不一致な亡霊 3
箇条のよくわからない告白のせいで、妙に意識してしまっていた。
この新聞部員の女の子は、実は一部の男子からも人気を集めている生徒。所属ゆえに空気を読まずズケズケと聞いてくるところはあるものの、整った容姿で、話してみると実はかわいらしいところもある。普段意識していないだけで、僕の目にも十分魅力的に写っていた。
そんな
「ええと、オレンジジュースもう一つと、あとぉ、季節のチーズケーキを二つください!」
「僕の分?」
「私のですっ!」
僕らのいつも通りの会話に笑顔を向け、オーダーをとった店員が戻っていく。
洋風の料理を楽しめるファミレス。そこには本来、もう一人いるはずだった。箇条が連絡をとりあい、待ち合わせをしていた取材相手が。といっても、このテーブルにはおろか、他の席もガラガラだけど。昼もすぎたこの時間帯だ。少し店内を見渡せば、それらしい客がいないことくらいは分かった。
「ていうか、飲み食いしすぎじゃない? フライドポテトにサンドイッチにオレンジジュースが二杯。で、チーズケーキが二皿と」
「お相手様が遅いのが悪いんですよーだ。へへへ」
「太るぞ」
「うっわ……うわうわうっわ……先輩デリカシーないの?」
「質問責めの新聞部には言われたくない」
僕はコーヒーを一口飲み、窓の外を眺めた。
そういえば、箇条と待ち合わせをしている相手というのは誰なんだろうか。そのあたり全く知らされずに付き合わされているが。
失礼だけど、携帯を
「なるほど。花宮里穗、ね」
「あれ、怒らないんすね」
「おおかた、しのぎのことを知りたいんだろう?」
「だって先輩ケチなんだもん……」
頬を膨らませながら、箇条はグラスの中身をぶくぶくさせる。やめなさいよ。
「花宮さんと引き合わせて、先輩の嫌そうな顔でも眺めようと思ったのに。はぁ、バックレかー」
「僕の嫌な顔がご所望なら――」
「あ、そういうのいいんで。今じゃないんで。ていうかそれ私と居るのイヤってことですか」
「いやそこまでじゃ……」
「そーですかー。あぁぁぁああああもぉぉおー……なんもかんもだめだぁ」
箇条はテーブルにおでこを付けた。長時間居座ったあげく、しまいには意気消沈して泣く悲しい女の子がそこにはいた。
注文したオレンジジュースとチーズケーキを運んできたウェイトレスも苦笑いをしているほどだ。
「ほら、チーズケーキ来たよ」
「ぜんばい」
「なに」
「わたし、きらわれてるのかな……?」
「僕なんかと居るからだよ。箇条自身が嫌われてるわけじゃない」
「でもこんなにアッサリと振られたのは初めてです」
「そんなに気にすることないと思うけど」
「むぅ……」
……。
また沈黙か。
これは、なにかしてやらないとずっとこのままなんだな。
コーヒーの苦みを感じながら、僕はそう確信する。同時に、心の中で『しかたないな』と呟いた。
「……気分転換に映画でも見に行く?」
「行きますッ!」
「うおっ!?」
立ち直りはっや!
あまりに勢いよく顔を上げるものだから、危うくコーヒーをこぼしそうになった。そっとグラスを置く。
そんな僕に構わず、箇条は数秒前の落ち込みがウソのように、テーブルに身を乗り出して熱弁を始めた。目をきらきらさせて。
「明日公開の良さそうなのがあるんですよーっ! ぜひぜひ行きましょう! あ、お弁当はお任せを!」
「え、あ、お弁当?」
「ええハイもちろん。明日は一日デートといきましょう!」
「いやデートって、箇条それは――」
「すみません、もうスケジュール帳に書いちゃったんで。キャンセル料かかりますけどいいですか?」
「箇条のスケジュールは料金制なの? しかもぼったくりなの?」
箇条はドヤ顔だけして言葉は発さなかった。こうなったらもう止められない。この女なら台風が来ようと僕を連れ回しそうだ。
まったく、少し元気づけようとするといつもこれだ。単純すぎて『ほんとに喜んでくれてるのか?』と思うこともある。
でもまぁ……。
「いやー、ゴールデンウィーク様々ですねー」
こんなに楽しみな反応をしてくれるのだから、疑うのも良くない。素直に明日のデートは楽しむことにしよう。
……別に、イヤなんてことはないのだから。
少し分けてもらったチーズケーキは、思っていたよりも甘かった。
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