第14話 絵麻とデート?

 学級委員長がお化け屋敷の抽選に行った。彼女のくじ運の悪さが発揮して、ミコトたちのクラスはお化け屋敷を獲得することができなかった。


 というわけで、ミコトは大人しく新作ゲームを差し出すことに決めたのだ。ミコトのメイド服姿を見たかった学級委員長は心底残念そうな顔をした。


「宮垣君。メイド喫茶はやらなくていいから、私のためにメイド服着て」


 そういうわけのわからないことを言って、ミコトにメイド服を押し付けてきた。なんで既に用意されているのかわからない。ミコトは意味もなくメイド服を手に入れてしまった。もちろんミコトが着る予定はない。


 ミコトのクラスではゲームの出し物を出すことになったが、やはり絵麻の協力が必要不可欠だった。絵麻は相変わらずミコトの弱みにつけこんで、好き勝手な要求をするつもりらしい。ミコトは絵麻の言うことをしぶしぶ聞くことになった。


「で、藤林さん。僕はなにをすればいいの?」


「今度、弟の誕生日なんだ。だから、それを選ぶの手伝って欲しいの。ほら、男女じゃセンスの違いってあるじゃない? 男子目線でなにがいいのか選んで欲しいんだ」


 そこまで無茶なお願いじゃなくて、ミコトはほっと胸を撫で下ろした。


「わかったよ。藤林さん。でも僕のセンスは正直怪しいよ。ファッションセンスで言えば龍人の方がいいと思うけど」


「私は宮垣君に選んで欲しいんだ。お願い」


 絵麻に頭を下げられてお願いされてしまった。本来ならミコトが絵麻にお願いする立場なのだが、逆に頭を下げられてしまっては敵わない。


「わかったよ藤林さん。僕で良かったら力になるよ」


 ミコトは快く絵麻に協力することにした。絵麻にグラフィックをお願いするという目的がなくても、絵麻のお願いを叶えてあげたい。ミコトはそう思った。


「で、なにをプレゼントするつもりなの?」


「弟はシルバーアクセサリが好きだから、それ系をプレゼントしようかなって思ってるんだ」


「ふむふむ」


 ミコトはそう言うとスマートフォンを弄り出した。そして、数秒後に画面を絵麻に見せた。


「これなんかいいんじゃない? ポチっていい?」


 ミコトは通販サイトのページを見せた。


「え、あ、あの……宮垣君? その通販で済まそうとするのやめない?」


「ん? どういうこと?」


 現代っ子のミコトはなんでもかんでもネット通販で済ませようとする癖がある。けれど、絵麻としてはミコトと一緒にショッピングを楽しみたい。そう思って、ミコトを誘ったのである。ネット通販で済まされてしまっては台無しである。


「えっと、こういうのは実際に見て買いたいの。だから、今度の日曜日に一緒にショッピングに出かけたいなって」


「そういうことね。わかった。じゃあ一緒に行こう」


 こうして、ミコトと絵麻は日曜日に一緒に出掛ける約束を取り付けた。



 日曜日。ミコトは待ち合わせの駅前に辿り着いていた。駅前は人で溢れかえっていた。平日に比べてスーツ姿や学生服姿の人は少ないけれど、それでも何人かはそういった格好の人はいた。休日なのに、仕事や部活に励んでいる。そういう人たちがいるから社会は回っているのだ。


「宮垣君。お待たせ」


 絵麻がやってきた。普段メガネなのに今日はしていない。コンタクトレンズに変えているのだ。三つ編みの髪型をおろしている。そして、服の色も明るめにして、スカートもフリルがついたものを着用して、精一杯のお洒落をしている。


 ミコトのためにお洒落をしてきたわけだけれど、当のミコトは全く意に介していない。絵麻にとっては、ミコトとデートをするつもりなのだけれど、ミコトにとってはただの買い物にしかすぎないのだ。


「じゃあ、行こうか」


 そう言うとミコトと絵麻は駅の構内に入っていった。電車に乗り、揺られること30分。目的地の駅についた。


 ミコトと絵麻は駅近くのお洒落なデパートに足を運んだ。デパートは休日ということもあってか人が多く、賑わっている。ミコトたちが普段活動しているところより都会ということもあってか、周囲はお洒落な人ばかりだ。正直言って、絵麻のお洒落が霞むレベルである。


「じゃあ宮垣君。一緒に見ようか」


 ミコトと絵麻はショーケースに入っているシルバーアクセサリーを眺めている。簡素なものから、派手な装飾がついた華美なものまであった。


「まず、なにを送るかだね。リングなのか、ブレスレットなのか、ネックレスなのか」


「弟は既にリングは持っているんだよね。だからネックレス当たりをプレゼントしたいかな」


 ミコトはショーウィンドの中のネックレスに目をやる。シンプルながら洗練されたデザインのそれはミコトの目を奪った。ただ、この手のものとしてありがちなのは、値段が高いというものであった。


 良いと思ったものほど高い。それはこの世の常である。むしろ逆。高いから良いものなのだ。


「デザインならこれが一番好きかな」


「宮垣君。いくらなんでも5桁はえぐすぎ」


 絵麻がツッコミを入れる。


「ふふ。まあ、デザインだけならの話だよ。じゃあ値段と相談して決めようか」


「うーん。やっぱり高校生の財力じゃ厳しいなあ。私バイトしているからある程度お金あるけど、うーん……あんまり中坊に高いプレゼントをしてもなあ」


 絵麻はポツリと呟いた。


「バイト? 藤林さんってバイトしてたんだ」


「うん。カフェでバイトしているよ。言わなかったっけ?」


「そういえば、藤林さんって、ちょくちょく部活に来ない日があったね。その日にバイトしてたの?」


「せやせや。だからバイトしてない子に比べてお金はあるのだ」


 絵麻は胸を張ってそう言い放つ。


「じゃあ、こっちのあんまり高くないのにしようかな」


 結局、絵麻が決めた。ミコトがついてきた意味は殆どなかった。


「すみません。これを下さい。後、ラッピングをお願いします」


 絵麻は3000円ほどのネックレスを購入した。高校生が中学生に贈る誕生日プレゼントとしては妥当な金額だろう。


「ねえ、宮垣君。せっかくデパートに来たんだからもっと色々見て回ろうよ」


「うん。いいよ。一緒に店内を回ろうか」


 ミコトと絵麻は、まずは本屋に行くことにした。2人とも丁度欲しい本があったから意見の一致というわけだ。


 まずは絵麻のお目当ての画集のコーナーに行くことになった。ミコトも美術館に行くくらいなので画集にはある程度興味があった。画集を物色している絵麻の隣で、暇つぶしに画集をパラパラとめくる。


 有名イラストレーターの画集は目を見張るほど凄いものがあった。ミコトの好きなゲームのイラストレーターだったので、ミコトはこの画集を欲しいと思った。しかし、値段がそれ相応に高い。社会人ならお布施感覚やコレクション目的で余裕で払えるだろうけれど、高校生の身分のミコトには少し手を出しづらい金額だ。


 ミコトは諦めて画集を元の位置の場所に置いた。自分の本業は絵ではなくて、プログラミングだ。画集を買って目当ての本を買えなくなったら元も子もない。そう判断したのだ。


 これ以上、画集を見ると欲しくなってしまう。ならば目の毒だと判断したミコトは視線を横にずらす。すると、そこにいた1人の女性の後ろ姿に目を奪われた。


 やはりミコトは年上が好きなので、絵麻よりも隣の女性の方に惹かれる。そして、ミコトはこの後ろ姿は明菜に似ているなと思った瞬間だった。背格好も髪型も完璧に同じであることに気づいたのだ。


「え?」


 ミコトがそう声を漏らすと、目の前の女性が振り返る。そして、その女性もミコトの顔を見て驚くのであった。


「み、宮垣! それに藤林も! なんでこんなところに!?」


 女性の正体は明菜だった。なんと休日に偶然出会ってしまったのだ。

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