第四話:襲来!未知の敵!!





 ───暗い海。


 そんな光の届かない場所で響く歌声。

 海中を進む巨大な影。


「───あら、あなたも何か感じたのかしら?

 うふふふ……♪」


 誰かの声がささやく。


「あなたの敵と私達の天敵、早く滅ぼせると良いわね?」


           ***



 大東亜連合中枢国、大日皇国。

 先端医療センター フリートレス用大病室。



 ────響く、どこか哀愁を漂うハーモニカのメロディー。

 ふと目覚めるカタリは、煩いと言う感情はなく、ただ聞き入ってしまっていた。


 誰が、と確認する事もできたが、何故か心に染みるそれをただ聞き入ってしまう。


 ──────なぜか涙が出て来た。


 妙に悲しいのだ……いや、きっと泣いているのはこのメロディーなのだと、ガラにもないことを考え……しかしそれが正しいと直感してしまう。


(…………ダメだ)


 カーテンを開ける。

 ふと、窓際に腰掛ける女性が、ハーモニカを吹いているのが見える。

 数日前、きちんと目を覚ました時に壁際にいた、長い髪を後ろでまとめた、白い海軍制服っぽい格好の女性。

 いや……恐らくフリートレスが。


 ふと演奏を辞め、彼女がこちらを見る。


「煩かったか?」


「…………泣いているように聞こえて、」


「……良く分かったな」


 その言葉の前、僅かな表情がカタリにはあまりに鎮痛な物を思わせた。


「ここは、病室というよりは『霊安室』だ。

 そこの愛宕も、夕立も出て行きたくなるのも分かる。


 見てくれこの寝顔……まるで魂ごと寝てしまったみたいだ…………つまり死体みたいな顔だ」


 周りのフリートレスは、難しい顔のまま目を瞑る。

 呼吸は小さく心音もあまりに弱い……


 と、カタリは自分の感覚に遅れて、あることに気づく。


「……浮かばれない顔を、してますね……」


「……ああ」


 彼女も、今にもどこか泣きそうな顔でそう答える。


「……眠りたくなんか無かったさ。

 まだ戦えた。いや戦える。

 沈むには……早すぎないか?」


「……頭では、よく分からないんです。

 ただ……なんでしょう、直感……?

 いや……心が……」


「……」


「彼女達は……悲しそうで……

 救い出せるなら、救い出したい……

 そう思ったんです……」


「…………そうか」


 す、と彼女がカタリへ近づく。


「私は長門。ビッグセブンの一隻だ。

 異世界の人間ってやつは、私たちの事も分かってしまうようだな?」


「いえ……カタリィ・ノヴェルです。

 僕もなんとなくって言うだけで」


「だが、恐らくはお前も……お前の敵が関わっているのも分かるだろう?」


 言われて、カタリは表情を曇らせる。


「…………愛宕さんから、少しは」


「ああ……これは喋る……いや、『歌う』D.E.E.P.のせいだが、同時にここの面々は見た。


 海から浮かび上がった不気味な卵のような物体と、それを連れさっていくD.E.E.P.達をな」


「…………」


「……お前のロボだが、今朝方沖縄の在留ステイツ軍基地に運ばれたらしい」


「!」


 と、思わぬ情報に驚く。


「ブラックボックスの解析ができないと上の人間は言っているが、壊れた部分は修理可能だったらしい。

 どうも、ビッグセブンの手足の参考にしたいぐらいの洗練された手足だったらしいぞ?」


「そ……それはそれとして……9週間で修理と調査を?」


「ステイツとクイーンダムの合同作業でな。

 工作艦と、私達の中でも一番頭の良いヤツのおかげさ」


 少し驚く。

 ノベライザーの解析できない部位を解析できないと判断するまで、9週間で見れた事まで含めて。

 専門的な事はカタリも理解はできないが、前に少しだけノベライザーの解析が難しいことを聞いてはいたからだ。


「……それより、トリさんとバーグさんは……?」


「トリ……?」


「───マジでアイツ『トリ』って名前なのか」


 ふと、シュタッと窓に降り立つ影が一つ。

 羽織る海軍の白い制服と、その下に着込むはまるで忍者のようなメッシュとピッチリとした素材の服。


「陸奥!沖縄からもう!?」


「オイオイ長門ねぇよ。オレの速さは世界一だぜ?

 まぁんな事ぁ今は良いんだよ。


 そこの兄ちゃんに用があんだ」


 どうも陸奥という彼女の目的はカタリのようだった。


「僕になにか?」


「ああ、そうだよ。

 世界を救いにきてくれた、異世界からのヒーロー様に用ってこと!」


 はっ、と長門もカタリも意味を理解する。


「敵か!?」


「30分前に太平洋だ。

 予想進路は驚くなよ……ここだ!!」


 簡潔かつ最悪な知らせ。

 もしや……


「僕が狙いですか!?」


「それと私たちって所か……

 陸奥、艤装はどうなっている?」


「最悪の知らせってしか言えないな」


「…………ビッグセブン無しで、この惨状の原因と、カタリの敵と戦えということか?」


 うなづく陸奥。

 思わず、周りのまだ眠る皆を見るカタリ。


「……兄ちゃんよその顔、本当に正義のヒーローっぽいぜ?」


「え……!」


「けど向くべき方向が違う辺り、青いぜ兄ちゃん?

 けどそんな顔できる良心があるってんなら急いでオレに掴まれ。

 もう時間がねぇ」


「!

 すみません!」


 選択肢はない。

 陸奥という彼女に掴まった瞬間、背負われて一気に景色が飛ぶ。


「う─────」


「舌噛むなよ!!

 『潮風の覇者』陸奥様の速度は、こんなもんじゃねぇからな!!」


「なんか知っている勢いだぁ──────!?」


 まさに音速。

 一瞬で景色が置き去りになり、ついでにパラリと服のポケットから落とし物をしてカタリは陸奥に引っ張られていく。








「…………そそっかしい妹だ。

 仮にも客人の荷物を何か落としてるっていうのに……」


 やれやれ、と長門はそれを取ろうとする。


 そして、その『栞』を見て驚く。



「これは……!?」


 赤と白のロボットが描かれた表、裏面に書かれた『メディキュリオス』の文字。


 瞬間、長門は服の胸元を開けて手を入れ、あるものを取り出す。


「不思議だな……分かるぞ……数年前、散歩で登ったヒマラヤの山頂で見つけた物とこいつは……!」


 それは同じ長方形の形。

 青と水色のカッコをくっつけた四角形。

 それが描かれた栞。





「同じ物だ……!

 これは、奴の物だったのか……!」






          ***



 東京湾。


 あらゆる現代艦艇が……そしてあらゆるフリートレスが今、集結していた。



『こちら護衛艦『じんつう』。

 ソナー感!グリッドA-23、深度10!そちらは見えるか!?』


「はいはい、こちら那珂ちゃんでーす!

 こっちもソナー感でーす!本番来ちゃったかぁ……!」


 水色の半透明な特殊装甲を纏う、軽巡洋艦装少女ライトクルーズフリートレスの那珂がうへぇと言う声でそう報告を入れる。


「っしゃぁ!!急造二水戦のみんな!!

 出番だから行くしかないっしょ!?」


「お姉ぇー……この面々で大丈夫かなぁ?」


「うぅぅぅうぅ……もう帰りたいよぉ……!

 水雷魂足りない感じするよぉ……!!」


 那珂の視線の先で震える駆逐艦装少女デストロイフリートレスは、特Ⅱ型駆逐艦1番艦の『綾波あやなみ』。


「あ、ちょっと待ってくださいっス!!

 今ちょっと、いいマッチング来たんス!!結構かっこいい人!」


 と言って、フリートライザー片手にマッチングアプリを開く褐色金髪染めな白露型5番春雨はるさめが必死な形相を見せる。


「みんなだらしないぞ!

 やる気がない奴は帰ってヨシ!!」


 そして海外からの協力艦、ベンソン級ラフィー。


 一人だけ星型サングラスにポップコーンとコーラ持参のだらしない私服で来ている。





「ツッコミが追いつかないんですけどぉ!?!




 それと春雨ちゃん、どんなメンズ?見せて!!」


「神通お姉ぇー!!!あきらめないでぇ!?!」


 気がつけば、人類の希望達は全員マッチングアプリの顔写真を見てキャイキャイ言っている。


「イケメンじゃん……」


「えーでもなんか頼りなさそうじゃん?」


「いやいや日本人ならこれで充分……」


「ふーん、この世界のセクシャルって複雑なのね……」


「……!?


 まってみんな!!そこの子だ、」


 れ、まで言う前に、覗き込んでいた顔へ神通の一撃が飛ぶ。


 パン、と音と衝撃波が見えるストレートは、しかし空を切るのみ。




「乱暴ね」



 だが、直後聞こえてきた声は神通の真横。

 顔を向ければ、逆さの顔が、蠱惑的こわくてきな笑みでこちらを見ている。


 

「何さ、あんたァ……?」


「あらあら、怖い怖い。

 まだ手も出していないのにもう銃口を向けるのね?」


 全員、艤装の砲は至近距離まで近づいて、逆さの綺麗な顔へと向けている。

 変わった格好だった……プロテクターというより拘束具に見えるような、黒いラバーの上の衣装。

 スタイルの良いすらりとした手足を、逆さのまま動かして、何もない空中を歩く。


 すでに不気味さは最高潮だ。

 人間に見えるが……人間じゃない。


「質問に答えないのも酷いんじゃない?

 撃たれても仕方ないっしょ、ねェ!?!」


 右腕の単装砲二つを向ける神通。

 しかし謎の存在はどこ吹く風といった顔で思案するような顔を逆さまのまま見せる。


「ふーむ……でも答えるのも難しいのよね。

 名前はみだりに教えちゃいけませんってお母様に言われているもの」


「舐めてんのあんた……!?あ?」


「うーん……まぁ失礼よね……まぁアレかしら?」


 臨戦態勢のフリートレス達に、何か思いついたような顔を見せてそう言う。


「Dimension

 Entered

 Enemy,from

 Parallel world




 で、『D.E.E.P.』って私達に名付けてくれたのだから、そう名乗るべき?」




 にこりと笑って言い放つその言葉。


 瞬間、『我、夜戦ニ突入ス』と何も言わずに全員が臨戦態勢に。



「ああ、待って!!

 まだよ、まだまだ、早いわよ!?」


『あ?』


「だってまだ、私達の協力者を読んでいないもの」


 くい、と手を招くように動かす。


 瞬間、海が盛り上がり、突然何かが現れる。



「何……!?」



 神通達が見守る真上、謎の力で浮かぶ白い塊。



 卵。



 何故か、本能的にそう感じてしまう、神通以下のフリートレス達。



 だがその大きさは、

 周りで待機する護衛艦並みのサイズがある。



「これで後は……この『協力者さんの敵』を待つばかりね」



 うふふ、と笑う言葉を話す謎のD.E.E.P.

 それだけでも異常なのに、より巨大な、


 何か禍々しい空気を出し、胎動するような力を滲ませる卵に、目が離せない。



「なんかヤバイよ……!!

 なんかあれヤバイよ!!!絶対ダメな奴!!!!

 あっちも怖いけど、こっちがヤバイ!!!!」


「落ち着くし綾波ちゃぁん!?!!?

 まだ攻撃しないで!!!!」


「無理……無理だよアレ!!!!」


 ガタガタ震える綾波。だが咎められない。



 皆同じ気持ちだからだ。



「安心して。役者が揃うまで待ってあげるから」


 そして不敵に笑う謎のD.E.E.P.

 一触即発の中…………何かを待っているようだ。




 その何かとは…………



          ***

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