プロローグ1:暁の水平線の夢






 ────ボォォン!!!


 古い戦列艦の側面の大砲が鳴り響く。

 トラファルガー岬の沖の海戦で進む『クイーンダム』旗艦ヴィクトリーが見える。



 時代が進む。


 船は鋼鉄に置き換わる。

 バルチック艦隊と連合海軍が戦い、『大日皇国』連合艦隊が勝利。

 旗艦三笠は凱旋する。


 クイーンダムが生み出した戦艦『ドレッドノート』は歴史を変える。


 海の戦争は激しくなる。

 第一次世界大戦が勃発。

 巡洋戦艦達が大きく沈むユトランド海戦。


 戦艦のサイズは、どんどん大きくなる。


 長門が進水。


 ネイバルホリデーに、『ビッグセブン』達が作られていく。



 第二次世界大戦


 ゲルマンとクイーンダム、その他各国がヨーロッパを戦火で燃やす。


 フランキスカ降伏。メルセルケビール港の惨劇、


 デンマーク海峡戦、ビスマルク追撃……


 そして太平洋戦争。


 真珠湾の攻撃で空母の有用性の証明。


 数々の海戦、ミッドウェーの運命の分岐、


 ソロモン沖海戦。

 あらゆる船が沈み沈められ沈め合う泥沼……


 レイテ沖海戦。大日皇国は海での主導権を失う。


 釜石の砲撃。終戦……



 戦艦の最後の時代。


 戦艦長門、大西洋ビキニ環礁にて核攻撃を喰らい沈む。


 湾岸戦争の砲撃。


 残る戦艦達は記念艦へ…………


 そして、海は新しい時代に。































 ザザ……


 ……っち、


 ……こっち、



 こっち……!




















           ***



「うぉ……え?」


 気がつけばカタリィ・ノヴェルことカタリは、知らない場所にいた。


 カモメが飛んでいる。波の音と磯の匂いもする。


 ───海だ。


 どこかの海沿いの街……いや、


「なんだここ……?」


 隣を見れば、850の文字。


 いや……それが書かれた船が一つ。



 軍艦だ。

 詳しい種類は忘れてしまったけど、その形は間違いなく軍艦だ。



『ギアリング級駆逐艦、ジョセフ・P・ケネディ・ジュニアですね……』


「バーグさん……?」


 気がつけば、手に持ったタブレットといつものAI──リンドバーグがいる。


「あれ……でも、」


『ええ、おかしいですよ』



「なんで我々はカタリさんの夢の中にいるのでしょうか?」



「トリさん……!」



 気がつけば、横に、フクロウに似た奇妙な鳥……

 名前もズバリ「トリ」がいる。


「そうだ……そもそも僕は、なんでこれが夢だって分かるんだ?」


「でも、その妙に状況把握なセリフは、夢っぽいですよ」


「うん。そうなんだ。

 まずそれが理由の一つだって僕も分かる。

 けど一番は……!!」


 赤毛のトリを少しなで、頂点の黄色い毛を触る。

 自分の肌色の手に握られた端末で、バーグの綺麗な色の機械じみたデザインと光の目がこちらを向く。



 太陽へ顔を向ける。

 あの、白く、ただただと、を見る。



「ここは灰色なんだ!

 空も、建物も、カモメもあの人も!!

 まるで……いや僕の今の口調が物語っている!!


 昔の白黒映画みたいだ……でも、夢の中の僕は、こうやって狂言回しなんて台詞が出てくる僕は、なんで色がついているんだ!?」


 カタリは、自分の視界とは別の第三者の視点で鬼気迫る自分の顔を、その迫力ある目を何故か見ていた。

 夢の証拠のように、視点が、簡単に、変わる。


「まるで、我々はこの夢の世界という映画の主要人物のようですね」


『そう……思考がそのまま言葉になるのは、ちょっと夢っぽいですけど』


「でもバーグさん。

 バーグさんは……いや、トリさんだって、」


「うーん……私は夢ぐらい見れますよぉ〜?」


 水面に映るトリの顔。セリフ通りの表情を、何故か直接ではなく水面に映る不鮮明で反転した顔がアップされる。


『でも、私はAIです。

 どんな高度なAIだろうと、夢は、記憶の整理は半分の頭脳を起こして行えます』


 顔の半分をアップに、何故かカタリの顔の後ろからの映像としてバーグの言葉を見て聞く。


「じゃあ……この夢はなんなんだ?

 不気味だけど……なんか、『攻撃』って感じがしないんだ……」


 映像がパンして、3つの存在が背景のように感じる距離からの視点に変わる。


「それに、何故……来たこともない場所に……?」


 トリの言葉と共に、3人の足元からの視点で文字通り灰色の空を見上げる。




 ────ブォォォォォォォン!!



 だがその時、

 辺りに汽笛が響いた。


「今のは……?」


「……カタリさん、あそこを」


 やがて、気がついたトリと共に、カタリが見る先に、


『……バトルシップ・コーヴ。

 地球はアメリカ……いや、のマサチューセッツ州の湾内に存在する巨大軍事博物館。


 その最大の展示物は、』


 バーグの言葉と共に、巨大な巨大な鉄の塊を、





 BB-59 マサチューセッツ





 第二次世界大戦、太平洋戦争、

 それらを駆け抜けた戦艦の雄姿を見る。




「マサチュー……!」



 そして、

 その戦艦の砲塔の上、

 自分たちを見下ろす、物憂げな顔の彼女がいる。




 かつて知り合った、この戦艦の力を持つ彼女、


「ん。

 久しぶり、カタリ」


 戦艦装少女バトルシップフリートレス、マサチューセッツがいた。


          ***

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る