第5話 更なる虐待疑惑
あの日、寝落ちしていた上、目覚めた時に父がいなくて、寂しさのあまり、泣き叫んでいたわたし。それを近所の人に、虐待されているのでは……と疑われ、警察に通報されたのだった。
わたしにとっての汚点である。
わたしは、ひとりで、完璧に留守番ができるいい子でいたかったのだ。
父が、わたしを抱いたまま、事情を説明した後も、警察官の疑いの目はわたしを見ていた。
「お嬢ちゃん、今、何歳?」
不意に、警察官が、わたしに歳を聞いてきた。わたしは、正直に答える。
「五歳……です」
「お父さん? お嬢さんは五歳にしたら、随分と小さいですね? なにか理由でも?」
この時は、このおとなの人がなにを言いたかったのか理解できなかった。
父が、わたしが生まれたばかりの頃から、アレルギーが酷かったことを説明している。元々、小柄で細い体格は、乳児期に様々な食べ物が食べられなかったからなのだ。父の所為ではないのに。今では、たくさんご飯だって食べられるのに。
わたしの所為で……。
「わたしが小さいからダメなの? お友だちより小さいからいけないの?」
そんな言葉が、わたしの口から零れた。
ふたりの警察官は、驚いた様子で互いに顔を見合わせていた。
まだ、小さいわたしが、ぽろっと口を滑らすと踏んでいたのだろう。父から、なにかしらの虐待を受けている……と。子どもの面倒を見ない。食事を与えない。そういう結果を持ち帰りたかったのかもしれない。
「お嬢ちゃん、ご飯、食べてる?」
もうひとりの警察官が聞いてきた質問で、わたしは理解したのだ。
今なら、失礼な質問だな……と、迷うことなくぶつけただろう。でも、この時は、父が責められる原因はわたしなんだと、完全に思い込んでいた。
ガリガリの痩せっぽちの小さなわたしを、わたしが嫌いになった瞬間だった。
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