第二話 閑話の談笑
前回
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それは存在そのものが
得体の知れない
日本国の面積の十倍となればそれはインドを抜き世界七位となる。
さらに、元々日本はそのインドと南北の距離がそう変わらない(沖縄諸島を含む)ため、それが三倍の縮尺で太平洋上空に浮遊している状況がどれだけの存在感で影響を及ぼしているかは想像に
おかげで世界中の経済に信用不安が起こり、株価は
今後企業倒産が相次ぎ、大量の失業者で溢れることが各国で懸念された。
雇用の回復を
日本国も今回は早い段階で米国と足並みを揃える態度を鮮明にした。
株価暴落だけでなく円が
ネット上では近く大国による軍事作戦が行われ、日本はこれに乗じて一気に憲法改正や管理国家化に向かうのではないかという噂が
⦿⦿⦿
しかし高校生の日常にはそう急激な変化が起こることはなかった。
「今日は
金曜日の放課後、珍しく一人で下校しようとする
丸い垂れ目に眼鏡を掛けたショートボブの小柄な彼女は非常に少女的で可愛らしい印象を受ける娘だ。
切れ長の目にセミロングヘアで、背が高い出で立ちや振る舞いからクールで大人びた印象を与える
普段
小さく
ただ、どちらも秋の日差しを受けて輝く緑の黒髪の美しさは共通している。
光を受けた髪に天使の輪が
生まれつき髪色の明るい
「まあ毎日一緒じゃないからね。今日は用事があるとかで早退したみたいだし。」
この日
⦿⦿
二人は校門を出た。
並んで歩いているとクラスメートと言うよりは兄と妹のように見える。
「前から
大人しい彼女には珍しく立て続けに質問を繰り出してきたことと、その内容に
「付き合ってないのっておかしくない?
「いや、ほとんど毎日一緒に登下校してるし、なんか会話とか距離感にやたらとそういう、何というかキテル感じがするというか……。」
別にこれは
だが少なくない面々にそういう印象を持たれているのは
「ただの腐れ縁じゃない?」
だが、その不自然さはまるで隠しきれておらず、
「疑問形なんだね……。」
「え?」
「そういう事なら、さっさと確保……しといた方が良いと思う、よ?」
これは
二人の尊い関係が末永く続いて欲しいと、紛れもない本心からそう思っていた。
それは先日芽生えた些細な感情を脇に追いやるには十分すぎる輝きを放って見えていた。
故に
決して手の届かない別世界への憧れである。
「
「だろうなー。」
「ん? その割には誰かに告白されたとか、そういう話全然聞かないんだけど……。」
「それは
「はぁ?
しかしそれを考慮しても周囲からは
「付き合ってないのバレない内に本当に付き合っちゃえばいいと思う。じゃないと横から掻っ攫われちゃうよ?」
「いやいや……。」
勉強でも運動でも
「それにしても急に涼しくなったなー……。」
確かに、例の珍事の日にいきなり快晴になって湿度も下がってからというもの、一気に秋が深まりつつあった。
太平洋上に変なものが
大通りに植えられた
⦿⦿
駅に着いたので二人は別れ、それぞれ違うホームから電車に乗って自分たちの住む街へと帰って行った。
は? お
「
端正な、いかにも堅そうで真面目な顔立ちの青年が
「
そうだそうだ、言ってやれ言ってやれ!――
見たところ
身に付けているものはどれも年不相応に高価に感じられるが、それらをよく着こなしており、とても高校生においそれと手を出して良い立場には見えない。
その出で立ちは非常に洗練された大人の薫りを
見た目の年齢以上に風格のある青年だった。
「今日アメリカは大統領が改めて声明を出した。恐らく
てっきり
ある意味、高校生にする話としてどうなのか、という話題なのは同じだが。
「アメリカは世界の警察を辞めたがっている、というのは前大統領の頃からの話だが、何だかんだで覇権国家から降りるつもりはないし、国際秩序の著しい変化など以ての外だと思っている。それに無法国家がのさばるくらいなら従来の警察としての影響力を発揮することも
ははあ、なるほど……。――
おそらく小難しい国際政治、時事問題の話をすることで、見識ある大人の自分を演出して女を
だが残念だったな。
「ま、でしょうね。」
何乗ってんだ? まさか
「だが一つ決定的に違うことがある。これまでは圧倒的強者としてのアメリカという力関係が明確だった。しかし今回の敵、世界的には
再びコーヒーに口をつける
しかし声にしない言葉は見ず知らずの男に決して届きはしない。
「だが、危機はチャンスでもある。この時勢を上手く泳ぐことが出来れば、日本が再び
「何を、ですか?」
だから食いつくなってー!――
「今の日本には諦めが満ちている。もう衰退するのは確実なのだから、身の丈に合わせた大人の国としての慎ましやかな幸福をみんなで分かち合おう。今までのように未来に手を伸ばしても利用されて無駄に疲れるだけだ、もう十分頑張ったじゃないか。これからはせめて穏やかな余生を過ごそう……。そんな空気が
ああ⁉ 何寝言
女子高生に政治思想語りをするような男がまともな訳が無いんだ。
頼むから断ってくれ! 断れ断れ断れ断れ!
「
ピクリ、と
親の話題を出されたことが明らかに気に障ったようだった。
だがそんな反応が見えない
「
その時
「
「何のつもりですか?」
「他の連中の様にこの
「
「国よりまず女子高生にいきなり掴みかかる自分の性根をどうにかしろよ。」
立ち上がった彼の上背は190㎝近くあり、
腕を掴んでみてわかったことだが、この男かなり鍛えている。
ワイシャツの下には固められたゴムのような筋肉が眠っている。
一度目を覚ませば、体に引き締まった筋肉を備えた
この威圧が、自身よりも背の低い少女である
二人の緊迫した睨み合いは店内に不穏な空気を充満させていく。
フン、と鼻息を立てて
「
「釣りはとっておけ
「今の男、何?」
「
前々回選挙時に
首相や党の有力者にも期待されており、次の内閣改造では閣内に入ると言われていた。
その
「
「
「……手厳しいな。」
⦿⦿⦿
人の世に前代未聞の混乱が起ころうと、季節は変わらず流れていく。
色鮮やかな実りと早くなる
夏の終わり、秋の深まりの物悲しさ。
それは遠くなった始まりの季節と迫る終わりの季節の狭間で、重ねられた年月とともに情景を優しく包み込み、移り変わる世代の歩みを映す。
後で聞いたところによると、あの時は
あれ以降、
結局用事とは何だったのかは
あの日以降も
現にこの日も、
先月、入道雲が消え去ったのを境に例年よりもかなり早く季節の変わり目を迎えたようだ。
どこまでも続く
「
「良かった。あともう少ししたらコミックスが完結まで出るし、他にも色々あるから興味があったらまた貸してあげるね。」
他人の家を訪れるというのは、これまでの彼女には考えられないことだった。
この後も卒業までこうした交流は続くことになる。
しかし
だが直後、三人の真ん中に挟まれて歩く
今までにはほとんどない、同性との談笑に花を咲かせる姿が違和感を呼び起こすからだろうか。
しかし
そんな三人の下に招かれざる客が訪れた。
「随分暢気に楽しい高校生活を送っているようだな。」
露骨に嫌そうな顔をする
ビビッて
そして
「何の用ですか?」
「お
「
「
「ふん、生意気なガキというのは真実だな……。」
⦿⦿
「今の感じ悪い人、知り合い?」
「駄目だよ
「おおぉ?」
「子供は親を継ぐのが当然っていうあの言い草もさ、いつの時代のつもりなんだろうね。気にしちゃダメだよ。お母さんはお母さん、
しかしそれでも、同じ言葉を
「ありがとう。」
彼女の礼の言葉に、
三人は再び
青春の日々はいずれ終わりを告げる。
だがそこにあった景色はきっと変わらず次の誰かの青春をまた
そうして人々だけが年月を重ね、時代を動かすのだ。
それが新たなる希望に満ちた世界を築き上げるのか、これまでの世界を打ち崩して地獄に落とすのかはまだ誰にもわからない。
⦿⦿⦿
時は流れ、五年の歳月が運命を次第に加速させていく……。
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・
西暦2004年(皇紀2664年) 1月10日生
身長 150㎝
3サイズ B77 W55 H78
血液型 A
・
西暦1996年(皇紀2656年) 9月8日生
身長 188㎝
体重 84㎏
血液型 O
次回更新は8月23日㈰
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