第11話 昔の話
はてさて。いのりが幼稚園の頃に泣いてしまったエピソードならいっぱいあるのだがどれを話したものか.......。
今のいのりからはまるで想像できないが本当に昔はよく泣いていたのだ。というか、何かあると基本的に泣いていたかもしれない。おもちゃの取り合いになると毎回泣いていたし、喧嘩になると毎回いのりは泣いていた。そのくせに変に昔から正義感が強くて喧嘩になっているのを見ると毎回止めに行ってそこでいのりが何故か泣いてしまい、喧嘩をしていた人達が怒られて最終的にいのりに謝らされていた。.......今思うといのりが泣くことで結果的に毎回喧嘩は止められていたんだな。
「そうだなぁ。あっ、幼稚園の年長組の頃だったかな? いのりが家から飴玉を1つだけ持って遊びに来たことがあったんだよ」
「ふむふむ」
「ちょっと蒼空!? その話は.......」
いのりが何やら言っているが俺はあえて話すのをやめない。こんなに焦っているいのりを見るのは新鮮で少しおもしろい。
「それでいのりは俺に飴玉を見せびらかすんだよ。いいでしょーってな」
「あはは。いのりちゃんは可愛いでちゅねー」
「.......光莉うるさい」
「それでまぁ、そんなに見せびらかされると俺も欲しくなっちゃったんだろうなぁ。いのりに飴玉をちょうだいって俺が懇願するといのりのやつどうしたと思う?」
「うーん.......よく泣いていたって話なら泣きながら渡してきたとか?」
まぁ、話の流れ的にはそう思うよなぁ。けどまぁ、違うんけど。
「いのりはその飴玉を袋から出すと思いっきり噛んだんだよ」
「えっ!? 飴ちゃんって硬いよね? 大丈夫だったの?」
「いいや。思いっきり前歯が折れてたな。それを見ていのりはなんて言ったと思う?」
「え? 普通に痛いとかじゃないの?」
「飴ちゃんが歯になっちゃった! って言って泣いてたよ」
「ぷっ、あはは。何それ! いのり可愛すぎるでしょ! ダメだ.......お腹痛い.......」
「.......うるさい」
いのりの友達の光莉さん? は腹を抱えてずっと笑っているのを見ていのりは羞恥で顔を真っ赤にして瞳をうるうると潤ませながら俺の方を睨みつけてくる。睨まれているはずなのにびっくりするくらい怖くない。むしろ、可愛いまである。
「あーおもしろい! それで、何でいのりはそんなことしたの?」
「あぁ、何でも噛み砕いて2つにして片方を俺に渡そうとしたらしい。もちろん、飴玉は割れなかったぞ」
「割れたのはむしろいのりの歯でしたって.......あぁ、ダメだ.......死んじゃう.......お腹痛い.......」
「もう! 小さい頃の話だからいいでしょ! この話はおしまい!」
「えー私はまだまだ聞きたいなぁ」
「おしまいったらおしまいなの! 蒼空も分かってるね!」
これ以上は本当によろしくなさそうだ。これ以上言うと羞恥のあまりいのりが泣いてしまいかねない。そうなると困るのは俺だってことは間違いない。
本当はその前歯が折れたあとの話とかしたかったんだけどって.......ごめんなさい。なんにも考えてませんのでそんなに睨まないでください。今回の睨みは本気で怖いです.......。
「それにしても意外だったなぁ」
「光莉? まだ言うの?」
「違う違う! 確かにいのりの昔も意外だったけど私が意外だと思ったのは夕凪くんのこと!」
「俺?」
「うん! 夕凪くんって基本的にはあまり喋らないでしょ? 私これまで夕凪くんが話しているのっていのりと柚希ちゃんとあと、灰崎くんしか見たこと無かったからこんなに話せる人って思ってなくて!」
「いや、話せるよ」
確かに教室とかだとあまり人と話したりとかはしないけど、話せない人と思われていたのはショックだ.......。
あと、灰崎くんというのは灰崎和真のことで中学時代から訳あって仲良くなったイケメンだ。高校1年生の頃は同じクラスだったけど高校2年生に上がると別クラスになってしまったので直接的な関わりは今はあまりなかったりする。あいつ部活もしてるし。それでも、LINEなどでのやり取りは今でもたまにしている。
「いや、そういう意味じゃなくてね.......。あと、意外って言ったら灰崎くんと仲がいいっていうのも意外だよね? 夕凪くんと灰崎くんってキャラとか全然違うのに」
「いやぁ.......あいつは普段猫かぶってるだけで素だと全然違うからな?」
「そうなの?」
「確かに灰崎くんは蒼空といる時と普段とでは全く別人みたいだしね」
「ふーん。2人はそれだけ仲がいいってことなんだね!」
仲がいいっていうのもあるんだろうけど、あいつの場合は俺に接触してきた理由が理由だっただけに今更俺には何かを取り繕う必要もないと思っているんだろうなぁ。
「ん? 何でいのりがそれを知ってるんだ?」
「たまたま2人で遊びに行ってるところを見ちゃったことがあってね。その時は本当にびっくりしたよ!」
「確かに学校でのあいつしか知らないとびっくりだろうなぁ.......」
「なになに! すごく気になるんだけど!」
「.......これはあいつの名誉の為に聞かないでおいてくれ」
「私の名誉は気にしなかったのに?」
「.......よし。そろそろ教室に戻るか」
「逃げるなぁ!」
俺はそう言って席を立って教室の方へ急いで向かう。こういうときは逃げるに越したことはないのだ。
⿴⿻⿸
「.......ちっ」
「やぁ、宮崎さん」
「灰崎くんじゃん! どうしたの?」
「いやぁ、たまたま宮崎さんが俺の友人を見ながら舌打ちをしていたのが見えたからね。俺の友人が何かしちゃったのかと思って。そう言えば2人は別れたんだってね?」
「あちゃ~嫌なとこ見られちゃったなぁ。あっ、別に蒼空に対しての舌打ちじゃないよ! 確かに蒼空とは別れたけど今は大切な友達だと思ってるからね! それじゃあ、私もう行くね! またね!」
「うん、またね.......。ふぅ.......何だか蒼空も大変そうだね.......」
そう言って灰崎は窓からいのりに追いかけ回されている蒼空見る。柚希と灰崎の2人から見られていたことなど蒼空は知る由もないのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます