第五話:異次元よりの物体X






 横須賀、在留ステイツ軍基地。


「フンギギギ……!と、取れない!?!」


 倉庫の前に立つ青い機体。

 ノベライザーのコックピットで、トリは唸りながらある物を必死に外そうとしていた。


 青く光る多面体。

 普段は栞を指す部分にべったりくっついたそれは……



「コアフリートリアが、取れない!?」



 なんと、フリートレスの材料。

 特殊資源物質のコアフリートリア。


「うごぉぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉぉぉおぉ!!!!!!!!!!!!

 とれねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!

 全然取れないぞトリぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」


 手伝っている褐色で長身のフリートレスはサウスダコタ。

 戦艦級の馬鹿力でも、何故か外れない。


「エリア51で突然くっついたかと思えば、あらゆる手段を持っても外れなくなったと聞いていたが……」


「整備の人ぉぉぉ!!!!名前忘れたけど整備の人ぉぉぉぉ!!!バール持ってきてくれよバール!!!!!てこの原理!!!てこの原理で外そう!!!!!」


「サウスダコタ!!

 悪いが、バールはもうこの通りだ」


 と、整備の人が見せたバールは、ボッキリ途中からネジ切れていた。


「ダメかぁ…………ごめんよトリィ、もう無理だぞトリィ……」


「サウスダコタさんは良くやってくれましたよ……」


 トリのフクロウっぽい身体をモフモフしながら落ち込むサウスダコタに、優しくそう言葉をかける。


「お届けだぞぉ!!」


「投げないでくださぁぁぁい!?」


「うぉっとぉ!?!?」


 と、そんな場所へ投げ込まれるは、ノベライザーの搭乗者であるカタリ。

 顔からサウスダコタの胸に突っ込まれ、衝撃を色々な意味で吸収されて事なきを得る。


「おい大丈夫かぁ!?

 あ!この前の!!これに乗ってた奴!!!」


「ごめんなさい!!今どきます!!!すみません!!」


 気にしていないどころかよく分かってない顔のサウスダコタが逆に辛いカタリがすくっと姿勢を正す。



『ようやく来たみたいですね』



 パタパタ飛ぶトリの脚に掴まれたタブレットから、ブリザードも同然の冷え切ったバーグの声が聞こえてくる。


「……バーグさ」


『カタリさんのスケベ』


「いやあの、」


『何も言わなくて良いです』


「…………はい、ごめんなさい」


 状況が分かってないサウスダコタの横で、整備の人にポンと肩に手を置かれて項垂れるカタリだった。




          ***


 それでも出撃まで速く、すぐに空へ飛び出すノベライザー。


『状況は最悪です。

 私も初めてですが、喋るD.E.E.P.がエターナルの非活性化状態の物を持って出てきたようです』


「なんか、未知の相手ってそれだけで嫌だよね……!」


『ええ。何が起こるか未知数です。

 まして、ノベライザーも謎の異常が起こっていますし』


 ふとカタリの見る目の前のコアフリートリア。

 一応、栞を入れる分には問題ないが、なぜか近くにピッタリくっついて離れない。


「どうしてこうなったんだ……」


『整備点検中、たしかトリさん以外の動力で動かせるかのテストを勝手にされたんです』


「え……!?」


『無論、動かせても意味は無いですけどね。

 ただその時からなぜか外れなくなったんです。

 土台ごと切り離しても困りますのでこのままに』


『だからあたしなら取れるかなってやったけどダメだったな!!!!

 悪いなバーグ!!!トリも、カタリだっけかぁ!?

 カタリもごめんなぁ!!!!』


 キィーン、と無線にノイズが入る大声で言うは、右肩に(勝手に)乗っているサウスダコタ。


『声がデカいぜ、ステイツの高速戦艦!

 んな事よりそろそろ見えてきたぜ?』


 と、頭の上で腕を組んで立っている陸奥の言う通り、遠くに見えていた物がいよいよ細部まで分かるほどに近くなってくる。


 巨大な卵。


 そうとしか表現できない、海の上、空中に浮かぶ巨大な物体。


「エターナル……!」


『久々にあの休眠形態を見ましたね』


「ふーん、久々なのね」


「うん、アレを見たのはだいぶ前……え?」


 一瞬、今の声が誰か分からずそちらへ顔を向ける。


 すぐ目の前、逆さの美少女の顔があった。


「うわぁ!?!?」


「待ちきれなくて迎えにきちゃったわ。

 あなたがいないと、あそこの協力者が動いてくれないの」


 何が異常と言えば、ノベライザーの外から上半身だけを透過させて出てきている。

 そう言いながらニュルンとコックピットを通り抜けて外へ出た瞬間、カタリはなんとも言えない恐怖を覚えた。


『何がどうなって!?

 この距離で反応が!?!』


「あぁ……あぁ……な、何この……何……!」


 流石に動揺するカタリ。

 しかし、外に出た彼女は錨のような鎖鎌、いや鎖鎌のような錨で一瞬で拘束される。



『てめぇ!一体全体なんのつもりだ!?』


「その質問、どれから答えればいいのかしら?

 急にあなたたちの前に現れたこと?

 それとももっと大前提?」



 ───分かっただろうか?

 彼女は外だが、彼女の声はまるで目の前にいるかのように聞こえて来る。

 無線機越しのノイズ混じりの陸奥との対比で気づいてしまったカタリは、余計に恐怖を覚えた。


『大前提だぁ!?テメェ……じゃあ洗いざらい頭から先まで喋って貰おうか!?』


「きゃー怖ーい!

 ────まぁその前に」


 再びあのD.E.E.P.らしき彼女の声が背後から聞こえる。

 全く目を離していなかったはずなのに、彼女は後ろにいてカタリの顔に手を当てていた。


「ヒッ─────」


「まだまだ力は弱いけど、流石は『作家』……うーん何かちょっとニュアンスが違うわねこの言い方?」


「何を言って……?」


「ねぇ?ところで、敵が違うわよあなた?

 まぁたしかに故あってあんな世界を破壊するケダモノ使わなきゃいけないけど、


 ────あなた、正義感で救おうとしている物がそれ以上の怪物なのに気付かない?」


「え?え?」


『カタリさんから離れなさい!!!

 さもないと……!』


「きゃー怖ーい!うふふふふふふ♪」


 すぅ、とまるで煙のように消える。


「はぁー……!はぁーっ……!?はぁー……!?!」


 カタリは過呼吸のまま、つい周囲をノベライザーごと見回す。


『落ち着いてくださいカタリさん!!

 相手はあの物体の前です!!』


「!!」


 慌てて、ノベライザーをあのエターナルの卵へ向ける。







「さて……見せてあげましょうか。

 世界を『永遠に止めてしまう物』を」




 す、と腕を動かすと共に、巨大な卵型の物体にヒビが入る。


 瞬間、ドロリと粘度の高い何かが溢れ出し、海へと滴り落ちていく。




 ────歌が聞こえた。


「なんの歌だ……?」


『?カタリさん、何を……?」


 その奇妙な歌は、カタリにははっきり聞こえたが、バーグには聞こえていない。


『なんだ……?』


『ぐっ……!?」


 だが、混乱するサウスダコタや、耳を押さえる陸奥はカタリ同様聞こえているらしい。

 だが不意に、陸奥がうずくまった瞬間バランスを崩して落ちかけ、慌ててノベライザーの腕でキャッチする。


「陸奥さん!?陸奥さんどうしたんですか!?!?」


『か……体に……力が……入らな……いや、抜けてくみたいだ……』


『陸奥ぅ!!!!オイ陸奥!!!!

 しっかりしろ陸奥!!!』


『ダコタ……お前……そんな声小、さ……』


 駆け寄って、抱え上げて陸奥がガクンと身体の力が抜けるように気絶する。


『オイィ!?!?

 起きろ陸奥ぅぅぅぅうぅ!?!??!!』


『何が起こっているんですか??カタリさん、歌って!?!?』


「あれを見て!!!」








 aaaaa───────♪



 あの謎のD.E.E.P.が歌っていた。

 その歌を聞いて、数隻のフリートレスが倒れ、沈みかけている。


「那珂ちゃん!!起きて、ねぇ!!!」


「冗談だよね!?ねぇ五月雨ちゃん!!!」


 そして、それは起こる。



 すぅ、と光る人影達が、あの歌うD.E.E.P.の周りにやってくる。

 当然、それは何かと融合する前のD.E.E.P.だ。


 10以上もいる影が、海へと滴り落ちるドロリとしたあの液体に、ピタリとくっついていく。



 光った瞬間、最悪の事態が起きた。


 どす黒い漆黒の光。


 そうとしか思えない物が辺りに爆発するように広がり、海は爆ぜ、『文字』と化す。











「え……?」


 瞬間、近くにいた神通達に光が迫る。

 その時、神通を掴んで投げる腕が二つ。


「!?」


 ラフィーと綾波が神通を全力で投げた。

 二人を呆気に取られた顔で見た神通が最後に見たのは、


 鼻水を垂らして情けなく泣いて、それでも笑顔を見せる綾波と、

 ごめん、とでも言いたげに、こっちに主砲を向けるラフィーの姿。


 駆逐艦の主砲の一発程度は防げる。

 だが反動で一瞬で遠く飛ばされるだろう。

 そこまでは分かったが、神通は分かりたくはなかった。


 弾が迫る。

 当たった瞬間、二人が文字になって消える。


 自分は、

 何もできず吹き飛ばされた。








「なんだこれ……!?」




 黒い文字、黒い光。

 見たこともない色で、見知った現象が起こる。

 海が消えて、何もない漆黒の空間と、禍々しい文字に変わって。




 ───GuGYurururururu!!!!



 その爆心地にいたエターナルは、

 屈強な脚が生えたサメに似た怪獣のような姿で、

 その全身には、苦悶と暗い目から黒い涙を流す女性の彫刻のような物があちこちにあった。



『……取り込んだ……D.E.E.P.を、エターナルが?』



 ようやく、

 バーグがこの絶望的な光景を、表現してくれた。

 ただ、なぜだろう?



 ────カタリは今までに感じたことの無い恐怖を相手から感じていた。



 何かが、決定的に何かが、


 



 違うのだと、今までと全てにおいて。



         ***

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