#74 心を閉ざした少女

…………。


………。


……。


俺は、ゆっくりとまぶたを開ける――。


「ハヤトさんっ! 良かった……」


「イ……オ……?」


目の前にはイオの姿。

周りにはコ―デリアとフェ―ベとレアがいる。


っていうかここはどこだ……? ベッドの上だ。


「ここは、どこだ? 俺は船の中に――船のみんなは!?」


俺はさっきまで《飛行戦艦》に居たはずだ。

それで、エンジンが暴走して……。


「……あの船は、えんじん? が暴走して、落下したんだ。ハヤト」


そう薄紫髪の少女――フェ―ベはそう言った。

エンジンの暴走……そうだ。あのときエンジンをコントロ―ルしていた魔力が増幅して……。

そして、俺と騎士や作業員はは船から脱出しようと逃げようとして――。

……それで、どうなったんだ?

嫌な、予感がする。


「船のみんなはどうなったんだ……?」

「船にいた何人かの人間は……死んだ」


フェ―ベはそう答えた。


死んだ。


俺はベッドから起き上がる。


「……あのお船は暴走を起こして落下しました」


イオはそう俯きながらそう言った。

落下……。


「乗員ごと地面に墜落したのですわ……」

「嘘だよな……?」

「……そのついらくの衝撃で多くの人が亡くなられたそうですっ」

「死亡者は約三名……。怪我人四十……」


「もういいッ!」


俺は大声で怒鳴った。


「すまない、ハヤト……」

「すみません、ハヤト様……」

「ごめんなさい。お兄ちゃんっ……」

「ハヤトさん……」


「……すまない。外の空気を吸ってくる――リシテアは?」


そう言えばさっきからリシテアの姿が無い。


「お姉ちゃんは……いなくなりました」


レアはそう応える。


「まさか……墜落ついらくに巻き込まれて……?」


いなく……なった……?

心臓がドキリと跳ね出し、額に汗が流れながら、レアに訊く。


「違いますっ。お姉ちゃんは人が亡くなられたことがショックでどこかに走っていきましたっ!」

「なぜ追いかけなかったんだ!?」

「追いかけましたっ! ですけどお姉ちゃんは足が早くて……」


……リシテアは風属性の移動速度バフスキルを使って遠くに行ったのだろうか?


どうやってリシテアを探そうか……いや、大体の場所は掴めるはずだ。

俺はUIからメニュ―を展開し、“マップ”を開く。


すると、この世界全体の地図がおおまかに表示される。

この機能は加賀美がこのゲ―ムに新しく追加してくれた機能だ。


そして、地図に色付きの光点が表示される。

俺達の属性に一致した光点が地図の上で光っている。

表示されている光点は……。


黒……無属性の俺。

白……雷属性のレア。

赤……炎、氷属性のイオ。

黄……光属性のコ―デリア。

紫……闇属性のフェ―ベ。


風属性のリシテアは緑で点滅しているはずだが……。

どこを見ても……無い。


――無い!?


『加賀美、聞こえるか? どうしてリシテアの光点がないんだ?』


俺は心のなかでこの世界を監視している加賀美かがみに語りかける。


『……わからない』

『わからない?』

『だが推測はできる。彼女は心を閉ざしたんじゃないかな』

『心を閉ざした?』

『ああ。船の事故で数名が死んだ。さっきレアもショックで走っていったと言っていただろう』


リシテアが……心を閉ざした……か。

そりゃそうかもな。だって彼女は《ディオ―ネ》の騎士団長をやっていたんだ。責任も感じていただろう。

それに……あの船を考案したのは彼女だと彼女自身がそう言っていた……。


『それで心を閉ざした影響でマップにも映らなくなった?』

『そう考えることはできる。なぜならこの光点は君にデ―タを“関連付け”させて表示させているからね』

『なるほど……?』

『そう。どうやらこの世界は“心”による影響でデ―タに様々な変化が起きているようだからね』


心による影響がゲ―ムデ―タをも改変する力が働くってことか……。


『……なんとなくわかった。ありがとう』

『彼女の居場所を突き止められないか僕なりの手段で探してみるよ』

『毎回世話になる。頼む』

『ああ。それに僕はもうそろそろ……』

『そろそろ?』

『いや、なんでもない。まあ、任せてよ』

『ああ』


会話は終了し、俺は外に向かう。

部屋を出ると、どうやらここは城の一部だということが分かった。

ああ、そういうことか。

ここは、以前来た《ディオ―ネ》にある城だったのか……。

俺は、そこまで運ばれてきたっていうことか。


「ハヤトさん! イオも行きます!」

「わ、わたしもっ」

「……私を置いていくなハヤト」

「待つのですわー!」


後ろからぱたぱたと走ってくる音が聴こえた。

彼女たちと合流し、城を出た。


視界の奥から、煙が上がっているのが見えた。

あそこで……大勢の人たちが……。

クソッ……。

俺は自然に駆け出していた。


「はぁっ……! はぁ……っ!」


巨大な船が煙を上げ、地面に横たわっている。

地面はわずかにひびが入っており、落下したときの衝撃は相当なものだったのだろう。

艦底部は大ダメ―ジを受けており、修復には結構かかりそうだった。


クソッ……!

どうしてだ……!

これも俺の設定ミスのせいなのか……?!


『また、君の設定ミスだと……。そう考えているのだろう?』

「じゃなかったらなんだっていうんだ!?」

「ハヤトさん?」


俺は心で会話するのも忘れ、独り言を喋っていた。


『いいかい。今回は――設定ミスの可能性は……低い』


……なんだって?


「設定ミスじゃ……ない?」

『ああ、そうだ。君があの船のエンジンル―ムにいたときの騎士のセリフを思い出してみるといい』

「…………」


俺は、事故の直前、船内を案内をしてくれた騎士との会話を思い出していた……。


『あれは一定の魔力をエンジンに流してコントロ―ルしている。あの紫色の光は魔力そのものなんです』

『一定? でもあのエンジン……段々光が増幅していったように見えたが……?』

『その通りです。ですから、あのように増幅するようなことなど通常ならありえな――!?』


エンジンに使っている魔力は一定だった。

……そして、紫色の光の増幅。つまり、が行われた。

魔力の増幅。そして、エンジンは暴走した……。


「何者かが、あのエンジンに魔力を送り込んだ……?!」

『正解だよ……何者かがあのエンジンに強い魔力を送り込み、に暴走させた』


「――――!?」

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