第5話 先生の制服姿が見たいです
私立久城学院高等学校。この高校は女子生徒の制服が可愛いことでも有名である。濃紺色のブレザーにチェックのスカート。シンプルながらも洗練されたデザインは制服マニアの間でも高い評価を受けている。
ミコトは別にそれを意識して、この久城学院に入ったわけではない。別に女子の制服姿に興味があるわけでもない。ミコトは年上が好きなので、女子高生ブランドには全然興味ない。それ故に制服姿には、そそられるはずがなかった。
だが、先日アラサーの女優が学生服姿でバラエティ番組に出ているのを見て、ミコトの中で何かが芽生えた。そう、制服姿が無理がある大人の女性と制服のギャップ萌えに目覚めてしまったのだ。
様々なコンテンツがあるこのご時世。探せば、アラサーの制服姿を納めた写真集や動画など手に入れることは容易いであろう。ミコトのハッキング能力なら、電子の海から世間一般には出回っていないような裏物まで手に入れることが可能であろう。
しかし、ミコトはそういうものを手に入れようとは思わなかった。本音を言えば欲しいと言えば欲しい。ただ、やはり年頃の男子高校生。そういうのを手に入れるのは勇気がいる。最初の一歩を踏み出せない。そんな
ただ、性に関する欲望を抑えきれない年頃でもある。発散できない思いは溜まる一方なのだ。
ミコトのその欲望は必然的に明菜へと向けられることになった。明菜はスーツ姿がよく似合う女性だ。可愛い系統というよりかは美人系統。大人の魅力溢れる人物であるから、可愛らしいイメージがある制服を着ると絶対にギャップがある。
見たい。明菜の制服姿が見たい。明菜にそのことをお願いするのは容易いことだ。明菜はミコトに秘密を握られている以上、ミコトの言うことに従うしかない。でも、流石に本人にお願いするわけにはいかない。もし、自分が制服趣味の変態だと明菜に思われたら、ミコトはもう生きていけないだろう。
明菜を自由に命令できる立場でありながら、明菜に嫌われたくない。と思っているミコト。その思いのお陰でミコトは自制できているとも言える。
「はあ……」
ミコトは廊下の窓から空を見てため息をついた。
「どうした宮垣? なにか悩みでもあるのか?」
たまたまその様子を見ていた明菜。生徒が悩んでいる様子を見て、放っておけないのが明菜だ。
「え、蜂谷先生!?」
「なんだ。森の中でクマさんにでも出会ったかのような反応をして。私は別にキミを取って食うつもりはないぞ」
性的になら取って食われたいと思っているミコトだ。男子高校生の脳内は基本的にこういうものである。
「宮垣。もし悩みがあるなら先生になんでも話してくれ。私は生徒の悩みを聞くのが生きがいみたいなところがあるからな。話してくれるだけで嬉しいぞ」
そうは言っても悩みの内容が"明菜の制服姿が見たい"だなんて本人の前で言えるわけがない。否、本人の前でなくてもこんなこと言ったら変態の烙印を押されるだけだろう。
「い、いえ。なんでもないんです。本当になんでも」
「本当か? 宮垣……キミはもしかして」
明菜がミコトの瞳を見つめる。明菜と目と目が合い、ミコトの心臓がバクバクとし始めた。
「誰かに恋をしているな! 空を見上げる高校生なんて恋の悩みを抱えているに決まっている」
勝手な偏見だ。尤も明菜の推測は当たらずとも遠からずなのだが。
「い、いえ。僕は別にそんな」
「隠さなくてもいいんだ。誰が好きなんだ? 同じクラスにいるのか? それとも部活の仲間か? そういえば、宮垣は藤林と仲がいいよな? まさか相手は藤林だったりするのか?」
質問攻めにあうミコト。明菜の追求に思わずたじたじになってしまう。
「僕は好きな人はいません」
思わず嘘をついてしまうミコト。本当は明菜のことが好きで好きでたまらないのに、そのことを素直に言えない。言ってしまえば今の関係性が壊れてしまう。そんな感じがするのだ。もし、関係性が悪化してしまうのなら、なにか言って後悔してしまうのなら行動なんか起こしたくない。現状維持のままでいい。ミコトはそういう逃げの思考をしている。
「本当にそうか? まあ、無理に言わなくてもいいか。でもな、宮垣。青春は待ってくれないんだぞ。宮垣もいつまでも高校生でいられるとは限らない。もし、この高校に好きな子がいるなら、卒業してしまえばもう二度と会うことはできないのかもしれない。その時になって悔やんでも遅いからな」
明菜の言葉がミコトの心に刺さる。確かにそうだ。ミコトは明菜と一緒にいられるこの環境が当たり前だと思っている。けれど、それは実は当たり前ではなくて、高校三年間という限られた時間の中でしか成立しないものだ。ミコトがこのまま、なにも行動を起こさなければ、いつか明菜とは離れ離れになってしまう。そういう運命なのだ。
明菜と先生と生徒の関係でいられるこの三年間。それはミコトにとって貴重な時間になるだろう。その三年間を大切に過ごそうと思ったミコトなのであった。
明菜と別れてパソコン室に向かうミコト。龍人は既にパソコン室に来ていて、ミコトが制作したゲームのデバッグ作業を行っている。珍しくまともに作業をしているようだ。
「よお。ミコト。いくつか変な挙動を確認したぞ。それを報告書にまとめておいたから後で目を通しておいてくれ。いつもの共有サーバーに報告書ファイルぶちこんでおいたから」
「ああ。ありがとう。助かるよ」
ミコトは自身の愛用しているパソコンの前に座った。そして電源ボタンを入れる。パソコンが起動処理をしている間、ミコトはふと龍人に話しかけてみた。
「龍人。高校生活って三年間しかないんだよな」
「なに当たり前のこと言ってんだよ」
「三年……三年過ぎたら、僕と龍人と藤林さんの関係ってどうなるんだろうね。きっと三人共違う進路を歩むと思うんだ」
ずっと続く関係性。そんなものはありえないのだ。入学、卒業、就職、退職、結婚、離婚。人生のライフステージに合わせて人はそれぞれの関係性を変えていく。現にミコトは中学時代にそれなりに仲良かった友達もいたが、高校に入学してからは疎遠になったのもいる。
龍人は同じ高校に入学したから関係性は続いているけど、高校を卒業した後も同じ関係性を維持できる保証はどこにもないのだ。
「んー。まあ、流石にミコトと同じ大学に進学するのは無理そうだな。高校はまだ途中の段階だからいくらでもカバーできるけどさ。最終学歴は誤魔化しが効かないからな。ミコトには自分のレベルにあった大学に進学して欲しい。俺に合わせないでさ」
やはり、同じ大学に進むのは難しそうか。ミコトも久城学院を志望した際、親には大学はいい所にいくからと言って無理矢理説得したものだった。
「でも、俺はミコトとは友人のままでいたいと思ってるぞ。俺のゲーム制作の夢に付き合ってくれる。もっといい高校入れるのに、それを蹴ってまでだ。こんないい奴中々いねえよ」
恥ずかしげもなく言う龍人。ミコトはその言葉に少し照れてしまった。
「まあ、でも高校生の内にしかできないことは確かにあるからな。悔いのない三年間を残そうぜ」
悔いのない三年間。とてもいい響きの言葉だ。流石は親友。ミコトの欲しい言葉を言うのが龍人だ。
ミコトは龍人のその言葉に勇気を貰った。その勇気は一つの決意を固め、ミコトの心を突き動かす。
明菜の制服姿が見たい! それが見れるチャンスは今しかない。だらだらと三年間を過ごせばそのチャンスは逃してしまう! 例え、ドン引きされようとも絶対にお願いしてみせる。ミコトの心は決まった。
「龍人ありがとう。お陰で決意が固まったよ」
「お、おう……? なんだか知らないけど良かったな」
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