もし俺の自意識過剰だったらどうするんだよ。それに何て話かけろって言うんだ? さっきから俺の事見てるけどなに? とでも言えばいいのか? これだと、ただのヤバいやつじゃねぇか。

 俺はここでも逃げるように教室からそそくさと出て行き昇降口で靴を履き変えて学校を出る。もちろん、いのりも着いてきている。


「いやぁ、それにしても今日の蒼空は目立ってたねぇ」

「.......本当にな。けど、これでいのりの言ってた最初の目標はクリアだろ?」

「うーん.......まぁ、そういうことにはなるんだけど.......」

「なんか、煮え切らない返事だな」

「だって私としても予想外だったんだもん.......」

「予想外?」

「うん。まさか髪型を変えただけでここまで蒼空が注目浴びるなんて.......私としてはこれをきっかけに蒼空が何らかのアクションを起こして注目を浴びる予定だったんだけど.......」


 確かにいのりの言っていることも分からなくもない。俺のしたことと言えば髪をワックスで整えたくらいなのだ。言ってしまえばただそれだけの事しかしていないのだ。


「.......これってやっぱり」

「やっぱり?」

「蒼空って実はそこそこイケメンどころか普通にイケメンだったのかもしれない」

「.......は?」

「そう考えれば全ての辻褄が合うと思わない?」


 いや、これだけのことでそう決めつけるのは早すぎる。俺が注目されていたというのはいのりもそう言ってるんだし自意識過剰なんかでは無かったということだろうが注目される理由なら柚希と別れた途端にイメチェンをした俺の奇行に驚いたかといった可能性があったりもするわけだし。

 それに何か変なんだよな.......確かに注目はされたんだけどそれにしてはこう見られていて気分のいい視線では無かったというか.......視線もまばらだったような.......まぁ俺の気のせいかもしれないんだけどな。


「まっ、何はともあれ目標達成したわけだが次の目標があったりするのか?」

「うーん.......それに関しては少し待って欲しいかな。こんなに早く目標達成するだなんて考えて無かったからまだ何も考えてないの」

「そうか。それなら次の目標とやらが決まるまでは今まで通り何も考えずに過ごすとするかな」

「今まで通りって言ってと髪の毛は毎日整えるんだよ?」

「.......まじで?」

「逆になんで今日だけで済むと思ってたの.......。それに光莉だってかっこいいって言ってくれていたんだしいいじゃん? それに、今から蒼空のモテ期が来るかもしれないよ?」


 別に今このタイミングでモテ期なんて来られても正直困るだけなんだけど.......。けどまぁ、確かに今の俺の方がいいって言ってくれる人がいるんだったらしばらくは頑張ってみようかなとも思う。あれ? そういえば、


「なぁ、いのり」

「なに?」

「今日一緒にお昼を食べた子って結局誰なの?」


 俺がそう言うといのりはまるでありえないものを見たといったような顔で俺の方を見てフリーズしてしまった。


「.......嘘でしょ」

「いのりの友達で光莉っていう名前なのは分かったんだけど苗字を知らなくて正直困った」

「誰かも分からないような相手に私の過去の恥ずかしい話を暴露してたなんて信じられないよ!」

「いやまぁ、いのりの友達っぽかったしいいかなって」

「友達だったとしてもダメに決まってるでしょ! あと、あの子は瑠川光莉るかわひかり! 仮にも同じクラスの子なんだし名前くらいは覚えておいて欲しかったな!」


 ぶっちゃけ同じクラスのだろうと関わりのない人の名前なんて俺はいちいち覚えてなんていない。話したことも、ましてや話す予定のない人の名前を覚えておいて一体何の得があるのだろうか? それなら読んでる漫画に出てくるモブキャラの名前でも覚えておいた方が有意義なようにも思える。.......さすがにそれは言い過ぎたかもしれない。


「まぁ、今日話したしいのりの友達だっていうなら覚えておくようにはしておくよ」

「まぁ、別に無理に覚えようとしなくても勝手に覚えると思うけどね」

「なんで?」

「だって蒼空。光莉に気に入られったぽいからね」

「そうなのか?」

「うん。確かに光莉は誰とでも仲良くできるけど自分から仲良くなろうとする人はあんまりいないんだよね」


 これは一緒にお昼ご飯を食べようと誘ったことを言われているのか? 別にお昼ご飯を一緒に中庭で食べるまでは仲良くなりたいと思ってもらえる要素なんて微塵も無かったと思うんだが.......強いて言うならイメチェンだろうか? だとしても、なんか違和感があるよなぁ。まぁ、悪い人では無さそうだったし気にする必要もないか。

 それからも色々と話していると俺達の住んでいるマンションに到着し一緒にエレベーターに乗り込む。ちなみにだが俺といのりは7階に住んでいる。


「それじゃ、また明日ね」

「おう」

「ちゃんと明日もヘアセットしてくるんだよ!」

「分かってるよ」


 そう言っていのりは自分の住む部屋へと入っていく。そのいのりの部屋から奥に3つ進んだ先の部屋が俺の住んでいる部屋だったりもするのだ。

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