第30話 ハルハル
ハルハルと遊ぶ約束をした連休初日。
心は理貴と共に家を出た。
家を出た、と言っても駅に向かうとかバスに乗るとかの意味ではない。
本当に玄関から外に出ただけである。
「迎えの車、そろそろ着くってよ」
理貴に言われて少し緊張する心。
ハルハルから迎えの車を出すと連絡が来たのは昨晩のことだった。
もしかしたらハルハルの家が少し遠いのかもしれないが、手間をかけさせるのはなんだか申し訳なく思う。
「もう、ココロちんは緊張しすぎだよ。もっとリラックスしてしないと遊ぶまえに疲れちゃうよ?」
一方の理貴はいつもと変わらない様子だ。
ハルハルは彼女の友人であり、心も理貴を通じて知り合ったので、彼女にとっては自宅まで迎えに来るくらいのことはなんともないのだろう。
そんなことを考えているうちに目の前に乗用車がやってきた。
近くまで来てもわからないほどの静穏性、大きくゆったりとしたフォルムに艶のある黒い塗装。
一目で丁寧な整備、運転の元に扱われているとわかる車両は、自動車に詳しくない心にも上等なものだとわかった。
「もしかして……」
この車がハルハルの言っていた迎えの車両なのだろうか。
その答えは眼前の乗用車の後部座席から出てくる。
「やあ、待たせたね二人とも。それと初めまして、ココロちん」
車から降りてきたのは三つ編みの青年。美男子と呼ぶに相応しい顔立ち、スタイル、仕草を兼ね備えた彼は、慣れた動作でお辞儀をする。
「初めまして、ハルハルさん」
ハルハルにつられてお辞儀をする心だが、その隣では理貴がいつも通りのテンションで挨拶をしている。
「おはようハルハル。出迎えご苦労」
「リッキー姉さんとココロちんのためですから、このくらいお安い御用。本音は俺がココロちんに早く会ってみたかったからなんですけどね」
「ほほう、生ココロちんの感想は?」
「想像の百倍はかわいい」
「よし」
心は二人で盛り上がる理貴とハルハルに微かな疎外感を覚えるが、それに気がついたハルハルが声をかけてくる。
「そんなに緊張しないでよ。最初の挨拶はちょっとかっこつけてみただけなんだし、なにより、俺はココロちんとこれまでと同じように仲良くしたいって思ってるんだぜ?」
普段のチャットやメッセージなどと同じような口調でしゃべってみせるハルハル。
「うん、ぼくも、仲良くしたいな」
心が応えるようにして笑顔を見せると、ハルハルの顔が僅かに赤らむ。
社交界にも出たことがあるハルハルは自分の容姿には自信があったし、老若男女問わず容姿が優れている人物との交流もある。
だが、そんな彼の意識を釘付けにするほどの破壊力が心の笑顔にはあった。
「ココロちん、その笑顔は魅了の域だぜ」
「?」
ハルハルの言うことがよくわからない心は首をかしげる。
そこへ理貴が入ってきた。
「なかなかのパワーでしょ? ココロちんの笑顔は」
「ええ、とんでもない威力でした。見惚れて一日が終わる前に移動しましょう」
ハルハルは口元を緩めながら二人を座席へ案内する。
緊張から始まった一日も、ハルハルとなら楽しく過ごせるかもしれない。柔らかなシートに腰かけたとき、心は思えた。
ハルハルこと今守春田と心の出会い、そして一日はこうして幕を開けた。
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