第18話

 ゴミ袋にスポンジ系のゴミを入れて、それを路上に敷いて寝ている。朝、日が昇る前に起きてゴミ山へ行く。午前中は競争率が低いので働きがいがある。ゴミ袋が2ついっぱいになったら工場に売りに行く。この段階で150円以上稼げていれば、今の俺としては上出来だ。

 太陽が真上に来る前に昼飯を食べに行く。昼前だと屋台が少しいているので、顔見知りになった店主のおじさんと会話をしながらゆっくりと飯を食う。これは情報収集も兼ねている。俺は最近、屋台の仕事に興味を持ちはじめた。現在の経済状況から言うと、店を持つなんて遠い夢の話だけど。

 屋台が混んできたら俺はまたゴミ山に戻る。午後は優良なゴミが減って競争が激しくなるので、あまり期待しないでそこそこ頑張って仕事をする。夕暮れ時までゴミを拾って、売上が100円になれば御の字だ。


 そんな感じで2週間ほどが過ぎた。俺はだいぶ仕事に慣れてきた。平均で一日、250円ぐらいを稼いでいる。そこから経費を引く。水代が60円。ノーブランド20円のペットボトルで3本分。昼飯と夜飯を屋台で食べて60円。たまに朝飯も食うとプラス30円。一日の出費がだいたい合計で150円前後になる。ゴミ袋が破れたりしたら買い直す必要がある。雨が降ったら足場が悪くなる上に、ゴミ山が崩れたりするから無茶ができない。そういう日は稼ぎがかなり落ちる。天気が悪いときはできれば宿に泊まりたいけど、50円の出費は痛い。基本的には相変わらず路上で寝ている。


「そんな感じで貯金はほとんどできてないです。ギリギリです」

 俺は今、教会の中にある紗季さんの部屋にいる。

「本当に頑張ってるね。ちょっとビックリ……というか感動した」

 紗季さんが感心したようにして言った。

「タケルっていうのがいて、俺の師匠なんですけど。と言っても年はちょい下で、たまにゴミ山で一緒になって、競ってゴミを拾ってます。こいつには負けらんねー、と思って刺激になってます」

 俺は紗季さんにタケルの話を少しした。妹のために仕送りをしていて、飯抜きのときもある。それでもタケルは、いつも前向きに頑張っている。

「みんな凄いよね。私達のもとの世界のことを思うと、ちょっと申し訳ない感じがする」

 紗季さんがしみじみとして言った。

「前の世界はだいぶイージーモードでしたね」

 俺は笑って言った。

「そうだね……。この世界は最近ますますハードで、飢えている人も多くなってる」

 紗季さんが困った顔で言った。

「屋台のおじさんが言ってたんですけど、都市部からの物資の供給が、最近乏しいみたいです。それでゴミの質まで落ちてる感じです」

 俺は言った。

「子供とかお年寄りでね、行き倒れになる人もいるの。教会は炊き出しをしたり、寝る場所を提供しているけど、限度があるから。全然行き渡ってない……」

 お互いに言葉を失って、部屋の中がシーンとする。

「何かアクションを起こさないとヤバイですよね。俺も、ごみ拾いだけしてたらお先真っ暗な感じだし。怪我とか病気をしたらアウトだから。何かあればいいんですけど……」

「うん……」

 俺たちは腕組みをしてため息をついた。しかし、二人共考えていることは一緒だろう。

「俺、とりあえず汚染地域と発電所について調べてみます。スキルで放射能を無効にできるなら、けっこう稼げるかもですよね」

 俺は意を決して言った。

「うん、私も調べてみる。教会にはいろんな人が来るし、お年寄とか、おしゃべりが好きな人も多いから」

 紗季さんが目を輝かせて言った。相変わらず笑顔がお美しい。これを見るだけで、俺はすげーやる気になるよ。


 夜遅くまで俺たちは話し込んだ。そして俺は晩飯をごちそうになったうえ、紗季さんの部屋にまた泊めてもらうことになった。マジでありがたい。屋根のあるところで寝ると、体力の回復っぷりが違う。目が覚めた時に、生きる気力みたいな物も強く感じる。やっぱり俺も文明的な生活がしたいな。そのために、もっと金を稼がなくては。

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