さくらと真人

 虎が帰りのバスに乗っていると珍しい人からLINEが着た。


 真人からで、母親とけんかしたというものだった。


 どうやら、家も飛び出したらしい。とりあえず、話は聞くから、俺の家に来てと連絡した。


 30分バスに揺られながら今日の出来事を色々と考える虎。


 「紗矢、お風呂かな?」LINEを打つ。


 返信はない、おそらく、なにかしているのだろう。


 芽衣にLINEしようか悩んでいると、今度はさくらからLINEが着た。


 私のことで真人君がお母さんと大喧嘩しちゃったみたいで、今虎君の家に真人君が向かっていて、私も自転車で向かっているとのこと。


 さくらには、もう遅いから引き返すように伝えたが、どうにも返信がない、そのまま来てしまっているらしい。


 なんだか、今日は盛りだくさんの日だな。と虎は思った。


 姉にLINEしてみると、もう帰宅しているようだ、最悪2人泊まらせることになるかもしれないとLINEを送ると、きちんと親御さんに了解もらってねとのこと、もらえないでしょ!と突っ込みを入れながら。


 そこらへんは大丈夫と曖昧に返事をしておく。

 

 バス停に着くとすでに、真人とさくらが虎を待っていた。


 「よお、お二人さん」と声をかける。

 もう、夜の8時45分になる。とにかく、話を聞くよ、と家に帰りながら2人の話を聞く。

 

 どうやら、真人が例によってお母さんに相談をしたらしいが、それが珍しく恋愛相談だったため、お母さんに「今はそういう時期ではないでしょ?」と即座に却下され、今までは逆らったことのない母親に人生初めてと言っていいような反抗を見せたらしい。


 そのまま、親子喧嘩になり、家を飛び出したとのこと。話が終わった頃に、虎の家についた。


 「まあ、上がってよ」と2人を促す。


 「お邪魔します」と2人の声が重なる。


 「あら、いらっしゃい、真人君と?」


 「初めまして、神無月 さくらといいます」


 「さくらちゃんか、よろしくね、虎の姉です」


 「姉貴、なにか飲み物でも出してやってくれる?」


 「はいはい、じゃあ、みんな、まずは手を洗ってね、それから、とりあえず、お茶ね、私はもう飲んじゃっているから、引き続き飲ませてもらうからね」


 「ありがとうございます」またハモっていた。


 「なんだか、2人似ているわね、感じが、もしかして付き合っているの?」


 「姉貴、あまり冷やかすなよ」


 「あはは、ごめん、ごめん、酔っぱらいだから多めに見てね」


 真人はスマホの電源を落としているらしい、そうでなければ今頃着信がすごいことになっているだろう。


 「2人は駆け落ちなんだよね」


 「え!!!ほんと?」姉の目がきらきらしていた。


 「ほんとほんと、どうしますか、お姉さん」


 「まあ、だいたいのことは察しがつくけど、ねえ」


 「良かったら、真人のお母さんに連絡してくれないかな?1日泊めるって」


 「うん、たしか、中学の時の名簿見れば、真人君のお母さんには連絡できるけど」


 「ごめんなさい、私、こんなに大事になるなんて」さくらの目にうっすらと涙が浮かぶ。


 「さくらちゃんは何も悪くないよ、ごめん、俺がお母さんに余計なことを言ったから」


 「2人とも虎の友達なんだから、私が面倒みるよ、心配しないで」そう言って姉は部屋に戻って真人のお母さんに電話をし始めた。夜遅くにすみません、と言ったような通話が聞こえてくる。


 3人はどうなるかとドキドキしながら結果を待つ。


 姉が電話を切って、3人のほうを見る。両腕で大きく丸のポーズをしている。


 「今日は真人君泊まっていっていいって。


 その代り、明日はきちんと家に帰って学校も行くように、好きな女の子ができたら、その分勉強も頑張れますか?って言っていたわよ」


 「え?それって?」


 「さくらさんとのことも許してくれるみたいだよ、お母さん」


 真人とさくらがまるで申し合わせたかのように、深々と姉にお辞儀をする。


 「ああ、そんな、いいって、私は電話を一本入れただけ、なにもしてないぞ、それより、さくらさんは帰りなさい。多分心配しているでしょ、ご家族が」


 「はい、あの、私何て言ったらいいのか、ありがとうございました」また一礼する。


 「真人、さくらちゃんを送ってあげなよ、帰ってくるのは何時でもいいからな。帰りはLINEだけ一本入れてくれ」


 「あ、うん、ありがとう虎、お姉さん、本当にありがとうございます」


 「いいって、頑張るのは君なんだからね」


 「はい」そう言って2人は玄関から出て行った。

 

 「姉貴、ありがとう」


 「虎は、まあ、巻き込まれた感じね」


 「そうなるのかな」


 「でも、大変な時に頼りにされるのはいい男に育っているのかもね」


 「そうかな?ありがとう」


 真人が帰ってきたのはもう12時も過ぎたくらいだった。


 姉がもう寝ていたため、起こさないように、そっと虎の部屋に案内する。


 「とにかく、寝るぞ、明日は6時半起きな、真人」


 「ああ、分かった、おやすみ、本当にありがとうな」


 「いいから、寝よう」そう言って眠りについた。

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