紗矢の決意

 紗矢が35階の自宅に戻ると、母親が少し心配していた。


 「遅くなるならちゃんと言いなさい、紗矢ちゃん」


 「はーい、ごめんなさい、ママ」


 「もう沸いているからお風呂から入っちゃいなさい」


 「うん」


 「紗矢ちゃん、なにかいいことあったんでしょ?」


 「えー、なにもないよぉ」


 「そうかな?顔にいいことあったって書いてあるよ」


 「え?ほんと?」


 「うん、ほんと」


 「鏡見てくるね」そう言って紗矢は脱衣所にある姿見の前に立つ。どうやら、顔がにやけているらしい。

 そのまま、服を脱いでバスルームへと入って行く。

 

 お気に入りのシャンプーで髪の毛を洗う。

 いい匂いだなーと思いながら、虎の体の感触を思い出す。

 多分、けっこう筋肉あったよなー、とか、確か身長は175センチだったよなーとか。

 もし、虎がキスしたいとか、それ以上とか言い出したらどうするんだろう、などと妄想も膨らんだ。

 

 トリートメントをしながら、さらに考える。

 

 私、虎にだったら、初めてとか全部いいかな。


 だって、虎だし。考えながらもしかして、虎はそんなことまで考えてないんじゃないかとか、虎はもてるから、他の女の子と、もう経験あるのかとか色々なことを考えてしまった。

 

 ボディーソープで体を洗いながら、あーでもないこーでもないと考え始める紗矢。

 

 そういえば、好きな人に胸もまれたら大きくなるんだっけ。


 自分の小さな胸を洗いながら少しだけ変な気分になる。


 やだ、私、なに考えているんだろ、顔が真っ赤になる。

 

 そのまま、30分体を洗い、終わるとバスタブへ。

 

 お湯につかったまま、虎の顔を思い出す。

 

 「私の全部、虎にあげちゃうよ、だから、彼女にしてください」なんて、そんな恥ずかしいこと一生言えません。


 事件ですよ!事件!どんどんどん、ばんばんばん。とバスタブのふちを叩く。

 落ち着いて、私。と別の声がして少し冷静になる。


 「でも、芽衣のことはどう思っているの?」そのことを考えると急に紗矢の胸は苦しくなる。


 芽衣は女の紗矢から見ても完璧だった。

 明るいし、身長も普通くらいだし、スタイルもいいし、今日だって、虎のためにあんな色っぽい恰好していたし。


 

 「私、芽衣にだって負けないから」そうつぶやいた。


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