#80 ビースト VS クリスタルゴーレム

観客席からは、悲鳴が聴こえた後多くの人が退散していった。


《神秘のクリスタルゴ―レム》

巨大な結晶の周りにはキラキラとした粒子のような物が浮かんでおり、

その名の通り神秘性を感じさせる魔物だった。


『ウガァアア……』


結晶人形は片腕を前方に向けると、

腕の上から生み出される多くの小さな結晶を私達に向かって飛ばす。

私やギュンタ―を交互に狙う結晶人形。


私は、たやすく結晶人形クリスタルゴーレムの攻撃をかわしていく。

ギュンタ―は、巨大な鉈を振り回し、結晶を弾いていった。


「逃げる……ワケには行かないようだな」

「そうね……!」


私達が逃げたせいであのクリスタルゴ―レムが、

街――《タイタン》内部まで侵入したら大変なことになる。

それだけは避けないと……。


ギュンタ―は鉈を構え――、


「ハァ……ッ!」


小さな掛け声と共に、結晶人形に向かって飛び出す。

私もそれに合わせ、槍をしっかりと握り走り出した……。

そのまま、結晶人形の腕を槍で斬る。


――シュピン!


アイツの腕にはには小さな傷が広がった。

だが、結晶人形は動じずそのまま太い腕で私を殴る。


「あがッ……」


殴られた勢いで私は倒れ込む。

結晶人形はそのスキを逃すまいと、腕を前に出し結晶を飛ばす。


「……危ないッ!」


白髪の彼は鉈を飛んできた結晶に向かってキンっと弾く。


「起き上がれるか? リシテア」

「ありがとう……」


私は起き上がり、槍を構え直す。

しかし……結晶人形は追撃をかけてくる。


「な、なに?」


私達のすぐ近くの地面に巨大な結晶を出現させ――それは爆発した。

結晶は破片となり、私達に襲いかかる……。


「……ッ!」

「クッ……」


破片のダメ―ジと共に、爆発の勢いで軽く後ろに滑り込む私達。

その間にも、クリスタルゴ―レムは私達に接近する。


――ズドン! ズドン!


つ、強い……。


「大丈夫?」

「あ、ああ……だが、あのクリスタルゴ―レム……強いですね……!」


どうしようかと考えていると、背後から聞き慣れた声。


「全く……《ネ―ム持ち》も大した事ないんじゃのう……」


後ろを振り向くと、一人の小さい少女。

狐のような獣の耳と尻尾を生やした栗色の髪に瞳の少女がそこにいた。


「あ、あなた……! こんな所にいたら危ないわよ! 早く逃げて……!」

「逃げる? ワシも戦ってやろうというのじゃよ」

「あなたには敵う相手では無いわ! 《ネ―ム》も無いんだから……!」

「《ネ―ム持ち》で無いものがと誰が決めたのじゃ……? まあ見てるがいい!」


そう言うと、獣の少女は耳をピンと張り、

尻尾をツンと立てると。ショ―トソ―ドを取り出した。


――シャキン


ショ―トソ―ド。普通よりも少し短めで、細い剣だ。


「そんな武器じゃ傷一つ付けられない! いいから早く逃げてッ!」


私が焦ってそう獣の少女に警告すると、


「そうだ……! 貴様では役に立たない!」


白髪の鉈使いも警告してくれた。


私は、もう誰かが死ぬのを見たくないの……! 

だからお願い。言うことを聞いてよっ!


「ワシの名は《ビ―スト》と呼ぶといいぞ! 

 まあこれは名前では無いのじゃがな! あっはっはっはっ!」


自分の事を《ビ―スト》と呼んだ獣の少女は大声で笑いながら、

“神秘”のクリスタルゴ―レムに突撃を……!?


――スッ


「……え?」


私は驚いた。ビ―ストは私の風の力を借りた全速力よりも速かったのだ。

そしてその物凄い速度の足で結晶人形に向かって飛び込み――結晶人形の頭部に向かって短剣を深く突き刺した。


『ウガァアアアアア!』


ダメ―ジが響いたのか結晶人形は暴れだした。


「おっと」


ビ―ストは剣を引き抜くと、器用にくるりと一回転しながら地面に着地した。


「あの強さ……まるで《ネ―ム持ち》のようだ。いや、それ以上か?」


ギュンタ―はビ―ストの強さに驚きを隠せないようだった。


「ええ、そうね……」


正直私も驚いていた。彼女があそこまで強かっただなんて……。


「おい馬鹿ども! ワシの分析する暇があったら手伝え!」

「今行くわっ!」


私は風魔法の力を借り、ゴ―レムに向かって突撃した。


「はぁああああああああ――――ッ!」


そのまま勢いに任せて結晶人形に槍を突き刺し――――?!


「なっ……!」


『ウガァアアアアア……!』


だがゴ―レムは、その巨体からは信じられない速度で私の槍を躱したかと思うと、

結晶人形の“脚”持ち上がり――。


避けきれない……!?


「リシテア――――!」 


――ズガ―ン……!


私は軽く飛ばされる。

直後……誰かが巨大なハンマ―で叩きつけられたような物凄い音。

一瞬私があの結晶人形に蹴り飛ばされたのだと思った。

実際、ほんの少し私は飛ばされたのだ。

でも、違った。


私が軽く飛ばされたのは、彼が手で助けてくれたからだ。


「ギュ、ンタ―……?」


物凄い音が聞こえたのは、アイツに蹴られたからじゃない。

ギュンタ―は、踏み潰されたのだ。あのクリスタルゴ―レムに……。

彼は、ぴくりとも動かない。

その代わりに彼の体から大量の血が流れ、地面は血に染まっていく――。


「――――――!」


私は、声にならない声を上げながらギュンターがいる所まで近づいた。


踏み潰された彼は、血まみれで倒れている。


「ギュンタ―……ッ! 私ッ……わたし……ッ!」


私はふらふらとよろめきながら彼に近づく。


「ど、どうして……私をかばったの……? 初対面の私を……」


私は声が掠れて、はっきりと喋ることが出来なかった。

すると、ギュンタ―の首はゆっくり私の方を向き、


というのは……単純に戦闘能力を表すだけではないと思ったからだ……」


彼は今にも途絶えそうな息を吐きながらゆっくりと喋る。


「誰かの……為に……は……時には命を投げ出す……それも強さだと思ったからだ……ッ!」

「そ、そんな………!」


彼の息は少しずつ細くなっていき、言葉も小さくなっていく。


「リシテア……私の代わりに……強くなってくれ……。

 誰からも尊敬されるような強さを……!」

「分かった……! 私、強くなるから……!」


「――――君なら、きっと……強く、なれ、る……」


ギュンターの息はそこで途絶える。


「――――――ッ!!」


激しい怒りで感情をコントロ―ル出来なくなった私は、

我を忘れクリスタルゴ―レムに向かって猛攻を仕掛ける――――ッ!

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