第3話

 気がついたら俺は素っ裸だった。ヤバイ! と思ってとっさに前を隠したのだが、同時に自分が不思議な場所にいることに気がついた。目の前に真っ白な空間が広がっている。見渡すかぎり何もない。真っ白過ぎて目がチカチカする。素っ裸の俺が、ただ広い空間にぽつんと立っている。これはどういう事だろう……。夢?

 突然、目の前に銀行のATMのような物が現れた。現れたというよりもいつのまにかあったという感じだ。なんだこれ。とりあえずATMの画面を覗いてみる。


☆生涯獲得ポイント

○104ポイント

詳細を見る


 という表示が出ている。生涯獲得ポイント? 俺は『詳細を見る』のところをタッチしてみる。


☆16歳と154日まで生存

○プラス16ポイント


★不注意な事故死

○マイナス12ポイント

(入浴中に睡眠、溺死)


☆熱い友情

○プラス4ポイント


★軽薄な告白

○マイナス3ポイント


★ロリコンの傾向

○マイナス1ポイント


◎残りポイント

4ポイント


 風呂で溺死……。これって俺のこと? 俺は死んだのか。そうだ、25キロ走って超疲れていて、飯を食べて風呂に入って……。寝ちゃったかー。間抜け過ぎる。ポイントってなんだよ。人生の総決算みたいな感じ? やたらとマイナスが多い。軽薄な告白はしょうがないとして、ロリコンで減点っていうのは納得行かねーな。ロリコンってそんなに悪いことじゃないだろ。小さくて可愛いものはみんな好きだろ? それが女の子なら最高だと思わない? いやいやいや! そもそも俺はロリコンじゃないし。体格が小さい女性が好きってだけだよ。はぁ。告白が成功して彼女ができていたら、ポイントが増えていたのかな……。


○次に進む


 という表示が現れた。とりあえずタッチをする。


☆次の人生を始めますか?

○はい

○いいえ

○ポイントを使用して異世界に転生する(中高生向けβテスト実施中)


 いきなりポップな内容になったぞ。やっぱりこれは夢か? 夢だといいんだけどな。相当意識はハッキリしてるけどな。

 『はい』を押したら記憶がリセットされて生まれ変わるのかな。そして『いいえ』を押したらどうなるんだろう。生まれ変わらないでタマシイ的なモノが終わりになるという事だろうか。よく分からないけど、なんだか恐ろしい。

 まてよ、そうすると『はい』と『いいえ』の違いが分からないね。『はい』を選んで俺の現在の記憶が無くなると仮定する。一方で『いいえ』を選べば何もかもが無くなる。どちらにせよ、現在の俺の存在とつながりは無いじゃないか。

 ……だったら異世界に行くか。なんだか誘導されている気もするけれど、異世界に転生をしたほうが良さそうだ。とりあえずこれは神様の粋な計らいだと考えよう。こういうことって本当にあるんだな。神様、あなたも流行りのラノベを読んでいるのですか? 『神様は男子高校生』というラノベの設定は、確実にありそうだよな。

 俺は『ポイントを使用して異世界に転生する』をタッチした。


☆注意!

決定すると取り消しはできません。本当に転生しますか?

○はい

○いいえ


 再確認画面があるのかよ。大丈夫かこれ。酷い世界に転生とか、弱小モンスターとかに転生するんだったら嫌だなあ。最近はグロい展開のラノベも多いしな。いや、あくまでも楽観的に行こう。後戻りは出来ない。

 俺は『はい』をタッチした。


☆マップ選択

○ファンタジー冒険世界(難易度イージー)

必要ポイント:50ポイント


○現代超能力世界(難易度ノーマル)

必要ポイント:30ポイント


○惑星間戦争世界(難易度ハード)

必要ポイント:15ポイント


○ハードボイルド近未来世界(難易度:ベリーハード)

必要ポイント:1ポイント


○巨人と戦う世界(難易度:アルティメット)

必要ポイント:0ポイント

注意:死亡率高し


 うわぁ……これは酷い。俺は残り4ポイントなんですけど。俺にはベリーハードかアルティメットの選択肢しか残されていない。巨人と戦う世界って恐らくアレだよな。本当にアレ、簡単に人が死ぬよな。メインキャラクターだけなんで生き残るんだろうっていつも思うよ。見てる分には面白いけど絶対に参加したくない世界だ。

 この転生システムは、ポイントが少ない人にとっては罠以外の何物でもない。俺が風呂で溺れて『マイナス12ポイント』だったわけだ。たぶんもっとやばい死に方、例えば自殺をした人とかもいるだろう。トータルのポイントがマイナスとかで、アルティメットに行くしかない人も恐らくたくさんいるのではないか? 実質的にそれは地獄行きって事になるよな。

 それにしても風呂で溺れて『マイナス12』って酷いよ! ちょっとした不注意で、別に何も悪いことやってないじゃねーか!

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!」

 大声で叫んだ。真っ白な空間に俺のシャウトが吸い込まれていく。声がまったく響かない。他に何の気配もない。ここには素っ裸な俺と、個性の無いATMがあるだけだ。

 あー、もう! ベリーハードを選ぶしかないか……。

 俺は『ハードボイルド近未来世界』をタッチした。


☆ユニークスキルガチャ:一回3ポイント

☆ノーマルスキルガチャ:一回1ポイント


 あー、スキルとか一応あるのですね。これは確かに、中高生向けという感じですね。ネトゲとかラノベを想起させますね。なかなか面白そうですね。だけど俺には3ポイントしか残されていません。

 迷う。ユニークとノーマルどちらにしよう。画面にスキルについての説明は全く無い。不親切だよなあ。これがゲームだったら俺はこの時点で糞ゲーに認定するだろう。

 はぁ……これがイージーモードのファンタジー世界だったら、気楽にガチャを回す事ができたのに。だけどこちとらベリーハードだよ。異世界に転生をして最初から詰んでいました、みたいな事が全然ありそうだ。そう考えると、ノーマルスキルを複数取るよりも、ユニーク一発に賭けたほうがいいかもしれない。なにか特別な強みがあったほうが、生存率が高まるような気がする。よし……じゃあ行くぞ。

 俺は震える指で『ユニークスキルガチャ』をタッチした。


☆獲得:「放射能汚染無効(ほうしゃのうおせんむこう)」

レアリティ:A-(エーマイナス)


 うっわ。スキル名からして、早くもベリーハードの雰囲気が漂いまくっている。A-(エーマイナス)って当たりなの? それともハズレ?


☆異世界に転生する

「OK?」


 OK? じゃねーよ! どうせこのボタン押すしかないじゃないか。

 でも、巨人の世界に行くしか無い人は、このOKボタンをなかなか押せないかもしれないな。「死亡率高し」ってただの脅し文句だよ。巨人と戦いたい人なんているわけが無い。とはいえ、この白い場所で永遠に時間を過ごすのも相当にキツいだろう。誰でもいずれはこの部屋を出ていくことになるはずだ。

 ほんと神様酷い! 酷すぎるよ! だけどところで神様って誰? 俺の存在って何? 異世界とか転生とか、どういうシステム? そもそも生きてるってどういうこと? あー、高校で倫理の授業をちゃんと受けていればよかった。宗教とか哲学とか全然興味が無かったけど、いざ死んでみると結構必要だと思ったね。倫理の授業の時、俺はスマホでネット小説を読んでいた。お気に入りの小説は奇しくも異世界転生の話だった。「俺強えー」の「ハーレム展開」で、ありきたりだけど安定の面白さだった。それに比べて俺の転生は、エキセントリックな上に残念過ぎるだろ! はぁ……もうどうしようもない。

 押すぞ。

 俺は「OK?」のボタンを押した。

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