第23話
新宿から八王子まで、約40キロの距離がある。買い取りの施設がある国分寺までは20キロ。シズエさんによると、線路跡を歩いて行く場合、国分寺まで6時間以上かかるそうだ。なので初日は移動に充てるとして、国分寺で情報収集をしようと思う。その後、汚染地域での探索にとりあえず5日間。そしてまた帰ってくるのに1日。だいたい一週間の予定で汚染地域に行ってみようと思う。
問題はこのことをマイにどうやって伝えるかだ。さすがにマイもすんなり受け入れてはくれないだろう。タケルもゴミヤさんも、汚染地域に行くことは自殺行為だと言っていた。マイだってそう思うに違いない。
いろいろ考えたけど、俺はマイに全部打ち明けることにした。汚染地域に行くことはもちろん、転生やスキルのことも話す。これは賭けだ。でも、他の選択肢が思いつかなかった。
俺は転生してこの世界に来た。一応、過去の日本から未来の世界に来たみたいだけど、それが何を意味するのか、何も明らかになっていない。風呂で溺れ死んで、真っ白な部屋でベリーハードの世界を選んだ。同時にスキルガチャをして、「放射能汚染無効」という能力を得ている。今、その能力を活かして、汚染地域でひと稼ぎしてこようと思っている。上手く金が稼げたら、それを元手にして屋台の仕事を始めたい。屋台の仕事が軌道に乗れば、もう少し安定した生活が送れるはずだ。
改めて考えると、話の内容がだいぶ
「最初にマイに会った時、あれが俺の1日目だったんだ。この世界に放り出されて、情報も何も無くて、どうすりゃいいのか全然わかんなかった。しかもゴキブリに襲われてさ、でもマイが助けてくれて、スラムにも案内してくれて。あの時マイに出会えなかったら、俺、あっさり死んでたかもしれない」
「そういえばタクヤ、ゴキブリを見たのが初めて、みたいな感じだったもんね」
マイが小さく笑って言った。
「嘘みたいな話だろ? 俺も自分で言っててバカみたいだと思うよ。でも本当の事なんだ」
俺はマイの表情を確かめながら言った。
「うん、わかった」
マイが俺の顔を見ながら頷いて言った。
「あの、本当に信じてる? 俺の頭がおかしくなってるとか、思わなかった? 正直なところ」
「大丈夫。確かに不思議な話だけど、嘘だと思わない。それに、こうやって全部話してくれて嬉しい」
「……なら良かった。マイには全部話したかったんだ。嘘もつきたくないと思ってさ」
「うん。私達、相棒だもんね」
マイがにっこりと微笑んだ。相棒か。確かにそうだが、ただの相棒ならここまで話さない。……俺、いま言うべきか? 言った方がいいよな。汚染地域で俺は死ぬかもしれない。なんか死亡フラグっぽいけど未練は残したくない。
汚染地域から帰ってきたら告白しようと思ってたけど、今だな。
「あのさ、マイ」
「うん」
「突然だけどさ、俺、マイのことが好きなんだ。最初に会った時から好きだった。よかったら、俺と付き合ってくれませんか?」
緊張せずに、はっきりと言えた。
「え! 付き合うって……どういうこと?」
「あの、俺の……恋人になって欲しいってこと」
そう言ったら、マイの顔が真っ赤になった。
「あのね、私ね、タクヤと最近ずっと一緒にいたでしょ。それでね、まるで家族みたいだなって思ってて。ほとんど本当のお兄ちゃんみたいに感じてた」
もじもじしながらマイが言った。あれ、この展開はマズいのでは。
「俺さ、本当にマイのことが好きなんだ。もう一人じゃ生きていけないっていうか」
焦って、畳み掛けて言ってしまった。
「ありがとう。私もタクヤが好き。……私でよければ、恋人にしてください」
マイが小さな声で、恥ずかしそうにして言った。
うおおおおおおおお! 慎吾! 俺はやったぞ! 一瞬お前と同じパターンで振られるかと思ったよ。良かった……。
とはいえこの告白は、前の世界でするのとは全く意味が違う気がする。なんていうか……遊びじゃない。たぶん楽しいだけじゃない。俺とマイのお互いの生活と、人生がかかっている。だけどまあ、嬉しいことには変わりがない。
「屋台のことだけどさ、俺、カレー屋をやりたいって思ってるんだ。そのためには資金がだいぶ必要だけど」
そう言って、俺はもう少し細かい計画をマイに話した。マイは楽しそうに俺の話を聞いてくれた。
「でも無理はしないでね。私いま、十分幸せだよ」
「わかってる。俺も今、すげー幸せだ。マイみたいに可愛い恋人ができて、マジで幸せ」
スゲー恥ずかしいセリフを言って、俺は自分の顔がめちゃくちゃ熱くなるのを感じた。マイもうつむいて真っ赤になっている。
俺はかがんで、マイに軽くキスした。我ながら大胆だと思う。でも、自然にそうしたくなってあっさりとやってしまった。以前の俺だったら考えられない。前の世界で彼女が出来ていたら、俺は舞い上がって、半端な事をいろいろやってしまっただろうと思う。でも、今の俺はちょっと違う。恋人になってくれたマイを幸せにしたいと思う。そのためには金を稼いで、生活を安定させる必要がある。その覚悟を決めるためのキスだった。そういう感じがした。
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