再会の意味 5

 ドスン、と。

 飛び込んできた身体に、足が止まる。


 伸ばした手の先には、オレンジ色の見慣れた景色が広がっていた。

 上がった黒と黄色の遮断機も、横に走る線路も同じ。だが、赤い血の花は咲いていないし、周囲の建物も顔ぶれを変えている。


 ここがどこなのか、一瞬わからなかった。

 受け入れられなかった。

 だからだろう。僕は踏み切りの前で、ぐしゃぐしゃにした顔で立ち尽くすことしかできない。どこまでも濃くて消えそうにない喪失感に押しつぶされそうで、それでも耐えて。虚しさは底知れず、しめつけるような痛みは容赦がないと再び思い知る。

 僕は、こんなにも大切なピースが欠けた世界で、生きたいと望んだのだ。


 喉の奥が震えて言葉を発することができない。

 全身からチカラが抜けて、脱力感。立つことで精一杯。涙を少しでもこぼすまいと、ムラサキが混ざり始める空を仰ぐ。

 そうして我慢に我慢を重ね、ため込まれた感情のダムが、



「生きて――せんぱい」



 決壊した。


「うっ、ぁ、ああああああああああ――っ!」


 一番近いところでこぼされた一言の願いが、しのぎの願いと重なる。

 箇条に包まれて、僕は崩れ落ちた。人目などどうでもよかった。

 今なら断言できる。できてしまう。

 どこまでも残酷で、欠けていて……それでいて優しい世界を、きっと僕は生きたいと願っていた。


 霞む世界。ここにはしのぎが居ない。僕はまた悪役として生きていく。


 痛いほど抱きしめてくる腕。ぼろぼろで華奢な身体が、ずっと探してくれていたことを伝えてくる。


 ああ。

 僕の罪が、消えていく。他でもないしのぎ本人に許され、死ぬ理由が消されてしまう。


「ああああああああッ――!」

「おかえり、なさい」


 気付けばどこかで安らぎを感じていた、この温もりとしつこさ。それを思い出して、受け入れて……僕はずっと、嗚咽を漏らし続けていた。







 御宇佐美しのぎとの再会が終わったこの日。

 そして、箇条ゆらを好きだと自覚したこの日を、僕はこれからも忘れない。


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