間章

箇条ゆらの考察 7

 祠を離れ、鳥居をくぐった。


 三糸ヶ先の裏通りではなく、そこは知らない竹林の中だった。


 お婆さんは当然おらず、出迎えるように佇むヘビの像は、赤い瞳に困惑する私の顔を写していた。


 木々の間から見下ろす空は、オレンジ色に染まっていた。

 腕時計は午後五時二十六分を示し、携帯は真っ暗で反応しなくなっていた。


 私はその場に立ち尽くし、世界が変わったと、理解した。


 振り返れば、祠のあった場所は三糸ヶ先のソレよりもはるかに綺麗に整備されていた。ジャリは明るい色で、祠のしめ縄は華美な装飾が追加されている。看板ははっきりと読み取れ、一本松は人の手によって整えられている。くぐった鳥居は塗装が剥げておらず、ツヤを放つ。


 私は知らない場所に来てしまったことに不安を覚えつつ、辺りを見渡した。

 理解できない現象の連続で頭は痛いが、とにかく状況の把握に努める。ここがどこなのか。危険はないのか。先輩を探すにも、そのために何をすべきかも、まずはそこからだ。


 とりあえず。

 鳥居の前から続く道の先に、うっそうと生い茂る竹をかき分け――



「……っ、」



 陽の眩しさに目を慣らし、私は唖然とした。



 山から降りてきた風に吹かれる、色の異なる花々。ゆらゆらと首を振るススキ。

 舞い上がり服にかかる花弁、木の葉。

 目前にそびえ立つ山々から顔を出し、世界をオレンジ色に染める夕陽。


 空に浮かぶ雲は霧のように流れていく。吹きつけるそよ風が草花や木々を撫で、互いに擦れ音を奏でる。そして、向こうにポツンと佇む一軒の東屋。

 こんな状況でもなければ、綺麗な景色に歓声を上げていただろう。でも、私はこんなにも素晴らしい光景を独り占めしておきながら、恐怖してもいた。

 よそ者を取り込もうとしているかにも見える広さ、深さ。その恐怖に耐えながら、自分を奮い立たせる。

 とにかく頭を働かせ、すくんだ足から意識を逸らした。

 それでも不安を拭えないとわかると、今度はポケットに忍ばせていた写真を取り出す。美代子さんに譲り受けたソレを胸に抱き、ゆっくりと深呼吸。

 ……ああ、ちょっと落ち着いた。


「ここ、どこかで……」


 改めて目の前の景色を一望すると、妙な懐かしさを覚える。

 そう――どこかで見た別世界。私はこれを見るのが初めてじゃない。それどころか、最近にも見た気がする。


 そのを脳内で検索して、私はすぐに思い至った。



「高白……自然公園……」

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