第4話 きっとぼくも好きになった
食事の後、心たちが帰宅する際は純が車を手配してくれていた。純は心と今後のことを話したいから同乗したいと言いだした。もっともらしい理由だったが純が名残惜しいというのが多分にあった。心は快諾し心と純で同じ車両に乗り込む。
心たちが帰宅するまでのわずかな時間。そのなかで純と心は今後の予定について話し合った。 椛と理貴は別の車両に乗っているため、心と純は二人の時間を過ごすことになった。
純としてはそれだけでも満足だった。心はまた会うと約束してくれた。名残り惜しい気持ちもあるが、慣れないことをして疲れているであろう心をこれ以上無理やり拘束する気に純はなれなかった。ただでさえ、半ば強引ともいえるようなかたちで心を食事に誘ったのだ。心に対して申し訳ないと思う気持ちも純にはあった。
複雑な思いを抱えている純に対して、心が質問しはじめた。
「ねえ、純さん聞きたいことがあるの」
真剣な表情で質問してきた心に純は内心、何事かと思いながらも「どうした?」と聞き返した。
「食事のとき、ぼく……間違えていたでしょ? どうして純さんまで、ぼくにあわせて間違えたの?」
純は少し考えてから答えた。
「あれは、私なりに配慮したつもりだったのだが……迷惑だったか?」
純は答えながら、だんだんと不安な気持ちになっていた。食事のときに心に対して純が気を遣ったことは偽りない。しかし、今の受け答えは「心が恥をかく」という前提でなおかつ上からの物言いだったのではないかと純は自覚した。
ドツボにはまっていく純に心は笑顔を向けて話す。
「全然迷惑じゃなかったよ。ありがとう純さん。でも、次からは教えて欲しいかな。ぼくの方が純さんに迷惑かけちゃうかも知れないし、ぼくも色々と知ることができたらうれしいからね」
純は心の言動に、先程の食事で飲んだアルコールの酔いとは違う高揚感のようなものを覚え、頭がクラクラし始めた。それでも二人は会話を続けた。
「そういえば、純さんは言葉遣いがだいぶかわったね」
「私も緊張していたんだな。心が私と友人になってくれると言ってくれたおかげで、私も少しは距離感をつかめるようになったのかもしれない。それをいうなら心も変わったと思うがな」
「そうだね。ぼくも純さんと仲良くいられる距離感をつかみたいな」
これは心の本心だった。友人としてだけでなく、その先の関係ももしかしたらあり得るかもしれない。だが、純がどれほど心のことを想っていても、友人以上の関係にはなれない。少なくとも今は、まだ心にはやらなければならないことがあった。
心の頭の中で純や自分のやるべきことがグルグルと回りだす。
心がそうこう考えているうちに心の自宅に着いた。純とはここでお別れだ。おそらく心が今まで見た中で一番穏やかで優しい顔をしているであろう純に向かって、心は手を振り「またね」と別れを告げた。
家のなかに入ったときに心は、純との別れが惜しいと思う自分に気がついた。出会ってから実際に顔を合わせるのは三回目だというのにここまで淋しくなるものなのか。
(ぼくも純さんに一目惚れしたのかな?)
そんなことまで考え始めるほどだった。
部屋のなかで心は色々と悩みながらも、次会うときじゃなくてもいいから、いつかは純に自分のことを打ち明けようと決めた。
シャワー浴びたらこのモヤモヤとした気持ちも晴れるだろうかと思いながら心は服を脱いだ。
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