今でも鮮明に覚えている。


猫がないていた。

うなーおん、うなーおん、

どこか寂しげに、涼しげな空にこだまする。

脳みそにこびりつく甘やかな声音で

たぶらかすように、そそのかすように。


下を向いて歩くと

僕の暗い部分に

地面がギラギラ照り返すようで

明るみに晒されるようで

息が苦しくなった。


喞つ蝉の音が鼓膜を引っ叩くようだった。

ランドセルの肩に汗が滲む。


木のさやかな葉音だって

蒼い空の理由だって

晩ご飯の匂いだって

何もかもどうでもいい気さえした。


それでも、まだないていた。

きっと、ただないていた。

うなーおん、うなーおん、

脳みその奥の方で、激しく高鳴る。

入り乱れて、絡まっている。

耳元で、感じていた。


僕は前を向き、知らないふりをした。

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