#81 獣の少女ビースト

少し前までハヤトくん達と旅をしていた私――リシテアは、夢を見る。怖い夢だ。

誰かが、巨大な人形に踏み潰される夢。

踏み潰された彼は、血まみれで倒れている。


『ギュンタ―……ッ! 私ッ……わたし……ッ!』


夢の中で私は喋っている。

倒れている白髪の男は私を庇い、犠牲になったのだ。

気がつくと、巨大な人形は姿を消していた。


私はふらふらとよろめきながら彼に近づく。


『ど、どうして……私をかばったの……? 初対面の私を……』


私は声が掠れて、はっきりと喋ることが出来なかった。

すると、ギュンタ―の首はゆっくり私の方を向き、


『強さというのは……ただ戦闘能力を表すだけではないと思ったからだ……』


夢の中の彼は今にも途絶えそうな息を吐きながらゆっくりと喋る。


『誰かの……為に……は……時には命を投げ出す……それも強さだと思ったからだ……ッ!』

『そ、そんな………!』


彼の息は少しずつ細くなっていき、言葉も小さくなっていく。


『リシテア……私の代わりに……強くなってくれ……。

 “誰からも尊敬される”ような強さを……!』

『分かった……! 私、強くなるから……!』


『――――君なら、きっと……強く、なれ、る……』


そうして、彼の息は途絶えた。


――――こうして、私の夢は終わり現実世界で起こったことを、

夢の中で再現しているのだということに今頃気づいた。


…………。


………。


……。


「ギュンタ――――ッ!」


目が覚めた私は大声で叫んでいた。


「目が覚めたか? 大馬鹿者め」


私はベッドの上だった。

目の前には、獣耳と尻尾を生やしたショ―トソ―ド使い。


「《ビ―スト》……? 私は、確か……」

「お前は、クリスタルゴ―レムに怒りに任せて突っ込んでいったのじゃ」

「じゃあ、あれは現実……?」


まだ意識がハッキリしていない私は夢と現実の区別が付かなくなっていた。


「現実に決まっているじゃろうが。お前は突っ込んでいった後、ゴ―レムに殴られて倒れたのじゃ」


《ビ―スト》を名乗る獣の少女はそういった。


彼女いわく、ギュンタ―が殺られた後……。

私は《“神秘”のクリスタルゴ―レム》に突っ込み攻撃をいくつか叩き込んだ後、

あの結晶人形クリスタルゴーレムに殴られ気絶したらしい。


「……あのゴ―レムはどうなったの?」


まさか、あのまま《タイタン》に侵攻して……大変な事になってるんじゃ……?

私はもしもの事態を考え恐怖する。


「アイツはワシが倒した。だから安心するといい!」


ビ―ストは仁王におう立ちをして誇らしげにそう言った。


「ビ―ストが倒したの……? 信じられない……」


あの結晶人形は相当強かった筈。それを一人で倒した……?


「まあ、お前とあの男がダメ―ジを与えてくれいたからな! ワシはトドメを刺しただけじゃ」


彼女はそう言うが、あのゴ―レムはそこまで深手を負っていなかった筈だ。

私は気を失う直前に猛攻を仕掛けたが、

それでも“トドメを刺せる程”じゃ無かったはず。


彼女は、一体……?


「お前、強くなりたいのじゃろ? ならば、手を貸してやってもいいぞ」


ビ―ストは尻尾を振りながらそう言った。


「え?」

「お前、さっき寝言で散々“強くなりたい”って言ってたじゃろうが」

「そう、なの……?」


確かに、夢の中で私は強くなりたいと願っていたような気がする。

何故ならば、私は弱いから……。

だから、きっと夢の中にまでその想いが反映されたのだ……。


「強く、なりたい……」


私はボソっと呟く。


「そうかそうかっ! なら決まりじゃ! 一緒に特訓するぞっ!」


ビ―ストは何やら楽しそうに、


「ほれっ! さっさと起きろ! じゃないと蹴飛ばしてでも起こすからの!」


そんな事を言いながら、ベッドから引きずり降ろそうとする。


「特訓……って――」

「――いいからついて来い!」


そう言い、ビ―ストは私の腕を引っ張り強引に上体を起こす。

更に彼女はぐぐぐ……っと腕がはち切れんばかりの力で引っ張り続ける――痛ッ!


「わ、わかったから手! 手を離してっ! い、痛い!」


――ミシミシ……。


彼女はようやく引っ張る手を離す。


「ならとっとと支度してこの宿から出てこい。ワシは先に待っておるぞ!」


――バタン


そう言うと、ビ―ストは宿から出ていった。

あの娘……なんて怪力なの? 


……《ビ―スト》。


狐のような耳と長い尻尾を生やした背丈がかなり低い謎の少女。

耳と尻尾がある種族なんて見たことが無い。

いいえ、この世界に人型のなんて実質だ。

ならば、あの娘は一体……?


それだけじゃない……。


私や今は亡きギュンタ―……のような《ネ―ム持ち》でもないのに、

彼女はどうやら恐るべき戦闘力を持っているようだった。


なのにも関わらず、ギュンタ―や《ネ―ムキラ―》のように、

名前を手に入れようともしない。 ……一体どうして?


彼女の強さなら既に名前があってもいいはずだ。


それと、彼女はどこで手に入れたのか分からない、

“作りがとてもしっかりとした服”を着ていた。

まるで、私やハヤトくんの仲間のような、をしていた。


なんとなくそれが気になった。

これらの事は、いつかビ―ストに聞いてみよう。


私は考えるのをやめて宿を出た……。

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