プロローグ2:マサチューセッツの頼み






 ────夢の中というのは不思議なもので、移動したつもりがないにもかかわらずカタリ達はマサチューセッツの目の前にいた。


 不思議なこ事だが疑問には思わない。

 これが、夢なのは分かっているから。



「久しぶり、か……うん」


「ん」


「思い返すと、結構前に会ったきりで……

 それもなんだか慌ただしい感じだったね」


「……あ、そっか……」


「え?」


「ううん。なんでもなーい」


 背で言えばカタリより高く、大人顔負けのスタイルでもどこか女の子っぽい言い方に、つい笑ってしまう。

 短い思い出の彼女そのままだった。


「……カタリ、これは夢だけど、夢とはちょっと違う。

 マサチュー、お願いがあってカタリ達を呼んだ」


「どういう事?」


「マサチューの世界に、カタリ達の敵が来る」


 はっ、となるカタリ。


 カタリ達の敵。エターナル。

 あらゆる世界を文字化させる謎の存在。


「なんで、分かるの?」


「今のマサチューにとって、そのことは過去の話」


「過去……?」


「……マサチュー、ちょっと未来の、のマサチュー」


 短い言葉に、カタリは衝撃を受ける。


「沈んだ、後……??」


「ん」


「それじゃあ……」


「……ひゅーどろろ、って言ったほうがいい??」


 手を胸の前で蟷螂のように……いや、要するに幽霊のポーズを構えるマサチューセッツ。

 洒落にならない。


「つまりここは、あなたが眠っている場所ですと?」


 トリの言葉に、小さくうなづくマサチューセッツ。


「私達は、沈んだら……眠っている場所に帰る。

 私達の魂は、たとえどんな世界の身体になろうと、そこから浮上して、そこに沈む」


「どんな世界の……??」


『カタリさんは知らないでしょうけど、艦装少女フリートレス以外にも、あらゆる世界にいるんです。

 呼び名こそ色々ありますが……ともかく、

 彼女達のように、艦の力を宿す少女達が』


「そう。

 そしてマサチューボク達は、必ずここに帰る」


 一瞬、マサチューセッツの姿が別の物に見えるカタリ。

 声も口調も変わった気がしたが、もう一度見た時には戻っていた。


「カタリ、お願い。

 マサチューの世界を救って。

 エターナルだけなら、マサチュー達でも追い払える。

 でも、奴らはエターナルも使う」


「奴ら……?」


「ちょっと待ってください!!

 まさか、アナタ達のて」


「ビッグセブンの力を継承して。

 そうじゃなきゃ、カタリでもアレに勝て


「待って!それってどういう……!?」


 瞬間、マサチューセッツとの距離が開いていく。

 まるで自動で動く床に乗るように、自分たちが遠ざかる。


「もう時間。

 これ以上は、ここから帰れなくなる」


「待ってよマサチューさん!!

 どういう事なんだ!?!」


「マサチューと夕立ゆうだちを探して!!

 ビッグセブンの力を継承して!!

 マサチューの世界を救うには、必要!!」


「待って!!マサチューさん!!待ってくれ!!」





「信じているから。

 カタリ、良い人だから───────」







          ***


 ……………………

 ………………

 …………

 ……





「────待って!!!」



 ガバッと起きるカタリ。

 息を切らして周りを見れば、非常灯だけの狭いコックピット。


 ノベライザーの中

 そして、自分はモーフを握り締め息を切らしている。


「…………やっぱり夢……

 だけど」


 気がつけば、その手には一冊の本。

 あらゆる軍艦の歴史を網羅していった、ジェーン海軍年鑑が握られている。


「カタリさんも見たんですね?」


「トリさん……!」


 気がつけば頭に乗っかるトリのセリフ。


『その様子ですと、私がウィルス感染していた訳ではないんですね』


「バーグさんも……!」


 皆、うんとうなづく。


「不思議なことに、栞が3枚無くなっています」


「誰かに盗まれた……?」


「ええ。でも何故、どうやって、はともかく、

 恐らくは、マサチューさんの関係者でしょうね」


『でも3枚もだなんて……貴重な物なのに、取りすぎです!』


「まぁ、そこら辺の文句も兼ねて、まずは行こう!」


「…………そうですねぇ……でもよりにもよって……」


「……トリさん?」


「……行くしかない、ですねぇ。

 さ、バーグさん準備してくださいな」


『分かりました』


 何やら、奥歯に詰まったような言い方と共に、そそくさとノベライザーの中へ入り、動力源となるトリ。


「……バーグさん、どういうこと?」


『現地で、なるべくフリートレスの皆さんを見ながら説明したほうが良いことです』


「……わかった!」


 決意と共に、ノベライザーのバイザーに書かれた『カクヨム』の字が光る。


「行こう!マサチューさんの世界に!」


 一度、夢が夢でない証拠であるジェーン海軍年鑑を見て、カタリは前を向く。

 ノベライザーが、発進する。



          ***

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る