第8話 告白のとき

 夕焼けが心の部屋を照らす。心は純と会う約束をした昨日から今までの記憶が曖昧だった。

「純さんになんて言おう」

 純との約束の時間が近づいても、心は踏ん切りがつかずにいた。悩み続ける心。

 しかし、心の気持ちなどお構いなしに時間は進む。

「ココロちん、今守さんが来たよ」

 理貴が呼ぶ声で心は焦った。急いで居間へ向かうと手土産を持った純がいた。

「端末にメッセージを送ったんだが、返信が来ないうちに来てしまった。今で大丈夫だったか?」

 心は純の顔を真っ直ぐ見れなかった。心を気遣う純に対して後ろめたい思いが募る。

「純さん。ぼくは……あなたに言わなければいけないことがあります」

 なんとか切り出した言葉。真剣というより心配が先にくるような弱々しい声に純は困惑する。

「二人だけで話すことなら、場所を変えるか?」

 それを聞いた椛と理貴は「それなら自分たちが」と居間から出ようとする。

「ぼくの部屋で話します」

 心はいたたまれない気持ちだった。

 純を部屋まで案内し、ベッドの横の小さいテーブルを挟むように座る。

「純さん、ぼくはあなたにお話したいことがあります。でも純さんはぼくの話を聞いて不快に思うかもしれません」

(ぼくはどうして、こんな言い方を……)

 慎と屋上で話した時と同じ、自分が嫌われることを恐れた言い回し。

「たとえ私が不快に思う内容であっても、心にとって大切なことなら話してほしい」

(どうして、ぼくが好きになる人は同じような受け答えをするの?なんでぼくを受け止めるように見つめるの?)

 純は知るはずもない慎と同じように答えたのだ。心は頭を揺さぶられる気がした。

 しかし、純の返答は心に慎のときと同じように、自分のことを純に伝えようと決心させた。 

(ぼくは、純さんに自分のことを伝える。ぼくが思っていることを、ぼくがどうしたいのかを)

 ゆっくりと息を吐き出した心の唇から、純に向けて言葉を紡ぐ。

「純さん。前に純さんがぼくに想いを打ち明けてくれたとき、ぼくはすぐに回答できないって言ったと思うんだ。今日はそのことで純さんを呼んだんだ。」

 焦ることも、驚くこともなく、純は静かに頷いた。

 心はゆっくりと話始めた。

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