第17話 可愛いのが好きか、えっちが好きか
ミコトは龍人の作った企画書を確認しながら、コーディング作業をしていた。龍人が企画したゲームは2つあった。90秒ほどで終了する動物の落ち物パズルゲーム。2人に簡単な質問に答えさせて2人の相性を診断する心理テストゲーム。
いずれも短い時間で終わるように設計されているのが特徴だ。ミコトの負担を軽減すると共に、文化祭は少しでも多くのクラスを回りたいという心理を尊重した結果である。ただ、ミコトとしては、負担を軽減するつもりなら2つも案を出すなよと思っているところではあるが。それでも、やってのけるのが宮垣
一方で絵麻は、落ち物パズルのパーツデザインを作り、ユーザーインターフェースの画面デザインも担当している。ユーザーインターフェースとは要は人間とコンピュータがやりとりするために必要な画面表示や操作方法といった要素である。
龍人は企画をあげるだけあげたら、自分たちのクラスの文化祭の打ち合わせに行ってしまった。今は文化祭の準備やなにやらで忙しい時期であるからパソコン室にいるのは、ミコトと絵麻しかいない。
「ごめんね藤林さん。僕のクラスのために手伝わせてしまって」
「ううん。私は別に学園祭なんてイベントには興味ないから。企画や打ち合わせには参加しない旨は伝えてあるの。別に私1人がいたところでどうにかなるわけでもないし」
考えてみれば、これはミコトのクラスの出し物であって、龍人も絵麻も全くの無関係なのだ。それなのに手伝ってくれるとはミコトはいい友人を持ったなとしみじみ思うのであった。
「それより宮垣君こそ大丈夫? 2つもゲームシステム作るの大変じゃないの?」
「まあ、僕の場合企画書を見ただけで、すぐにどういう仕様で組めばいいのか頭の中で組み立てられるからね。それにいずれも短時間で終わるものだし、期限内には間に合うよ」
「流石宮垣君。やっぱり天才だね」
「それほどでもない」
カタカタとキーボードが叩く音が聞こえる。パソコン室は沈黙が流れる。ミコトも絵麻も集中して作業をしているから口数がかなり減っているのだ。
「うーん……ねえ、宮垣君ちょっといい?」
絵麻に呼び出されて、ミコトは絵麻のパソコンのディスプレイを見た。
「この2つのデザインどっちがいいと思う?」
絵麻が提示したのは白い色の猫と三毛猫だった。白い猫の方は可愛らしくデザインされていて、如何にも子供受けを狙ったデザインだ。一方で三毛猫の顔立ちは、妖艶な雰囲気を醸し出していて、性癖を拗らせている大きなお友達に受けそうな感じだ。
「うーん。個人的にはこっちの三毛猫は嫌いじゃない」
「だよね。私もこの表情気に入っているんだ。なんだか大人の雰囲気溢れていて色気があるし」
「でも、学校行事であることを考えると白猫の方が健全な気がするな」
ミコトは画面上の白猫を指さした。
「うーん。確かに。こっちの猫ちゃんも可愛いんだけどね。でも、私たちも高校生なわけだし、少し攻めたデザインでもいい気がするな」
「そうだよね。どっちのデザインも良いから決められない」
絵麻の作り出したデザインは、どちらも優れている。だからこそ、取捨選択が難しい。だが、2つとも採用するという手はない。
創作物において大事なのは、なにを加えるかというよりかは、なにを削るかといった方が重要である。盛り込みたい要素を追加すればするほど全体のバランスが取れなくなってしまう恐れが生じる。
今回の場合、落ちて来るものを繋げて消すパズルゲームである。ゲームの駒の種類が多ければ多い程難易度というものが上がってしまう。だからこそ、採用できるデザインには限りがある。それを猫に2枠も使うわけにはいかないのだ。
「ねえ。宮垣君。学校行事とかそういうの抜きにしてさ。どっちのデザインが宮垣君の好みか教えてくれる?」
絵麻は真っすぐな瞳でそう問うた。ミコトはやけに純粋な瞳をする絵麻を見て、それだけ真剣にこの作業に打ち込んでいるんだなと感心した。
「僕の好み……?」
「そう。可愛い系の女の子が好きなのか、ちょっとエッチなお姉さん系が好きなのか。どっち?」
「そういう質問!? 猫の話はどこにいったの!」
急に答え辛い質問になった。ミコトはそういう異性の話や恋愛関係や下の話は得意な方ではない。
それに絵麻の訊き方にも棘が見え隠れしている。ちょっとエッチなお姉さん系って表現に悪意が見え隠れしている。これを選ぶとえっちな奴だという烙印を押されてしまう。そう読み取ることも可能だ。
「僕はえっちかどうかは置いておいて、年上のお姉さん系の方が好きかな」
あくまでも、えっちだから好きになるわけではないと主張をするミコト。えっちじゃないお姉さんもいるんだぞと心の中で叫ぶ。
「かなってなに? ハッキリ言いなさいよ。スパっと! シャキっと! ズキューンっと!」
「なんで僕追い詰められてるの」
「いい? 宮垣君。今は年上のお姉さんに憧れているかもしれないけど、そのお姉さんは私たちより早くおばさんになるんだよ。その辺分かってるの?」
「うん。大丈夫」
「だって、僕は熟女もいけるから」と口に出しそうになるが、思わず引っ込める。そんなことを言ってしまえば、変態扱いされるのは自明の理だ。
「あの……藤林さん? お話がだいぶ脱線してませんか?」
「ん。ああ。そうだった。そうだった。猫のデザインの話だったね」
話が上手い具合に軌道修正したところでパソコン室の扉が、ガラっと開いた。中に入ってきたのは龍人だ。クラスでの打ち合わせが終わったのだ。
「ちーす。進捗どうですか?」
「あ、大場君。大場君も見て、どっちのデザインがいいと思う?」
「んーどれどれ」
龍人は絵麻のパソコンのディスプレイを覗き込む。そして、一言。
「こっちの三毛猫の方がいいと思うぞ。なんかエロいし」
「じゃあ、可愛い系とちょっとえっちなお姉さんどっちが好き?」
「お姉さん系かどうかはおいておいて、ちょっとえっちで可愛い子が好き。ドスケベでも可」
「おーけい。大場君に訊いた私がバカだった」
「やーいバーカバーカ」
「死ね」
まるで漫才かのようなやり取りをする龍人と絵麻。結局、学校行事でセクシーさを押し出すのはよくないということで、可愛い系の白猫が採用されることになった。
「あ、俺ちょっとトイレ行ってくる」
龍人が席を外し、再びミコトと絵麻の2人だけになった。
「ねえ。宮垣君。さっきの話なんだけどさ……宮垣君ってやっぱり年上が好きなの?」
「ん? そうだよ」
「例えば、蜂谷先生みたいな?」
「な、なんでそこで蜂谷先生が出て来るかな!?」
ミコトは急に明菜の名前が出て動揺する。けれど決して否定はしなかった。
「どうしても年上じゃなかったらダメ?」
「どうしてもってわけじゃないけどね。ただ、やっぱり年上の存在には憧れがあるんだ。同年代の女子や年下とは話していてもあまり面白くないし、話が合わないんだ」
同年代の女子とは話が合わない。その言葉を聞いて絵麻は少し落ち込んだ。
「でも藤林さんは別だよ。藤林さんとは不思議と話も合うし話していて楽しい」
「え?」
落されてまた上がる。ミコトが年上好きな理由が、同年代以下とは話が合わないからだとする。だとすると、同年代ながら、ミコトと話が合うとされている自分にはまだチャンスはあるのではないかと絵麻は思った。
「じゃあミコト君と話があうなら、どんな女の子でも全然ありなの?」
「え? いやどんな女の子でもいいってわけじゃないよ。流石に歯を磨かなかったり、お風呂に入らなかったりするような子は嫌だよ」
歯を磨いているし、お風呂にも入っている。と絵麻は内心喜んだ。こんな人間としての最低限度の行動をして喜んでられるとは、絵麻はある意味で幸せな人間であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます