第3話 オシャレなお店
「本当に私の好きにしちゃっていいのね? いのりちゃん?」
「はい! 存分にやっちゃってください!」
「ふふ。覚悟はいい?」
「.......はい」
「いい返事ね。今から私があなたに新しいあなたを見せてあげるわ」
覚悟も何も完全に俺に選択肢なんて今の会話の中にはなかったじゃないですか.......。俺は今からどうなってしまうのだろうか.......新しい俺とは一体どんな感じなのだろうか.......怖いな.......。
シャキシャキ。パサリ。
そんな俺の耳に聞こえるのはハサミで切られ切られた物が俺を纏うナイロンに落ちる音。そう、俺は美容室に来ていた。
【遡ること1時間前】
「おはよ蒼空!」
「.......おはよう」
「なんか、テンション低いね?」
「いや、土曜日にこんな早くから起きることなんてあんま無いからまだ眠い.......」
「こんな早くってもう10時だけどね.......。普段学校のある日は起きれてるのになんで土曜日になると急にダメになるの?」
「学校のある平日は起きなきゃいけないという使命感があるけど、休日にはそれがないからな」
これには共感してくれる人も多いのではないだろうか? 特に俺みたいに部活とかに入っていないやつだとより共感してくれる人が多い気がする。 ちなみに俺は基本的に休日は12時前後までは寝ています。
「要するに気持ちの問題ってわけね」
「そういうことだな。それで、なんでこんな早くから集合なんだ? 別に昼からでも良かっただろ」
昨日、学校に登校していた時に話していたいのりが俺をイケメンにするだとかいう夢物語に付き合うべく俺は朝の10時からマンションの下に集合ということで早起きをしていたのだ。
「そりゃあ、11時に予約しておいたからね」
「予約?」
「そっ。いやぁ、ラッキーだったよ。昨日電話で聞いてみたら今日の11時だけなら大丈夫だって言ってたから電話するのが少し遅かったら危なかったもしれないしね」
「一体どこに行こうとしてるんだ?」
「それは、着いてからのお楽しみ!」
そう言っていのりが歩き始めるので、俺もそれに続いて歩き出す。予約しないと行けないところか.......ん? 今日の目的って俺をイケメンにだとかいうことだよな? それで、予約しておかないと行けないところって.......まっ、まさか.......
「.......やっぱり、そういうことなのか」
「ねぇ、なんで急にそんなに暗くなってるの?」
「今から行くところを考えたらな.......」
「絶対に違うと思うけど聞いといてあげる。蒼空はどこに行くと思ってるの?」
「.......美容外科だろ? そこで俺は整形手術を」
「受けないし、違うからね!」
「.......違うのか?」
「昨日、私言ったよね!? そんな事しなくても大丈夫だって!」
「それはいのりの美的感覚が」
「おかしくないから! もう! 黙ってついて来て!」
それから俺たちの住むマンションから少し歩いたところにある最寄りの駅まで向かい30分ほど電車に揺られたあと、少し歩いたところでいのりが止まる。やたらとオシャレな建物の前で.......。
「ここだよ!」
「.......美容室?」
「そっ! この美容室はお母さんの知り合いがやってるところでね、すごく上手なの!」
「えっと、カットが.......3500円だと.......」
「美容院なら普通だよ? まっ、今日は私の紹介だから2000円でしてもらえるから安心してね」
3500円といったら普段俺の通っている床屋が1500円だから倍以上の値段じゃないか.......。まぁ、2000円になるなら普段より少し高い程度だしいいんだけど。
それにしても、普段通っている床屋とは雰囲気が全く違う。本当に同じ髪を切るお店なのだろうか? 床屋では決してすることの無いようないい匂いも店の中にまだ入ってもいないのにするし。というか.......
「なぁ、ここって俺みたいなのが入ってもいいのか?」
「俺みたいなって.......逆に聞くけどなんでダメだと思ったの?」
「いやだって、見るからにオシャレな人御用達みたいな感じだし.......」
「ねぇ、蒼空。今日の私達の目的は?」
「俺が現状よりはマシになること?」
「イケメンになることね。だったら、問題ないでしょ?」
問題ない.......のか? まぁ、なかったとしても気後れしてしまうことには変わりないんだけど.......。普段通っている床屋っていったらすごく素朴な感じで落ち着くのにこの店ときたらもう何だかよく分からないけど、すごくキラキラして見えてすごく落ち着かない。なんか、店に入りづらい.......。
「もしかして蒼空。びびってる?」
「!?」
「やっぱり.......もう行くよ!」
そう言っていのりは俺の手をとってお店の中に入っていく。お店の中も外装と同じく白を基調としており、すごくオシャレだ。もう俺の場違い感が.......。
「いらっしゃいませって、いのりちゃん! 久しぶりね!」
「お久しぶりです優香さん! 今日はよろしくお願いしますね!」
「うん、任せて! それで、後ろにいる子が蒼空くんでいいのかな?」
「あっ、はい。夕凪蒼空です」
「ふ~ん、昨日いきなりいのりちゃんから電話なんてきたから何事かと思ったけど.......いのりちゃんも隅に置けないねぇ」
そう言ってニヤニヤとしながらも俺の方をジロジロと見てくる。いのりのお母さんの知り合いと言うから俺のお母さんと同じくらいの年齢の人だと思ってたが、全然そんなことも無く若い人だったのでこうしてマジマジと見られると居心地が悪い.......。
「.......もったいないわね」
「ですよね!」
「つまり、いのりちゃん。そういうこと?」
「はい! やっちゃってください!」
そして、時は今に戻るのだった。
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