#79 クリスタルゴーレムの襲撃

槍で弾き飛ばした氷の矢は地面に刺さった。

矢が飛んできた方向を見ると、もうそこには弓兵の姿は無かった。


「君……は……ッ! 《ネ―ム持ち》……!?」


ギュンタ―は私を見て驚いている。

しかしもっと驚愕しているのは、

さっきまでギュンタ―を襲っていた《ネ―ムキラ―》の集団だった。

突然の闖入ちんにゅう者に、彼らの攻撃がピタりと止む。


「大丈夫? ギュンタ―……さん」

「……私のことはギュンタ―で構わない。しかし驚いた――」


ギュンタ―が話している最中に、《ネ―ムキラ―》の剣士の一人が呟いた。


「――《ネ―ム持ち》が二人!? 《リシテア》……? 聞いたことが無い名前だ……」


ネ―ムキラ―は私達を取り囲むように陣取っていた。


「見たかさっきの……あの女、氷の矢を槍で弾き飛ばしたぞ!?」


そう呟いたのはフ―ドを被った魔法使い。


「さて、と……」


私はネ―ムキラ―達をキッと睨みつけ、


「あなた達はどうするの? まだ戦うのかしら?」


槍を器用に高速で回転させてからピタリと止めて見せた。

できれば、これで退却して欲しい……のだが。


「《ネ―ム持ち》が二人……こんなチャンス滅多に無い……そうだよなぁ!?」


私の背後に居た弓兵は他のネ―ムキラ―達に向かってそう叫んだ。

そして、ギリリ……と弓を引き絞る音が聞こえる。

嘘でしょう?!


「そ、そうだ! 一人増えただけだ! こっちは十人以上いる……ッ!」


正面にいる剣士達は少し怯えながらも、ガシっと剣を構え直した。

この人達、正気なの……?


「どうやら、彼らはやる気らしいですね……。論理的に考えることが出来ないようだ」


私は答える。


「……ギュンタ―。後ろの人たちをお願い。私は正面の彼らをなんとかするわ」


ギュンタ―は、鉈を地面にキィィンと突き立て、


「分かりました。後ろは任せてください……。《ネ―ム持ち》の力、見せつけてやりますよ」


そう言い、彼の小さめの体にはとても不釣り合いな大きさの鉈を、

ずるずると地面に引きずりながら私と反対の方向をゆっくりと歩く。


「死ねェ《ネ―ム持ち》共!」


ネ―ムキラ―の一人がそう叫ぶと、他の名もなき彼らも攻撃を仕掛けて来た。

それに合わせて私は飛び出した。


――ジャキン! ジャキン! ジャキン! ジャキン!


目の前にいた剣士の攻撃を全て槍で打ち返し、

その剣士の後方にいた弓兵から飛んできた複数の弓矢を、全て槍で弾き飛ばす。

魔法使いのロッドから繰り出された追撃の炎魔法は、風魔法で私の足元に小さな竜巻を発生させ、

私は宙に舞い上がり、その全てを回避した。


「それで終わりかしら?」


その言葉に――或いは私の迎撃、回避能力に恐れたのか、私の前方に居た一瞬彼らは怯む。

チャンス……だ。

そう思った私は、槍に風をまとわせ腰を低くし、攻撃態勢に入る……。


「《スパイラル・ゲイルスピア!》


――ズァアアアン!


私の正面――斜め上空に突き出した槍から真っ直ぐ放たれたそれは、一直線に綺麗に伸びた風の線だった。

線はもの凄い風で、近づくことは出来ない。

風の線の周りは、螺旋状で出来た雲のようなものが渦巻うずまいていた。

その螺旋状の雲にも恐ろしいほどの風が纏っており、この風の線の威力を更に高めている。


「…………何!?」


彼らは一瞬驚くも、風に巻き込まれる。


直撃したら一溜まりもない、渾身こんしんの一撃だった。彼らは一瞬驚いた後、

風圧に巻き込まれて約十メ―トル先まで吹き飛び、気を失ったようだ。

私はネ―ムキラ―と呼ばれた名もなき彼らを殺したくは無かったので、

あえて斜め上空にスキルを発動させたのだ。


「ふぅ……なんとかなったわね……」


――ジジジジジ……


何かが擦れるような音が聴こえた。

音が聴こえた方に振り向く、そこには巨大な鉈を構えるギュンタ―がいた。


そしてそこには、倒れている数名のネ―ムキラ―達。


「君の方も片付いたようだな。当然と言えば当然だがな」


ギュンタ―は鉈を手元から消す。


「さすがね、ギュンタ―。五人を相手に一人で倒すなんて……」

「君の方は六人じゃないか」


ギュンタ―は遠くで倒れている《ネ―ムキラ―》達を指差す。


「彼らが弱かっただけよ」


観客席を見ると、もう殆ど人は残っていなかった。

私が座っていた場所を見ると、獣の少女はまだ席に座っていた。


「そうかね? ……まあ、助けてくれたことに礼を言うよ。では私は……」


彼が踵を返そうとしたその瞬間――。


――ズドン! ズドン!


「な、何の音?」


すぐ近くで、ズドン、ズドンという、

闘技場の隅の――壁を殴るような音が聴こえる。


「強大な何かが、奥の壁を叩いているのか……?」


ギュンタ―は音の聴こえる方向を見る。


――ドッシャ―ン!


そして、壁は何者かにぶち破られた。

壁には範囲五メ―トル程の巨大な穴が開く……。


奥から姿を現したのは――体中に綺麗な結晶を生やしている巨大な動く人形。

ドシンドシンと私達の方に向かってゆっくり歩いてくる。

ゆっくりと言っても歩幅が凄まじいので移動速度はかなり速い。


『ウガアア……』


「あれは……」


白髪の鉈使いは全長五メ―トル強の結晶を生やした人形を凝視していた。

私の視界に映ったその魔物の名は……。


「“神秘”のクリスタルゴ―レム……!」


『ウガアア……!』


――ズシン! ズシン!


結晶人形クリスタルゴーレムは私達に襲いかかる――――ッ!

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