第13話 学園祭の準備
今年も学園祭の時期がやってきた。ミコトたち1年生にとっては初めての学園祭だ。クラス別の出し物を決めるために、ミコトたちのクラスも色々と協議を重ねている。
「はい。それではウチのクラスの出し物についてアイディアがある人は手を上げてください」
丸メガネの文学少女風の学級委員長が場を仕切る。それに対して、アイディアがある人が数人ほど手を上げる。
「はい。斎藤君どうぞ」
「お化け屋敷がいいと思いぜ。結構楽しそうだし」
「お化け屋敷ね。メジャーなところだよね。ただ、人気が高いし、他のクラスと被った時に抽選になりそうだね」
学級委員長は黒板にお化け屋敷と書き込む。
「次のアイディアある人」
「はい。あーしはメイド喫茶をやってみたいなー。あーしがメイド服きたらマジで似合うんじゃね?」
おおよそメイドとは似つかない容姿の金髪のギャルがそう言った。メイドに必要な清楚さの欠片もない。そんなギャルがメイド喫茶を提案したのだ。
「なるほど。最近はメイド喫茶も人気ですからね。候補に入れときましょう。では、次の人」
「私は宮垣君の作ったゲームをやってみたいな」
クラスの大人しそうな女子がそう言った。すると、教室中がざわつき始めた。ミコトがゲームを作っていることは学内ではそこそこ有名な話だ。ただ、それを学園祭の出し物にするという発想は誰にもなかった。
「うん。いいんじゃない」
「高校の学園祭で生徒が作ったゲームを出すなんて斬新だよね」
「結構話題になるかも」
みんなの賛同の声が聞こえる。ただ、当のミコトはいい感情はしていなかった。
「え、ちょ、ちょっと待って。そんな急に言われても困るよ」
ミコトは手を上げて拒否反応を示した。クラスメイトの視線がミコトに集中する。なぜか当の本人なのに、水を差した奴扱いされる雰囲気。なんとも理不尽なものである。
「宮垣君。ダメなのですか?」
学級委員長がミコトに問いかける。ミコトとしても多くの人の目に自分の作ったゲームを公開するいい機会であろう。しかし、ミコトにも事情というものがあるのだ。いきなり提案されて出来ますと言えるものではない。
「技術的なことを言えばできないこともないけど、いくつか問題はあるよ。まず、このゲームは僕1人が作ったものじゃない。別のクラスの龍人や藤林さんと共同で作ったものなんだ。だから、学園祭で出すには彼らの許可を得る必要がある」
「その辺の許可を取るのは宮垣君に任せますよ」
学級委員長の無責任な発言がミコトの神経を逆なでする。
「僕の負担だけやけに多いな! ゲーム作ったのも僕だし、その辺の調整をするのも結局僕かい! 僕の負担が多すぎてやりたくないんだよ」
「いえ。その辺のことはみんなで協力しますよ。展示場の配置や接客応対はクラスのみんなでします。宮垣君の負担はほとんどなくすつもりです」
学級委員長はなんとかミコトを説得しようとする。けれど、ミコトにはまだ懸念材料があった。というか一番の問題点だ。
「それに今作っているゲームをこの場で公開するのはダメなんだ。このゲームはコンテストで応募するために作っているんだ。そして、コンテストの応募条件はゲームが未発表のものであることが条件。ここで公開してしまえば、その条件は満たせなくなる」
「そっか……そういう事情があるなら仕方ないね。無理にお願いはできない。じゃあ代わりに宮垣君がメイドやってよ」
「うん。わかってくれたならいいんだ。よし、メイドは任せて……ってなるか! なんで男の僕がメイドをやらなきゃいけないんだ!」
流れるようなノリツッコミ。学級委員長の無茶ブリには決して答えない鋼の意思を見せつけたミコト。
「だって、宮垣君は結構中性的な見た目だし、絶対似合うと思うんだ。女性客を集めるためには女装美少年が必要なんだよ」
学級委員長がそう力説した。この学級委員長はある意味で腐っている。ただ単にミコトの女装メイド姿が見たいだけなのだ。
「さあ、宮垣君。ゲームか。メイドか。どっちか選んで」
「お化け屋敷がいいです」
「その選択肢は既にない!」
学級委員長は黒板に書かれたお化け屋敷の文字をバッテンで消した。その様子を見て、お化け屋敷を提案した斎藤は密かに心の中で涙を流した。
「いやいや。とりあえずお化け屋敷で提出しようよ。それが被って抽選で外れたら、その2つのどっちか受け入れるから」
「むー。しょうがないな。宮垣君は。そんなに嫌がるなら仕方ありませんね。とりあえずここはお化け屋敷で我慢してあげましょう。ただし、抽選から外れた時はわかってますね」
学級委員長はニヤリと笑った。そう。この学級委員長はクジ運が悪いことで有名なのだ。抽選は学級委員長が代表して行うことになっている。つまり、必然的に落ちる可能性が高い。ミコトはそのことを知らずにお化け屋敷が通ることに賭けた。
◇
放課後、パソコン室で龍人と絵麻の2人に今日あった出来事を話すミコト。ゲームを出し物にされるのか、メイド服を着させられるかの二択を迫られていることを素直に話した。
「うちのクラスもお化け屋敷を希望したんだよな。ミコトのクラスと被ってる」
龍人はそう言うとミコトは絶望的な表情を見せた。
「やっぱり抽選になるのか。奇跡的に他クラスがお化け屋敷を希望しない展開に賭けたけど、ダメだったか」
落ち込むミコトの姿を見て絵麻はある種の興奮を覚えた。そう、絵麻もミコトのメイド服姿を見てみたいと思っているのだ。
いや、見るだけに収まらない。写真に撮って飾ったり、メイド服ミコトの姿を3Dモデリング化したりして、楽しみたいと邪な考えを持ち始めた。
「まあ、確かに今開発しているゲームを公開するのはなしだな。一部分でも公開してしまえばコンテストに応募できなくなる」
「そうだね。今までの努力が水の泡になっちゃう。龍人にも藤林さんにも悪いよ」
「だから、もしミコトが抽選から外れた場合、新しいゲームを作ればいいんだ。そうすればメイド服を回避できるだろ?」
龍人が画期的なアイディアを出した。なにも今作っている超大作を公開する必要はないのだ。どうせ学園祭は1つのクラスを見回っている時間は限られている。となると短時間のプレイで済む。短時間でプレイできるゲームならば、今から作り出せば間に合う算段は取れるのだ。
「あーそうか。その発想はなかったわ」
「じゃあ、俺が今から学際向けのゲームをプランニングしてやる。どういう仕様で動くのか、どういう画像が必要なのか今から企画書を書く。それを元にミコトと藤林が協力してくれれば、なんとか間に合うか」
「私協力しないから」
絵麻は龍人の申し出を却下した。
「なんで!」
ミコトは思わず絵麻にツッコミを入れる。自分がメイド服を着させられる危機に直面しているのに、なんて白状な奴なんだと思ってしまう。
「私だって今の作業で手一杯なんだから、新しい作業を入れたらパンクするのは容易に想像できるの」
それは全くの嘘。絵麻の実力なら複数のタスクを抱えてもこなせるだろう。だけれど、絵麻はただメイド服のミコトがみたい。ただその欲望のために手伝うことを拒否しているのである。
「そこをなんとか頼むよ。ミコトのためだと思ってさ」
龍人はミコトのために絵麻に頭を下げた。
「はあ……仕方ないな。その代わり、宮垣君が私のお願いを聞いてくれるなら考えてあげる」
「ぼ、僕が?」
「うん。嫌なの? メイド服着る?」
「わかったよ、もう。もし、抽選から外れたら藤林さんのお願い聞くから協力して、ね?」
「交渉成立ね。ふふ、大丈夫。悪いようにはしないから」
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