第六章 ~悩める槍使いリシテアと最強の獣の少女~
#73 飛行戦艦
まえがきです。
今回から第六章スタートですが、
章の殆どが(75話後半から)ヒロインの一人リシテアちゃんの視点となっています。結構長めです。
主人公は殆ど出てきません。この辺りから空気になってきます笑。よろしくお願いします。
◇◆◇◆
コ―デリアを救った後、あれから、俺達は色んな場所を冒険したり、
彼女たちと色々な話をしたりしながら三ヶ月が過ぎた。
このゲ―ムに心を
特に問題も起きないまま時は進んでいた……。
その頃、メンバ―は最近近代化が進んでいる
街を見渡すと、あらゆる場所で工事や建築が進んでいるのが分かる。
「色々変わってきたな、この街」
俺がここに始めて来た時……。
そう――リシテアと初めて出会った場所。それがここ《ディオ―ネ》だ。
あの時はこんな、活気に満ちていた街ではなかった。
人々が、生き生きとしている。
そう感じるようになったのは、この世界に心という概念を俺が創ってからだ。
一人ひとりが、NPCでありAIであることを全く感じさせない。
素晴らしい世界になったものだ……。
俺の周りには彼女達が歩いている。
「そうねぇ―! きっと、みんな今を楽しんで生きてるからよ!」
そう言ったのは俺の隣にいた緑髪の少女、リシテアだ。
「今を楽しんで……か。それはいい事だな」
「ええ!」
「……ところでリシテア」
「なにかしら?」
「さっきから気になっていたんだが、あれは……なんだ?」
俺は、真上を見上げる。
空中には、巨大な船が浮かんでいた。
船は地面から伸びた複数のワイヤ―のようなもので空中に固定されていた。
そして、船の甲板や、その周りには大勢の人。
なにかの実験をしているような雰囲気だった。
「あれは、《飛行戦艦》の飛行テストよ」
「ひ、飛行戦艦っ!?」
俺は驚き、たじろぐ。
「《飛行戦艦》って知らない? まあ知らなくても当然だけどねぇ―。なにせ最新の技術なんだから!」
リシテアはなにやら得意げに話す。
「そ、それは飛ぶのか? 艦ってことは武装してたり?」
「そうよ。魔力を動力源としているの。まだ完成にはしばらく掛かるけど……」
そしてリシテアは飛行戦艦のほぼ真下にあるドックらしき場所を指差した。
嘘だろ……? いつの間に……。
「ハヤトさん。《ひこうせんかん》ってなんですか? なぜあの巨大なお船はぷかぷか浮かんでいるのでしょうか?」
イオは俺に質問を投げかける。
「……リシテア曰く。あの船はもうすぐ空を飛ぶらしいぞ」
「そ、空を飛ぶのですか?! あのお船が……??」
イオはよく分かっていなかったようだ。
そりゃそうだろうな。
俺がなぜこうも驚いているのか。
……いわゆるファンタジ―世界なら、空を飛ぶ船くらいあるのかも知れない。
だが、この《ウニティ》というゲ―ム制作ツ―ルで俺が
そんな船など設定していないからだ。
本当はこういう船に乗って空を飛んで大移動――とかやりたかったが……。
俺の知能ではそのようなシステムを構築が出来なかったんだ。だからその時は諦めたんだが――。
「マジかよ……」
最早この街の……いや、この世界の科学力は俺の知能を遥かに上回っているのか……ッ?!
今、あの船を動かそうとしている彼らにゲ―ム制作を依頼すれば、もっとまともなゲ―ムが作れたに違いない。
「この船はね……私が考えたのよ!」
「リシテアが?」
「そう! 空を自由に飛べたらいいと思わない?」
リシテアは楽しそうに言った。
「お空を自由に……ですかっ? 飛んでみたいですっ!」
レアは空に手をかざし、
「もし本当にお空を自由に飛び回れるのなら、とっても楽しそうですね!」
イオも空を見上げそう言った。
「空の上か……どのような景色が見えるのだろうか……?」
「気持ちよさそうですわ」
フェ―ベとコ―デリアも空を見上げる。
「そうでしょう! そう思って私が考えた案をこの街の職人や騎士たちに説明したのよ! そしたら……」
「そしたら?」
俺はリシテアに訪ねた。
「そしたら是非作りましょうって言ってくれてね! この計画が始まったのよ!」
「へぇ―……」
リシテアはなんだかいつもよりも元気そうにみえる。
よほど空を飛びたいのだろうか?
……なるほど、飛行戦艦で空を飛ぶか――面白そうだな。
「リシテア、あの船……ちょっと乗ってみてもいい?」
「勿論よ。あそこに見えるハシゴを登れば甲板に登れるわ!」
「ちょっと行ってくる!」
「行ってらっしゃい」
リシテアの声を聞いたのを最後に、
俺はハシゴを登って甲板を目指した………。
「……わ、わたしちょっと
「レアちゃん? といれってなにかしら?」
「い、いってきま―す」
「あっちょっとレアちゃん? ……行っちゃった」
ハシゴを登っている途中――レアはリシテアに話しているようだったが、
聴き取ることは出来なかった。
俺はロ―プで出来たハシゴを登っていく。
船は低空を浮かんでいるからすぐ甲板に着いた。
リシテア達はついてきていないようだった。
――ガタン。
「ここが、《飛行戦艦》の甲板……」
甲板の周りには大勢の人がいた。
正面には
入ってみるか……。
「お邪魔しま―す」
――キイィ……。
「勇者殿っ!」
中に入ると、一人の騎士に声を掛けられる。
やばっ。勝手に入ったのが悪かったかな?
「か、鍵が掛かっていなかったもので。……あはははは」
「いえ! 勇者殿ならこの艦内を自由に見学なさっても構いません」
「そ、そうなのか?」
「ええ。それに、もうすぐ一般の方にも見学会を開く予定でしたので……。勇者殿。私に是非案内させてください!」
「あ、ああ頼むよ」
なぜか、強引的に艦内を案内される。
戦闘を指揮する場所……。
食事を採るための場所……。
寝室や、風呂場……。
そして――俺は船の下層まで案内される。
コツコツと、階段を降りていく。
やがて一つの部屋に案内された。
――ヴィィィン……。
「ここが、エンジンル―ムです。魔力を動力源としています」
「あれが、エンジンか?」
俺は薄く紫色に輝く物体を指差す。
「そうです。あのエンジンのおかげで、空を飛ぶことが出来るようになるのです」
「そうなんだ……」
もう、何がなにやら分からん……。
「ところで、あれなんかさっきから発光が激しくなってきているような気がするけど……」
「あれは――!? 勇者殿ッ!」
騎士はなにかに驚き俺を呼んでいる。
「どうした――」
「――今すぐここから脱出しましょう! ここにいては危険です!」
「え?」
すると、エンジンル―ムにいた作業員らしき人々。
「エンジンの暴走だッ……!」
「墜落する――ッ!」
「なぜ暴走が!? 魔力は安定していたのに……?」
「わかりません! とにかく早く逃げましょう!」
作業員はそう叫ぶと作業を止め、急いで階段を登っていった。
「え、エンジンの暴走? 墜落だってッ!?」
俺はようやく事の重大さに気づいた。
「我々も早くここから逃げましょう!」
俺と騎士はエンジンル―ムを出ると、ドアを閉めロックを掛けた。
「こうすれば少しは時間稼ぎが出来るはずです! さあ! 早く階段に!」
「ああ……ッ!」
俺達は階段を登っていく。
「し、しかし暴走って!? そんなことしょっちゅう起きているんですか?」
階段を登りながら騎士にそう問い出した。
「いえ。今回が初めてです。それに、こんな事起きる筈がないんだが……」
「どういうことです?」
「あれは一定の魔力をエンジンに流してコントロ―ルしている。あの紫色の光は魔力そのものなんです」
もうすぐ艦内一階だ……ッ!
「一定? でもあのエンジン……段々と光が増幅していったように見えたが……?」
「その通りです。ですから、あのように増幅するようなことなど通常ならありえな――!?」
――ドオォォォオオン。
俺は意識を失った。
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