プロローグ3:集う7隻の戦艦






 異空間を抜けるノベライザー。

 それを密かに見る私、ベルファスト 。



「さて、いよいよ物語は動き始めます。

 謎の侵略者D.E.E.P.と戦う艦装少女フリートレスの世界へ、あらゆる世界を文字化させる謎の敵エターナルが現れると夢の中のマサチューセッツのお告げで聞かされたカタリ達一行は、次元を阻むいかd」



「それ以上は!!

 読者にとっても、未来の話だ」



 おやおや、謎の語り部くんはご立腹のようだ。


「地の文を私物化するのはやめていただこうか!!

 ベルファスト 、君は彼らを語る者ではない!!」


「残念だね。

 言ったかもしれないが、今回は私が彼らも、我が世界のフリートレス達も語る話なのだよ」


 そう、



「これから始まるのは、カタリ君達ノベライザーと、

 我らフリートレスの世界の存亡を賭けた戦い。


 そして、彼らノベライザーに、


 我々の持つ艦の力を継承させる物語。



 さて、ノベライザー組はまず、



 雷鳴、暗雲、そして意外な出会いから物語は始まるが、」



 私は、まずこの軍艦の防壁を開ける。



「まぁ我々は、文字通り私、こと……


 軽巡洋艦ベルファストから、話は始まる……」




          ***



 2160年、クイーンダム


 テムズ川南端『プール・オブ・ロンドン』



 クイーンダム戦争博物館分館、


 タウン級最終型エディンバラ級2番艦

 軽巡洋艦ベルファスト 、




「やっぱりクイーンダムの朝食は美味いな……!」


「いやいや姉貴、そのためにまさか来たとか言わないよ……な?」




 を、一望できるダイニングレストラン。


 現在、貸し切り中。



「陸奥、クイーンダムはそもそも産業革命やら何やらで調理法が残らなかっただけで、本来は飯も美味い国だ。

 特に朝飯は、俺たち大日皇国の、いや西洋文化圏全てに今の朝の定番の発祥地と言ってもいい」




 黒く長い髪をポニーテールに、白い海軍服風の身体のラインに合わせた衣装に身を包むは、


 戦艦装少女バトルシップフリートレス長門ながと一番艦ネームシップの長門。





「長門姉よぉ、オレは悲しいぜ……

 ビッグセブンの1人が、酷い放浪癖でよぉ……

 オレ達に老後があったら、きっと長門姉はアルツハイマーで気がついたら富士山の上にいるんだぜきっとよぉ……!!」



 短い髪に同じ軍服風衣装の上を肩で羽織り、メッシュとラバーの様な忍者風衣装を下に着る彼女、



 戦艦装少女バトルシップフリートレス長門ながと級2番艦、陸奥むつ



「老いか……老いは嫌だな……」


 そして後ろのテーブルから聞こえる声、


「なんだい、コロラドの姉さんよ?

 あんたの自慢の筋肉が衰えるのが嫌かい?」


 彼女は黒光する凄まじい筋肉の二の腕、元々大きいとはいえさらに大胸筋で押し上げられた胸に引き締まった腹、凄まじい密度の太腿と強靭そうな足を持つ美人なマッチョフリートレス、




「いや、このコロラド、骨が裏切らない限り筋肉は裏切らないさ。

 だが……老眼なんかになって、この伊達メガネが度付きになるのは嫌だな……まだ読みたい本で高負荷トレーニングが出来るからね」




 メガネの奥の瞳は理性的な、 戦艦装少女バトルシップフリートレス、コロラド級一番艦ネームシップのコロラドだ。




「老いか……」


「おや!珍しいな。メリーがこの手の話題に乗っかるとは」


 そんなコロラドの対岸で静かに食べていた、灰色の髪を右でまとめたワンサイドアップの少女、



戦艦装少女バトルシップフリートレス、コロラド級2番艦のメリーランドが静かにコロラドを向く。


「私の身体がたとえ時代遅れになっても、自分の技だけは衰えないでいて欲しい。

 いまだ志半ば、というほど志があるかも分からない未熟な身としては……」


 静かに自分の拳を見て言うメリーランドの、後ろから伸びた腕が両頬をつねって引っ張る。


「んわぁ!?」


「暗いぞお姉ちゃんよ!!

 後ろも隙だらけとは、ふふふ油断したな〜??」


「ぐっ……不覚ぅ……!!」


「はっはっはっは!!

 ジニー、その辺りにした前!あとが怖いぞ?」


 パッと手を離す彼女、星条旗ビキニにウェスタン風なジャケットにという中々刺激的な格好の美人、


 戦艦装少女バトルシップフリートレス、コロラド級3番艦、ウェストバージニアはにっこりと屈託のない笑顔を見せる。


「OK!!コロラド姉さん!!

 はい、メリー姉さんに仲直りのコーラのおかわりー」


「くっ……お前に後ろを取られるとは……!!」


「もぉ〜、真面目だなぁー?ちょっとふざけただけじゃん?」


「バージニア如きのおふざけそ避けられない自分がいかに修行不足か思い知らされる……!!」


「姉さん酷ーい」


「たしかに、バージニアぐらいは避けなければ行けないな?」


「コロラド姉さん酷いー!!

 ソーセージいただき!!」


「ああー!!!貴重な私のタンパク質とこんな時しか取れない脂質をー!!!」


 キャッキャじゃれあう2人と、どこか優しげに見守るメリーランド達コロラド級のじゃれあい。


 それを横から微笑ましそうに見る視線が一つ。



「仲がいい事はいいことですね、姉様?」


 銀色の髪とホワイトブリムなメイド服風の衣装に身を包む美人、




 戦艦装少女バトルシップフリートレス、ネルソン級2番艦、ロドニー




 そんな優しい声をかけられた相手は、


「老いとは肉体的細胞的劣化を指すとしたら我々の細胞アポトーシスは通常の哺乳類とは違うから当然時期もスピードも変わるはずだないやもしかすれば細胞劣化の原因であるテロメア部分の伝達も他と違うから肉体的な衰えはないかもしれないないやしかし考えたこともなかったないやまてよもし脳の劣化が起因の健忘症などを老いと含めたら」




 と言いながら食べかけのスプーンの豆をボロボロこぼし、口にマーマイトが付いたままのだらしない姿なのに、儀礼用風のキリッとした制服に身を包んだスタイル良しの背が高い銀髪碧眼の超絶美人。



 戦艦装少女バトルシップフリートレス、ネルソン級1番艦ネームシップ、ネルソン




「……」


 カッ、と殺意じみた気と恐ろしく見開かれた目と共に、ブワッ、とロドニーの髪の毛が風に煽られたように広がってたなびき始める。


 無論店内は無風。

 だが、カタカタと食器や椅子が不気味に振動し、いわゆるラップ音が鳴り始める。


「……ヤッベェぞ、ロドニーがキレた……!」


 陸奥が心底怯えて言う中、左手を何か支えるような形に、右手を前に突き出してゆっくりと手首を右に動かす。


 途端、まだ何か考えているネルソンが座った姿勢のまま、勝手に下の椅子が後ろに動く。


 右指をくるりと円を描くようよう動かすと、くるりと椅子が一回転し、


 鋭い4つの足が天を向いた状態で、

 すすすーと椅子が、まだ気付かず考え込んでいるネルソンのお尻の下に戻ってくる。


 ───そう尖った足を上に向けて。


『ヒッ!?』


 全員思わず悲鳴を上げる中、ロドニーは今までかざしていた左手を下ろす。


 瞬間、ネルソンのお尻がガクンと下がる。



「うぉ!?!」



 緊張の一瞬。


 ……しかし、


 なんとネルソンはギリギリで空気椅子で耐えた。


「おっ、おぉう……な、なんだかお尻に嫌な違和感が……!?」


「お目覚めですかお姉様?


 ───随分と、お食事中にも関わらず別の事ばかり考えているご様子ですが?」


「ろ、ロドニー?な、なぜそんな怖い顔を、」


「そんなことより、朝ごはんが覚めてしまいます。

 クイーンダムが栄えあるロイヤルネイビーの騎士団が一人、『賢者の騎士』ネルソンがお食事一つ出来なくはないでしょう?」


「待ってくれ、い、椅子が無いんだが」


「食べなさい。

 そのまま。こぼさず、余計な考え事も食事で遊ぶこともせず」


 その眼光はたとえ相手が女王陛下でも怯えて従わせるだけの力があった。


「……はい」


 ネルソンは、涙目で空気椅子に耐えながら、ちゃんと口を拭いて食事を続けさせられる。



「…………長門姉?オレって優しいだろ?」


「あ、ああ……」


「……真似しないでくれたまえよ妹達??」


「いや、コロラド姉こそ……」


「……作法は大事だが、まぁ……気の毒な……」



 

 ビッグセブン1、怒らせたら怖い戦艦、ロドニーはそのままため息をつく。


「まったく……突然やって来て紅茶をたかる長門さんだって、手土産は持参する理性も食事中はマナーを守ることができるというのに、


 仮にもロイヤルネイビーの華でもある我が姉は、自分の趣味の研究のために5日風呂も入らず食事も取らず、あのゴミ貯めみたいな部屋で埋もれて倒れてもずっと研究のことばかり。


 あなた、たまたまやってきた長門さん達に引っ張り出された挙句風呂の介護までされてこうやって食事に誘われているというのに……!!」


「いやその、申し訳ないとは思って、」


「誰が言い訳が聞きたいと言いました?」


「うっ……ごめんなさい」


「まったく……はぁ……」


 ロドニーは、静かに座り、苺ジャムを塗ったパンをサクリと食べる。


「……フリートレスだって栄養失調で死ぬのですよ?

 そうでなくとも……酷使した頭と身体でいざ戦闘になって……もしも沈んだら……そんなことになったら」


 ふと、今にも泣きそうな顔に変わったロドニー。

 慌ててネルソンは立ち上がる


「そんなロドニー!!私はそんな事には!!」


「ネルソン、」


 ふと、その肩を掴む長門。


「お前がどんなに天才でも、明日のことなんて分からない。

 そりゃ、お前が常に、世界を守るための研究に勤しんでいるには知っている。


 けどな、飯を残すのは、私が許さん!」


 と、椅子の上下を戻し、ちゃんと座らせ長門は笑みをネルソンへ向ける。


「ちゃんと食って、しっかり寝ろ。

 なぁに、どうせこの海は繋がってるんだ。

 お前が一回ぐらい出れなくなっても、私がその穴ぐらい埋めにくるさ」


「長門……!」


「いや長門姉よぉ、大東亜全域じゃあオレ一人でやれってか?」


「太平洋でしょ!?

 じゃあ、私ことウェスト・ヴァージニアちゃんが!」


「お前じゃ力不足だ」


「えぇ!?メリー姉さん酷ーい!!」


「そうだぞ!

 フィジカル不足は鍛えれば変えられるぞメリー!!」


「コロラド姉さん、その16インチの筋肉をしまって、はいポーズとらなーい!」


 ドヤ顔オリバーポーズのコロラドに、周りも、ネルソンも笑ってしまう。


「……姉さん、私たちには、」


「ああ。そうだなロドニー」


 ややあって、ちゃんとネルソンも食べ出す。

 よかった、と一息ついたロドニーは、








 ────その瞬間、目の前の景色が変わる。








「!?

 これは……!!」



 気がつけば、そこは瓦礫の山。


 そして──────




          ***

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