Another PHASE 1 :我々はG.W.S.





 夜、大日皇国先端医療センターの一室。

 カタリが目覚める前



「カルテの整理終わりデース!!

 じゃ、飲みにでも行くデスかね……」


 鼻歌まじりに、着替えるは叢雲。

 白衣を脱いで、小柄な割に出るところは出ている体型のセーラー服風な衣装になって、ロッカーを開けて白衣をハンガーにかける。


「ふいー、今日も仕事は終わりデース!」


「───ごめんね村上むらかみセンセ、もう一個仕事あるよ」


 パタン、とロッカーを閉めたその先に、唐突に現れた人物。

 彼女は、普通の人間には見えた。

 化粧っ気はないがまぁ美人で、背も叢雲よりは高いが160cm程度。


 黒いどこかの制服に身を包み、上げた右手の方から下げられたベルトには、箱型のサブマシンガン……いや、『個人防衛火器PDW』。


 明らかに異常、叢雲も固まる。

 だがそれは、突然の謎の武装した侵入者への驚愕というよりは……


「な……なんで人間だった頃の名前を……?」


「いやいや、覚えてない?

 数年前、末期癌で入院してた時、会ってるんだけど?」


「……?

 え、まさか……その黒い格好……!!」


「これあった方が分かる?」


 す、と取り出すは、某製菓のクッキー生地の棒にチョコがコーティングされた物。

 わざわざ目の前で食べた姿に、ぷっと吹き出す叢雲。


「ぷっ……!

 院内でボロボロ溢すようなの食べちゃダメデース!」


「死神のお仕事って甘いもの無いとキツいんだよ?」


 それは、

 まだ叢雲が、村上という名字の今にも死ぬ寸前だったころ、自分の育てた医院で交わされた会話そのままだった。













「ここがフリートレス専用病練か……

 ヤクいねぇ〜」


「厄い?」


 数分後、黒い服の彼女────自称「死神」と共に叢雲は病院内を歩いていた。


「こっちの話。

 例のあの子がいるのはあそこ?」


「アラ、一髪で当てるとは」


「───先客がいるからさ」


 かちゃり、と音を立てて取り出すは、四角い形の今の時代ですら『近未来的』と言われるデザインのそれ。


 FN P90


 サブマシンガンから派生したそれは、より貫通力と対ボディアーマー性能を高めた特殊弾を撃つための武器。


 まぁ、叢雲が何かいう前にターンッ、と一発撃った物がドアに穴を開けたのを見れば恐ろしさは分かる。


「院内で発砲は止めるデース!?」


「撃たなかったらもっとヤバいことになってるよ、先生」





 ドアを開ける。

 そこには、なかなか信じ難い光景があった。


 D.E.E.P.がいた。

 いや、周囲の物質を取り込む前の、どこか美しい女性の身体が。


 見事、胸のあたりを撃たれ、血のかわりに光の粒子が出ている。


「で……!?」


「この状態なら、私達でも殺せるか」


 タタタンッ!!

 病室で短く響いたフルオート。

 弾丸が当たったD.E.E.P.は、瞬間パァンと光の粒子となって霧散した。


「なんだよ!逃げるの早いな……!」


「なぜ海から現れるはずのD.E.E.P.が……!!」


「海以外から現れないようお掃除している人がいるんじゃないかなぁ〜?

 目の前とかに」


 この状況でまだ皆がぐっすり寝ている。夕立やまだ唸っている愛宕など、まるで聞こえていないように。


「本当に死神さんなんデスね。あれだけ撃って弾痕もない」


「全弾特注のデスサイズ弾だよ。

 書類書くのも面倒だけど」


「そんな高価な物で守るのデス?彼を」


 すぐ近く。

 もう包帯も取れた、異世界からの少年が一人。


「普段はこんなことしないさ。異世界からの侵略も、普通の人々が対抗できるって言うなら、私たちは裏方。

 まぁ、魂奪ったりするって言うなら取り返しには行くけどね」


「死神がデス?」


「我々『G.W.S.』、『グリムリーパーウェポンズサービス』はそういう業務の多すぎる死神として生まれたの。コレからね」


 例のお菓子をポッキりと口で折って食べる彼女。

 指差して言うのは、今撃った銃、P90だ。


「銃器の死神デスと?」


「銃だぞ?殺すって形の究極でしょ?

 下手なデスサイズより確実に……ああお医者様だしそう言うの酷いか?」


「ふふ……何人立ち会って来たと思うデス?」


「それ、結構もう古参の死神の私に言っちゃう?」


「ま、全然年下にしか見えないデスけど?」


 はははは、と笑う二人。

 変な光景、という言葉がしっくりくる。


「……何が起ころうとしているんデース?」


 ふと、神妙な面持ちで叢雲が彼女に尋ねる。

 すぅ、と問われた彼女も、目を鋭く細めて見返す。


「ヤバい戦い。フリートレスの皆さんも、人間もいっぱい死ぬ。

 大忙しだよ、銃身加熱待ったなし。


 でも、彼がいるせいでもっと最悪な未来もあり得るかもしれない。


 正確には、彼がもし敵を倒せそうになかったら……だけどね」




 ベッドを指さす。

 カタリィ・ノヴェルの寝ているベッドを。



「だから、最悪の場合普段は表に出てこない私達も、

 ちょっとだけ彼に手を貸すかもね」


「…………いやな予言デス」


「村上先生、いや叢雲か今は。

 まぁこんなことあなただって、死にかけたとき私達見てなきゃ信じないでしょ。

 黙ってても喋ってもいい。上はあなた達が現れる前から我々の存在は知っているし」


「で、そう言うってことは、何か頼みでもあるデス?」


「難しい事じゃないよ。

 次に会った時、驚かないでねってだけ」


 じゃ、と言って彼女は歩き出す。


「また次も会えるって事は、まさかまた私の『死期』が近づいているって事デス?」


「…………ふふふ、」


 そう言って、片手を振ってドアを出る。


 即座にドアを開けて廊下を見回す叢雲。

 …………誰もいない。




「グリムリーパー・ウェポンズ・サービス……

 最初に見たときは、ホスピス治療中でしたけど、」


 つい呟きながら、廊下に出てドアを閉める。


「……見た目は普通ですけど、メチャクチャ背筋が凍る感覚で怖いデス。




 本物の、死神…………


 それが何の力を貸す気デース?」




 やがて、疑問はあるが叢雲もその場を離れた。

 今はたらふく飲みたい気分だった。



          ***

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