第一章:復活!ノベライザー、再び大地に立つ

第一話:カタリィ・ノヴェル、入院することになりました……え?







 ────全身痛い。すごくボーッとする。



『血圧低下!!危険です!!薬剤投与!!』


『原型とどめてるのが奇跡なぐらいグッチャグッチャな患者デース!??』



 え、グッチャグッチャ??

 まずいなー、僕死んじゃうなー……だって、痛いこと以外感覚もないし……なんか……色々思い出せないし……


『これどう手術するんですか!?!

 どこから手をつけます!?!?!』


『…………どこからやっても手に施しよう無いデスね♪

 デスデス、DEATH☆』


『くっそぉ!!

 こんなんでもベテラン医か!!

 ……冗談じゃなさすぎて……!』


 ……ダメか……まぁダメだよね。

 だって……ダメなこと以外分からないというか、あー意識がー………………


『あー!?!心停止デース!?!?』






 ………………

 …………

 ……










 …………眠ーい、いや寝てるのかな……僕……??




『ドクター叢雲むらくも

 なんでこれで生きてるんですかね?』


『知らねーデスよ。これから調べるんデスから』


『でもありえませんよ!

 我らが大日皇国の先端医療センターのひと月に渡る検査でも、「ただの人間」だったんですよ……!?

 DNAも細胞を構成する物質まで……』


『だから知らねーって言ってるデスよ。

 ただの人間が、粉末同然の骨が1ヶ月で原型が分かる程度に戻って行く理由なんて』


『デタラメですよねぇ……運命とか外宇宙の意思で無理くり生かされている、って言われた方が信じられますよ……』


『……待つデス。

 じゃあ、つまり、内部的な要因、いや生物的な要因での回復ではない?』


『……あ、そうか!

 医学がダメなら、別の学問でアプローチを!』


『ここではもう経過観察しか出来ないデスね……

 別に専門家を呼ぶデス!』



 …………何話してんだろう……??








 ……………………

 ………………

 …………

 ……






『────現実改変??』


 ……煩いなぁ、もうちょっと寝かせて……


『エリア51で、今もあの機体は内部の解析不能部位ブラックボックスが稼働し続けている。


 なんでかは分からないんだが、何が起きているかはステイツと我がクイーンダム合同での研究でようやく何をしているのかを掴みかけていたんだ。

 そこで先生の報告が決定打になった』


『賢者の騎士サマに先生と言われるのはむず痒いデスね?』


『そんなことはないさ、ドクター叢雲?

 だけど驚いたよ……素粒子や未知のエネルギーの流れの収束地点が彼だったんだ。

 これで決まったよ。

 あの機体が、あの顔面に文字のある青いロボットが彼を生かそうとしているだなん』



『違います、お姉様。

 彼が、あの機体を無意識に操っているんです』



 …………??

 流れが変わった……???



『彼は、薄らですが、起きています。

 半死半生、そんな状態でも意思が、あの青いカクヨムと顔に書かれた人型機械の、未知の力を使って自分を治している』



 ……え?カクヨム……?青い機体……!


 あ、あ、あ……!!



『うぎゃー!?!急に容態が変わったデース!?!?』


『しまった、この会話も聞こえている!?!』


『なんだって!?!』





 起きなきゃ!!!

 バーグさんが!!トリさんが!!!!

 ノベライザーを動かして……世界が文字化して……!?!?






「落ち着いて!!!」




 はっ、と気がつけば、

 僕の目の前には、綺麗な銀髪の女性がいる。

 メイド服なのかな……?

 その、胸元とかが結構……目のやり場に……



「バイタル、安定したデス……?

 あー……もしもーし、聞こえるデスかー?」



 なんでこんな所にちっちゃい女の子が、とも思ったけど、よく見れば金髪で癖っ毛のその人は、何故かセーラー服の上から白衣を羽織るし、首から下げてる顔写真入りの、身分証明書みたいなのには、『医師』って書いてあった。


「あ……は、い……!?」


 いや、全身痛い!?!

 動かせば鋭くピキってくるし、動かさなくてもじわじわ痛い!?!


「私、あなたの担当のドクターの叢雲むらくもデース。

 気分は?」


「先、せぇ……全身、い……たいです……!」


「ワーオ、意外と根性あるようデスね……!

 これなら治るはず……」


「あの……僕……どうなって……?」


「……なんとなく分かるはずデス。

 恐らく、詳しく言えば、ショックで心肺に来るぐらいは。

 大丈夫、安静にしていれば治るデス。

 曖昧さも人生には大切デスデス」


 分からなくもないけど……!


「……い、痛い原因……知った方が……?」


「辞めとくデス。マジで痛々しいデス」


「見せてあげたら良いんじゃないですか、イケメン君の顔?」


「はい、斜め横の病人!

 そっちも大概な状態なんデスから安静に!!

 まったく……」


 ここ相部屋なんだ……

 先生に後ろにもカーテンで区切られたベッドがあるし、今斜め左のベッドでミイラな女の子が包帯ぐるぐるの右手でこっちに手を振っている。

 すぐ痛いのか抑えたけど……


「…………あんな……かんじ……か……」


 あーダメだ……やっぱり辛いや…………





『あー……寝ちゃったデス……』


『まぁこの怪我じゃな……寝かせてあげないとな』


『そうですね……一度お暇しちゃいましょうか…………』



 声が……遠くなる…………


 ああでも、大体分かったかな…………


 そういえば、バーグさんも……言ってたっけ……


 一筋縄じゃいかない世界…………







 ああ、そういえば


 ここへ来た時も………………






          ***



 ピッピッピッピッ、


 大日皇国、帝都先端医療センター



 隔離病連、大部屋の一つ。



「あーーーーーーーーーーーーーーーーーー……

 ひまだー、身体が動かせないなんて暇だー!!

 私はじっとしているの嫌なんですよー!!」


「もぉ!!!

 他の人に迷惑でしょ!!」


「あんたも煩い!」


「ごぶっ!?」


 全身包帯の少女のセリフに、ツーサイドアップのセーラーっぽい服の髪の少女が注意し、その背後から拳骨一髪を放つ赤い髪のツインテールの同じ顔の少女。

 一撃で沈み、ツーサイドアップの子が倒れて包帯の少女へぶつかってぎゃーと叫び声が上がる。


「きゅ〜……」


「ギャー!?!折れてる!!

 まだ折れてる所ぉ!!!傷口開いたらどうすんですか!?」


「あ、ごめん……」


「もぉ!

 時雨しぐれ姉さんは、すぐゴリラの本性表すんだから!!」


「はぁ〜〜〜????

 誰がゴリラですってぇ〜〜〜〜????」


「誰も私の心肺してくれないよぉ〜…………」


「あ……村雨むらさめ姉さん本当ごめんなさい……」




「はいはい、ゴリラ型駆逐艦ちゃん達、ウホウホうるさいのデス」




 と、やってくる金髪の小さな少女に見える先生の叢雲。


「あ、先生……痛い」


「はーい、夕立ゆうだちちゃん、採血デス」


 言うなり手っ取り早く夕立に銃みたいな注射器を打ち込んで採血する。

 プシュー、と青白い血───フリートレスの血であるフリートブルーが抜かれる。


「一応念のため3本抜いておくデス」


「……例の新型D.E.E.P.の影響を調べるのに?」


「ええ……あの場で、無事に近い状態で帰投できたのは、夕立ちゃんだけデスから」


「無事、ですかぁ……全身バッキバキに痛いのに」


「アレよりはマシデスよ」


 叢雲が指差す先、斜め左のベッドの上。



 ────人工呼吸器に繋がれた包帯に巻かれた身体は、外部の枠で全身骨を固定されている状態だ。


 全身。全身をである。

 頭の先、背骨、腕、脚、


 そう、全てボルトで固定されている。



「痛そう……」


「痛いだけマシデース!生きてるのが不思議だったんデスよ運ばれた時は!

 全身粉砕骨折!!脳波は微弱で心臓が動いているかどうか!!

 巨大な物になんどもすごいパワーでグチャグチャにされてて、原型を留めていたのがおかしいぐらい!」


「それ、1ヶ月前の話ですよね?

 1ヶ月で……骨って固定できるまでになるんですか?」


「なるわけねーデス、なんなら手の施し用なさすぎたぐらいで!!

 なんであそこからここまで回復できたか、2日前まで分かんないぐらいデス!」


 ふぅ〜、と心底疲れた顔でいう叢雲。

 ふと、真顔に戻る。


「まぁ、夕立ちゃんがなんで無事だったのかが一番謎デス。

 新型D.E.E.P.の攻撃で、他の艦は皆この通り昏睡状態デスし、何より………」


「私だけあの攻撃で無事だったから?」






 神妙な顔で、夕立は周りを見る。

 隣、大東亜連合駆逐艦『陽炎』の静かな……いや静かすぎる寝顔。

 その隣にはステイツ重巡洋艦『ペンサコーラ』、

 クイーンダム巡戦の『レパルス』、駆逐艦『ビーグル』、『ブルドック』、

 EUG重巡、『ブリュッヒャー』、駆逐艦『Z2』、


 ざっと見渡すだけで、凄まじい数のフリートレスが、死んだように眠っている。


 ここはフリートレス用病室。

 駆逐艦装少女、夕立と、見舞いに来た姉妹艦の時雨と村雨むらさめ以外は全員昏睡状態だ。



「……ねぇ、先生?もうリハビリの為に、」


「あなた元気な割にあちこち折れて修復中デス!

 ドッグ無しデス、工作艦も過労デス!

 悪化したらもっと入院期間が、」


「ここ……まるで鉄底海峡アイアンボトムサウンドみたいなんですよ!」


 と、必死な声に周り怪訝な……いや、なんだか納得した顔をする。


「……深海っぽい、とでも言うデス?」


「先生は、元人間で、分からないかもですけど……」


「いや……なんか……そんな感じデス」


 ここは、人には何も感じない。

 だが、何故かフリートレスには重苦しく、嫌な気分になる空気が……


 いや、空気というには、余りにも重く、淀んで冷たく、磯臭い。

 いや、磯臭いは気のせいだが、どうにも彼女らにはここが、深海のように感じるのだ。


「……欲を言えば、あの大怪我の彼の隣にベッド移して欲しいです……

 あそこだけ、なんか……」


「……変な話ですよね。

 彼、手の施し用があらゆる意味でないからここに移したんデスけど……

 なんか、清涼剤みたいになりそうな気がしたのデス」


「それ当たってるかも……私も夕立が起きているからここにいれるだけって感じで……」


「……けっこう可愛かっこいい顔の彼って、何者なんです?」


 村雨が少しポーっとした眼差しで見る彼、生きているのが不思議な男の事を尋ねる。


「さぁ?

 異世界から来て、巨大なロボに乗ってるって事以外は知らないデス。


 主人公くんとでも呼んでおくデスよ」


 言われて、3人は改めてそんな『主人公くん』を見る。


「……気になる」


「イケメン……!」


「村雨ぇ、また男で痛い目に合う気?」


「う……良い人だと良いな……」


「「この発情艦」」


「酷くない!?」


 はいはい、と3人を黙らせる叢雲。


「いずれにせよ、多分起き上がるまでそんなに時間かからないデスよ」


 そう、と叢雲は続ける。




「主人公くんデスよ?


 出番がある限りは、死ねない。

 それが本人にとって良い悪いは別にして……デス」





          ***

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