2章

金色とは言えない休日 1


 四月二十九。ゴールデンウィーク初日。

 神社での出来事を経てから数日、僕は常に影を警戒し、気の休まらない日々を送っていた。箇条からは『気を張りすぎですよ』と呆れ顔をされたけど、影が玄関前まで追いかけてきたこと(すぐに消えたが)を考えると、そう楽観もしてられない。頭の中は影と……しのぎのことで一杯だった。




 ゴールデンウィークに突入し、登校する必要がなくなったことで少しだけ安堵した僕はしかし、さっそく箇条に呼び出しをくらっていた。

 午前中から、自転車で外へ繰り出す。

 少し前にメールを受け取り、箇条とは近くの公立図書館で待ち合わせをすることになっていた。というか、強引にそういうことにされた。

 自転車で五分程度の場所にある高白市立図書館は、住民団体が借りられるスペースや会議室、加えて小さいコンサートホールまで備え付けられている新しい施設だ。ラウンジにはオープンカフェまで併設されているという、待ち合わせには打って付けの場所である。

 そんな図書館に足を運ぶのも、こうして待ち合わせをするときくらいなのだけど……。


「あ、せんぱーい! こっちこっち」


 自動ドアをくぐるなり、カフェの席で手を振る女の子。私服の箇条だ。

 大きな声を出しても注目を浴びないのは、今日は来客が多いからであった。ラウンジには行列ができ、いつもより賑やかだ。


「なにかのイベント?」

「みたいですねー。コンサートホールでなにか演奏するみたいですよ? えーと、ハープだったかな」


 今日も今日とてご機嫌な箇条は、かわいらしく小首を傾げた。

 たまに見せるあざとい仕草を、僕は軽くスルーして席に着く。


「それはそうと、昨日はなんで電話してくれなかったんですか。ちょっと悲しかったんですけど」

「ごめん、流星群見てた」

「幽霊に怖がるかわいい後輩と流星群、どっちが大事――」

「流星群」

「……まあ、あまのじゃくな先輩ならそう言うと思ってたんですけども。ていうか昨日は曇りだったから、ここら辺からは見えなかったはずなんですけども。それ以前にもう流星群おわってるんでウソなのバレバレなんですけども」


 ははは、と笑って誤魔化すと、口を尖らせて睨んでくる。だが、これもいつも通りのやり取りだ。箇条はズロロロとアイスティーを飲み干すと、ため息をついた。

 僕はコーヒーを注文し、一口飲んでから本題に入る。


「それで、今日はなんの用?」

「はい。今日は先輩の噂に関して調査していたところ、興味深い情報を手に入れまして。先輩にそこらへんを詳しく聞こうと思い招いた次第ですっ」

「帰る」


 僕は席を立った。


「待って待って待って待って、そんなすぐに帰らんといてよー!」


 すかさず服を掴まれる。

 すがるようにこちらを見上げ、「あの日私を送り届けてくれたあなたはどこ?」なんて口にする。

 そんなやつはいないとばかりに首を横に振るが、箇条は頑なに引き下がらない。


「箇条の身になにかあったのかと思って心配して来てみれば……ソレ関連じゃないなら貴重な休みを浪費したくない。以上」

「なにかおごろうと思ったのに……」


 ……。

 まさか箇条から奢るとは。普段こうして待ち合わせをするときは奢ってくれることもほとんどないのだが、今日の彼女は少し違うようだ。いつもと変わらず甘ったるいように見えて、その実、行動には必死さが垣間見えていた。

 僕はため息を吐く。


「わかった、そこまで言うなら」

「先輩チョッロ」

「うるさい」


 きひひ、と笑う箇条をひと睨みするが、向こうは少しも意に介さず、嬉しそうにニコニコしていた。

 良いように扱われている気分だが、メニューを手に取ることでチャラにすることにした。この際だからいつも頼まないものを注文してみよう。

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