第26話 理貴と椛

「おかえりココロちん。んん? なんだか顔が赤い?」

 帰宅した心を出迎えたのは次女の理貴だった。

 ラフな出で立ちの理貴はトレードマークである丸眼鏡の奥から心の顔を見つめる。

 心の顔が赤いのはついさっきまで純と抱き合っていたからだ。

「た、ただいまお姉ちゃんっ。先にお風呂入ってくるよっ」

 理貴に気づかれたことで気恥ずかしさを覚えた心は入浴を言い訳にしてその場を離れる。

 どたどたと慌ただしく駆ける心の後ろ姿を理貴は何も言わずに見送った。

 心が浴室へと入った直後に理貴の背後から声が聞こえる。

「理貴、あんまり心をからかっちゃダメよ」

 悪戯っ子を窘めるような口調で話しかけてきたのは長女である椛だ。

 それを聞いた理貴は口元を緩める。

「からかうつもりはなかったんだけどね。ココロちんがあんなに恥ずかしがるなんて」

「家の前で抱き合うくらいは見ないふりしてあげてもいいじゃない」

 蒸気した顔を見られて恥ずかしがる心の思いとは裏腹に、理貴も椛も純と心が部屋の前で抱き合っていたことに気がついていた。

「まあ、何はともあれ二人の仲が良いようでなにより」

「それは本当にそう思うわ。心と純くんには幸せになってほしいもの」

 二人は弟たちの関係について嬉しそうな声色で話し合うものの、その目はどこか遠くを見つめるようだ。

「ココロちんなら大丈夫でしょ。私たちのときと違って理解してくれる人たちもいるみたいだし」

「そうね。私たちのときは……」

 そう言って椛は目を閉じるが、何秒も経たないうちに再び目を開けて「今更どうこう言うようなことじゃないわね」と呟いた。

 理貴も「私は椛姉さんとココロちんの三人で一緒にいられて幸せだよ」と言い、椛も「私も幸せよ」と返す。

 二人は自然と顔を寄せ合い、唇を軽く触れ合わせる。

 どこかうっとりとした様子の椛と、見た目はあまり変わらない理貴。

 姉妹はもう何も言わず、ただ傍にいるだけで気持ちを交わす。

 浴室から愛する弟が出てくるまでの間、理貴と椛は彼の恋路と自分たちの幸せな生活に想いを馳せた。

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