帰り路

 虎と紗矢は歩いて大塚駅に向かっていた。なんとなく気まずかった。


 「虎、駅までで大丈夫だよ?」


 「いいよ、送っていくって、もう8時になっちゃうし、マンションまでは送るよ」


 「優しいんだ、虎」


 「かな?なんていうか、紗矢はほっておけなくてさ、逆に迷惑だったら言ってな」


 「迷惑なんて!そんなことないよ!」


 「そっか、ならよかった」


 ・・・芽衣のことどう思っているの?そう聞きたかったけど、聞けないよ、怖い。

 でもさ、そんな風に優しくされたら、期待しちゃうよ。

 私のこと・・、もしかしたらなんて。


 大塚駅に着くとホームは帰りの会社員でごった返していた。


 虎が紗矢の手を握る。


 「はぐれちゃいけないから」


 「うん」紗矢は強く虎の手を握った。

 このままずっとここにいれればいいのに。

 そんな紗矢の思いとは関係なく、山手線は間隔を空けずに大塚駅に到着した。

 

 ひどい混雑で押しつぶされそうな車内、虎が壁際に紗矢を寄せてくれて、人の圧力を全身で受けてくれる。

 紗矢には虎のぬくもりが感じられた。

 

 ・・・私、ここで死んでもいいや、後悔しません。

 

 「明日は歩いて帰ろうか?それでも15分くらいだよな?」

 

 「うん、うん」紗矢はほんとに小さくそれだけ答えた。

 

 わずか数分で池袋駅に到着する。今度は降りる乗客に流されるようにホームへと向かう。

 虎はここでも手を握っていてくれた。

 

 そのままの流れで手をつないだままマンションへ向かう。

 

 「俺さ、夏は夕方っていうか、夜っていうか、こういう時間が好きなんだよな。涼しいじゃん」


 「うん、だよねえ」


 「良かったらさ、2人で花火とか見に行く?多分7月とかになると思うけど」


 「うんうん」紗矢はスマホの占いのことを思い出していた。評価に☆5つつけておきます!

 

 二人は公園に差し掛かった。ここを抜ければすぐに紗矢のマンションだ。

 

 「紗矢、時間大丈夫か?」

 

 「ん?大丈夫だよ、なに?」何時間でも一緒にいたかった。

 

 「俺さ、」と言いかけたところで虎のスマホに着信があった。見ると芽衣からだった。

 

 「芽衣か」

 

 「出てあげなよ」

 

 「あ、うん」

 

 着信に出ると、明日はお菓子とか一切買ってこないでとのことだった。

 最後におやすみとお互いに言って電話を切る。

 

 「そんなこと明日学校で言えばいいのにな」

 

 「心配してくれたんだよ、多分」

 

 「そうかな」

 

 着信のおかげで、タイミングを失い、そのままマンションに着いた。

 

 「じゃあ、また明日な、紗矢。明日は歩いて送るからな!最短ルート検索しておいて」

 

 「分かりました、虎」

 

 「おやすみ」

 

 「おやすみなさい」紗矢は巨大なマンションに帰っていった。

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