間章

箇条ゆらの考察 1

 先輩――御宇佐美佑が『人殺しである』という噂について。


 先輩が普段の学校生活においてここまで言われている所以ゆえんと噂の詳細を、自分なりの解釈で以下に整理する。

 まず大前提として、先輩の殺した人というのは、彼の姉ということになっているらしい。それも聞く限りではとんでもなく優秀で、性格も良く、大いに慕われていたようだ。おまけに美人でモテたとも。彼氏の有無は不明。

 正確な人物像は不明瞭なため省略。とにかく人気者であったことは確かだ。


 この点を踏まえて考えると、噂の意図は単純に先輩へのあてつけ、もしくは恨みが元ではないだろうか。


 現在も絶えない噂において、先輩の姉は『理想的な生徒』という人物像を確固たるものとしている。多少美化されているとしても、収集した噂の多くに共通している特徴だ。おそらく当時も人気者だったのは間違いない。だからこそ、先輩が姉の代わりに生きていることを心良く思わない誰かがいた。その名残は今でさえ感じられる。

 2年C組、甘坂彩菜。同じくC組、近藤正彦。D組、岸川良二。

 特にこの三名は先輩と昔からの同級生であり、噂の中心的立ち位置にいると考えられる。『姉を殺した』という部分をハッキリと口にし、大仰に先輩を揶揄やゆしているのも何度か目にした。慕っていた噂の中心人物――先輩の姉――が死に、悲しみと怒りの矛先を先輩に向けていると考えればスジが通る。


 先輩は、今置かれている状況を受け入れているように見える。

 『生きるべきは姉だった』とでも言いたげな視線をすることが、たまにある。集めた情報を叩きつけて彼女らを糾弾するのも面白そうだけど、あの様子を見るに、先輩は望まないだろう。

 なら、私にはなにが出来るだろうか。




 追記。

 四月二十六日。裏通りの神社で幽霊に遭遇したとき、先輩がボソリと口にした、『しのぎ』という名前。

 影をそう呼び、唖然とする先輩の横顔は、見たことのない表情だった。

 私を置いて、影を追いかけ遠いところに行ってしまう気がして、とてつもない不安に駆られた。


 先輩があんな顔をする相手など、一人しか思い浮かばない。


 つまり、あの影は――。








 またしばらく、先輩に付き添うことにしよう。

 彼が、居なくなってしまわないように。

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