第2話 大切な幼馴染


「.......柚希」

「どうしたの蒼空? 何だか顔色が悪いよ?」


 どうしたのだって? よくもまぁそんな事が言えるもんだ.......。俺の事なんてちっとも心配なんてしないだろうに。俺も知らず知らずのうちに拳に力が入ってしまう。

 それに、昨日の柚希が素の柚希だったのなら今の柚希は猫を被っているのだろう。それが今は無性に気持ち悪い。


「俺もう行くから」

「冷たいなぁ」

「...................」

「そんな怖い顔で見ないでよ。優吾くんに助けてもらいたくなっちゃうでしょ?」

「その優吾くんっていうのが浮気相手ってことでいいのかな? 宮崎さん」

「.......いのり?」


 怒っているのか? 普段は誰にでも明るく振舞っているいのりが今はすごく怖い。幼稚園からの付き合いのあるいのりだが、こんないのりは今までに見た事がなかった。

 今までもいのりと喧嘩してしまうことは何回かあったけど、いのりが怒ると顔が真っ赤になるのだ。顔を真っ赤にしながら怒って自分の思ってることを全て言い切ると最後には泣いてしまう。.......いのりに泣かれると困ったものでとんでもない罪悪感に駆られてしまい、俺が悪くなかったとしても俺が謝ってしまうのだ。

 けれど、今のいのりは全然そういった雰囲気ではなかった。顔を真っ赤にしている訳でも無いのに怒っていることが分かる。まるで、いのりの周りの空気だけが凍りついているかのような.......。


「ふぅん.......話したんだ。.......ダッサ」

「私はそんなこと聞いてないんだけど? それにダサいって言うなら、浮気したことを開き直っているどころが全く悪気が見えない宮崎さんの方だと思うけど?」

「自分じゃ怖くて言えないことを幼馴染の女の子に言わせてる男よりはマシだと思うけど?」

「別に私は頼まれてなんていないし、これは勝手に私が言ってるだけだから蒼空は関係ないよ」

「結果的にそうなってるんだからそういうことでしょ? それに関係無いって言うならあんたの方が関係無いでしょ? これは私と蒼空の問題なんだから」


 自分が怒っている時に自分以上に怒っている人を見るとかえって冷静になるというのを聞いたことがあったがどうやらそれは本当だったらしい。

 この2人の言い争いを見ていると急に冷静になることが出来たのは良かったんだけど、この2人はここが学校の前であることもお構い無しに論争を繰り広げるもんだから周りから注目されまくっている。

 校門付近でずっと立って挨拶をしていた先生もこっちに気がついたのか向かって来ているし、とにかくここは一旦2人を落ち着かせないと.......


「2人とも落ち着」

「「あんた(蒼空)は黙ってて!」」

「あっ、はい」


 こ、怖すぎる.......思わず返事しちゃったし。今のこの2人の前だったら昨日のあのチャラそうな男の方が可愛く見える.......。


「宮崎さんさっき私には関係ないって言ったけど関係あるからね?」

「たかが幼馴染になんの関係があるって言うよの」

「確かに私と蒼空は幼馴染だよ。けど、私にとって蒼空は誰よりも大切な幼馴染なの」

「!?」

「何よ、惚気? それなら、他所でやってくれない?」

「別に惚気てなんていないよ。ただ、私の大切な人を弄んで傷つけたことは絶対に許さないから。宮崎さんにはそれを知っておいて欲しくてね」

「ふっ。別にあんたに許してもらいたくもないしその必要も無いんだけど?」

「後悔させてあげるから」


 いのりがそう言うと柚希は何も言わずに2人は睨み合っている。それからすぐに近くまで来ていた先生がこちらに声を掛けてくる。するといのりは、俺の手を取って学校の方へと向かっていく。


「いのり?」

「絶対に見返してあげようね」

「!? あぁ」


 それから先生には特に問題は無いと言って教室に向かう。俺達に少し遅れて少し遅れて柚希も教室に入ってきた。俺達3人は同じクラスメイトなので当然ながら教室も同じなのだ。

 朝のうちは2人が揉めていたことを他のクラスメイトも知っていたっぽく重たい空気が教室に漂っていたが、それも時間経過とともに和らいでいき今日1日の授業を終え放課後となった時にはいつも通りになっていた。

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