第10話 後悔しないために
心は自分と慎の関係について純に打ち明けた。心がかつて交際していたことを純は静かに受け止めた。
「先日、慎さんから連絡が着た。次の週末に会いたいって」
純は静かに頷く。心の話を遮るようなことはしない。
「慎さんとぼくは一年くらい交際してたけど、慎さんは高校三年のときに引っ越して会えなくなったんだ」
心は純を真っ直ぐ見れない。
「慎さんが引っ越すときに別れたんだ。一年近く会ってないし、慎さんも他の人と交際してるって風の噂で聞いたから」
心の視線は泳ぎ出す。どこを見て話せばいいのかわからない。
「でも純さんに出会う少し前に慎さんから、こっちに引っ越してくるって聞いて、また会いたいって思った。ぼくはきっとまだ慎さんのことが好きなんだ。でもぼくは慎さんに会うのが怖い。何故だかわからないけど、そう思ってしまったら会えない」
俯く心に純は問いかける。
「ぼくは……この想いに終着点を見つけたい。宙を浮いてさまよう気持ちを着地させてあげたい」
「なら、会うしかない。私にできることなら協力しよう」
純のあまりに優しく穏やかな声、言葉、表情。それらに心は困惑した。
「純さんはぼくを責めないの? ぼくは純さんに失礼なことを……」
それを聞いた純は少しバツが悪そうに答える。
「生憎、私は君を一方的に責められるような人間じゃない。私も縁談を破談にしたしな。それに、君のことを待つといったのは私の方だ」
心は震える声で問う。すがるように。
「どうして、ぼくにそこまでこだわるの?」
少し困ったような顔で純が答える。
「どうしてだろうな。心と出会ったこの機会を逃したら一生後悔するかもしれないと思ったからかもしれないな。ただ、私にそこまでさせるくらい心が大切だと、答えを待ち続ける価値があると、そう思ったのは間違いない」
心は涙が止まらなかった。
「純さぁん。ごめんなさい。ぼく、純さんに甘えてた」
純の腕が心を抱きしめる。
「私も同じような立場だったから悪く言うつもりはない」
純は心の目を見つめる。
「心、やはり慎さんには会うべきだ。他の相手と交際しても君に会いたいと言うなら、彼女にも思うところがあるんだろう。どうか彼女の気持ちも汲んでほしい。君と彼女、両方のために会ってほしい」
心は自分の想いに終着点を見つけたかった。慎はどうなのだろうか。純と話しているうちにふと浮き上がったこの疑問は心を突き動かした。
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